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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

貴女に会えた奇跡。

変身(初回生産限定盤)(DVD付)

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 奇跡の3人。チャットモンチーは誇張でもなんでもなく、その言葉が似合うバンドだった。徳島という場所で、この3人が出会いバンドを組んだこと自体が奇跡であり、ずっと僕らはその魔法に魅せられていくのだと、そう思っていた。チャットモンチーから高橋久美子が脱退すると聞いた時、その魔法が解けてしまった絶望と、果たして残された二人はどうするのだろうか、という思いがよぎった。
 結果、橋本絵莉子福岡晃子の2人は新しいドラマーを加入させるでもなく、サポートすら呼ばず、2人でバンドを存続することを選んだ。ライブも2人で行うと。一体どうやって?福岡は初心者からドラムをはじめ、曲によってはベース、ピアノ、様々な楽器を2人で演奏していくという。なぜ、そこまでして2人にこだわるのか。なぜ、サポートや新メンバーを入れることを考えないのだろうか。これは僕の勝手な予想だが、新しいメンバーが加わっても、その人はチャットモンチーではないからだと思う。チャットモンチーは橋本、福岡、高橋の3人であって、それ以外の人間はチャットモンチーではないのである。チャットモンチーではない人間と同じステージに立って「チャットモンチーです」とは言えない。橋本も福岡も「自分がチャットモンチーだ」という想いを強く持っていると思うが、それは軽々しく他人が扱える言葉ではないのだと思う。チャットモンチーという名前は、それほどに重い。高橋はおそらくその重さに、2人と同じテンションで向き合えなくなったのだろう。いや、向き合えていなかったことを誤魔化せなくなったのか。それをだましだまし続けられるほど、チャットモンチーは易しいバンドではなかったのだと思う。
 このアルバムには2人でも何とかしなくちゃいけない、というような悲壮感は微塵も感じられない。3人が2人になったのだから、そりゃあ音はスカスカである。始めてまだ1年足らずの福岡のドラムもがんばってはいるけれど不安定だし、速いパッセージは叩けない。にも関わらず、このアルバムは本当に素晴らしい。音の粒がキラキラと輝くような新鮮さと陽性のエネルギーに満ちている。前作『YOU MORE』ではセルフプロデュースをした結果、無尽蔵なアイディアが所狭しと飛び交うようなじゃじゃ馬なアルバムとなったが、本作もいい意味でその延長線上にある。突飛なアイディアや遊び半分の音楽的トライアルは2人でどうやって音を鳴らすかという一点に特化されている。彼女らでなければこの編成でこんな音のアルバムは作れなかっただろう。橋本絵莉子のハイトーンな声がきらびやかなメロディーをなぞる時、オルタナティブなギターがストロークされる時、ドタドタしたドラムが脳みそを揺らす時、僕はいちいち泣きそうになってしまう。
 今作では橋本の作詞が増えているが、これまでの彼女の作風とは若干変わっているのも興味深い。危機的状況からそれでも力強く前を向き、ユーモアを交えつつひらりとハードルを飛び越える。そんなポジティブなパワーが感じられる。対して福岡の詞からは絶対に止まらない、止まってたまるかというアグレッシブな覚悟と同時に、この状況に対するナイーヴな感情の揺れも表れている。2人がそれぞれこの局面とどのように向き合っていたかが透けて見えるようで興味深い。
 2人になっても奇跡は続いていた。彼女らがチャットモンチーなのであり、他には何も必要ない。バンド存続の危機と言える局面を、彼女らはあまりにも軽やかに、当たり前のように素晴らしい音楽で乗り切った。勿論ここに至る道が平坦ではなかったことは想像に難くないが、そう思わせないのがチャットモンチーの凄さ。チャットモンチーであり続ける彼女らの覚悟と決意に付いて行ける人間はこの地球上には最早いないだろう。だからこそ、唯一無二のバンドであるのだ。