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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

曽我部恵一BANDのライヴを見た人たちが思わず笑顔になってしまうささやかだけれど絶対的な理由。

曽我部恵一BAND TOUR 2013 トーキョー・コーリング
■2013/03/03@札幌ベッシーホール
 4月にアルバム『曽我部恵一BAND』をリリースし、その後のツアー。12月にアルバム『トーキョー・コーリング』をリリースし、今回のツアー。1年で2枚のアルバムを作り、2度のツアーを回る。つい先日は新しいライヴアルバムもリリースした。ソロにバンドにと多作な人ではあるが、今の曽我部恵一BANDはこれまで以上に精力的に活動していると思う。
 曽我部恵一BANDは『キラキラ!』や『ハピネス!』など、タイトルからも想像つくようにロックンロールの衝動や楽しさをストレートに体現するようなアルバムをこれまで作ってきた。しかし『曽我部恵一BAND』というアルバムはそれらとは違い、重く閉塞的な現実に向き合い、そこから希望の光を見出そうという意志の強さを感じるアルバムだった。震災後の日本の状況ということも少なからず関係しているのだとは思う。一言で言うならジャーナリスティックなアルバムですらあったと思う。今のようにインターネットなどなかった時代は、ロックミュージシャンが歌う言葉や語る言葉にもっと重みがあったように思う。まだ世の中を知らない若者がそこから情報や知識を得るということもあったわけだ(それが偏ったものであったとしても)。ノスタルジーではなく、今だからこそロックはそういう言葉を取り戻さなければいけないのではないか、と曽我部恵一が思ったかどうかは定かではない。でも僕は「街の冬」や「ソング・フォー・シェルター」からそんなオールド・ロックの気風を感じるのである。「おお坊や そっちはどうだい?」という問いかけはボブ・ディランの「How does it feel?」に呼応しているのではないか、などと考えたりもする。
 続いてリリースされた『トーキョー・コーリング』は前作の熱さや重さに対し、打ち込みも用いたどこか冷淡で諦念すら漂う乾いたサウンドだった。歌詞も抽象的・散文的内容が多く、遅れてきた渋谷系というかサニーデイサービスの後期というか、前作の暑苦しさはどこに行ってしまったのだろう、という感じだった。しかし僕はこの2枚のアルバムにある飛躍は変化ではなく、コインの裏表のようなものではないかと思っていた。一種の反動とでも言うか、どちらかだけでは成立しない、対になったものではないかと。その予想は、この日のライヴではっきりと確信に変わった。曽我部恵一自身も「兄弟のようなアルバム」と言っていたが、何よりもこの2作からの曲がライヴにおいては全く同じモードで地続きに演奏されていたからだ。その間には、何の違和感も齟齬も存在していなかった。当然、以前からのレパートリーがそこに入っても違和感はない。いつもの曽我部恵一BANDのライヴである。
 汗が飛び散り、曽我部恵一が全力でシャウトし、メロウなメロディーに涙し、明日へ向かう言葉に感動する。ここには、喜怒哀楽全ての感情がある。人生は楽しさだけではやっていけない。辛いことも苦しいことも、腹が立つこともある。それをどうにかやり過ごして、満員電車に揺られながら人々は日々の日常を送る。その時に背中を押したり、共感したり、慰めたり、反論したりするのが曽我部恵一の曲だ。腹を割って話せる、気のおけない親友。曽我部恵一の曲は、そんな存在であり、曽我部恵一BANDのライヴはそんな親友との親密なコミュニケーションの場である。「そっちはどうだい?」「今んとこはまあ、こんな感じなんだ」
 いつものようにサービスたっぷりに全26曲。本編最後の「LOVE-SICK」はその場で急遽差し込んだ感じだった。どこがクライマックスと言えないくらい最高のライヴだったが、札幌市民としてはやはり「街の冬」を生で聞くと複雑な感情になってしまう。そこから「月夜のメロディ」の流れが感情のピーク。「テレフォンラブ」「ロックンロール」から始まる後半戦の幕開けがものすごく開放的だった。ガツガツしすぎることもなく、緩すぎるわけでもない。絶妙の緊張と緩和。そんな中、あの場にいた全員をリラックスさせる子供の声。それが当たり前のように存在できるのも、曽我部恵一BANDならではだろう。基本的に愛に満ちた空間なのだ。大げさかもしれないが、自分の人生に曽我部恵一の曲があってよかったと思える時間。そういうライヴだったと思う。涙しながらでも、笑顔にならないわけがない。

■SET LIST
1.トーキョー・コーリング
2.ルビィ
3.ほし
4.天使
5.She's A Rider
6.スウィング時代
7.ワルツ
8.きみの愛だけがぼくのハートをこわす
9.キラキラ
10.街の冬
11.月夜のメロディ
12.サーカス
13.テレフォンラブ
14.ロックンロール
15.シモーヌ
16.オレと彼女が晴れた日の午後に笑うささやかだけれど絶対的な理由
17.恋人たちのロック
18.満員電車は走る
19.雪
20.どうしたの?
21.青春狂走曲
22.魔法のバスに乗って
23.Stars
24.LOVE-SICK
<アンコール>
25.そして最後にはいつもの夜が来て
26.Mellow mind

トーキョー・コーリング

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曽我部恵一BAND

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