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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

マスターピース。

POP STATION

POP STATION

 NONA REEVES、4年ぶりのオリジナル新作。80年代洋楽カバーのシリーズ『CHOICE』『CHOICE II』があったものの、オリジナルとしては2009年の『GO』まで遡る。この4年でバンドをめぐる環境は激変した。フロントマンである西寺郷太マイケル・ジャクソン研究の第一人者として、あるいはポップミュージック全般の幅広い見識を持つ論客として、様々なメディアで活躍をしたことが大きい。ジャニーズやアイドル関係のソングライティング・プロデュース業も多く、現在のJ-POPにおける重要人物の一人と言えるほどの存在感である。奥田健介、小松シゲルも各々多くのアーティストのサポートで精力的に活動している。そんな状態で本家ノーナの新作が出るということは、どれだけすごいものを聞かせてくれるのか、とハードルが上がりきった状態でのリリースということになる。注目度もバンド史上最高と言っていいのでないか。果たしてこの新作は、その上がりきったハードルを軽々と飛び越える眩いほどのポップアルバムとなっている。
 冒頭の「P-O-P-T-R-A-I-N」からいきなり、ヘッドホンから、あるいはスピーカから音の粒がキラキラと飛び出してくるかのような高揚感である。TBSラジオ「トップ5」用に作ったジングルを元にしたこの曲はラジオから不意に流れてきた曲に衝撃を受けるような経験、そういう驚きと喜びを見事に鳴らしている。ラジオというメディアに対するノーナからの感謝とリスペクトであり、アルバムタイトルの「ステーション」は駅というだけではなく、ラジオ局の意味もあるのではと推測する。この曲をはじめ収録された全10曲はどれもキャラクターが明快で、聞き手を楽しませ、飽きさせないための仕掛けがふんだんに盛り込まれている。もちろん、その中には過去のポップスからの引用やオマージュも多い。元ネタを知っていればニヤリとできるが、知らなくても本作を楽しむのに何の支障もない。素晴らしいライナーノーツがついているので、興味ある人はそこから過去作や元ネタを辿っていくのもいいと思う。
 「WEEKEND」には「P-O-P-T-R-A-I-N Part II」という副題がついている。メイン曲の裏バージョン的なものがアルバムに収録されるのは、昔のアルバムに良く見られた手法だ。彼らや僕の世代だとジョージ・マイケルの「I want your sex」を思い出す。これは考えすぎかもしれないけど、全10曲の流れにはアナログ盤のA面B面を意図したものがあるのじゃないかと思う。そう考えると、A面B面それぞれの最初と最後、つまりCDの1,5,6,10曲目がキーになっているという気がする。各曲の配置やアレンジなど、やはり意識してるのかも、と思う。個人的にはどこか80年代のプリンスっぽい「ECSTASY」やアコースティックな「三年」もいいアクセントになってると思う。ここまで「捨て曲がない」と思えるアルバムは、実は相当稀ではないだろうか。アレンジ・ソングライティング・歌唱・演奏・パッケージング、全てにおいて非常に丁寧に作られたアルバムだと思う。
 陰と陽。明るさと切なさ。その両方が鳴らされてこそのポップス。素晴らしいポップスとは当然、その曲を聞いている間は至福の時間なわけだけど、同時にその音が鳴りやんだ後の寂しさを最初から内包しているものでもある。パーティーはいつか終わる。その帰り道はいつも切ない。本作に収められた曲はどれもそういうものだと思う。刹那的だからこそ、普遍的。何度もリピートしたくなる中毒性がある。この一級品のポップアルバムが多くの人の耳に届くことを願ってやまない。