無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ヒューマン・ネイチャー。

人間と動物(初回生産限定盤)(DVD付)

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 20周年記念アルバム『20』以来、約3年半ぶりの新作。『20』後のリリースとしてはシングル「UPSIDE DOWN」が最初だが、音楽的に見ても今作につながるリリースとしては昨年のシングル「SHAMEFUL」からと考えるべきだろう。生音やアナログシンセっぽいレトロな感覚のサウンドが中心で、80年代のニューウェーヴやエレクトロポップっぽい音が並ぶ。「Slow Motion」なんかは影のある美しいメロディーも含め、ヒューマン・リーグあたりがやっててもおかしくないような仕上がり。歌詞の面ではシュールさやお笑い系も抑え目で、落ち着いたような印象も受ける。
 ただ個人的にはこれは落ち着いたということではなく、自然体の結果なんじゃないかという気がする。「P」の後半の展開など、常軌を逸した狂気手前のパフォーマンスもあるが、それも含めて、本作での彼らは全く無理をしていない。無理してバカをやったり、カッコつけたりふざけたりしている場面が一切ない。電気だからこういう曲がないと、とかこういう歌詞がないと、という縛りから解き放たれている。20周年で一区切りついたからなのか年のせいなのかはわからないけれど、何をやったってどうせ電気グルーヴにしかならないのだから、という達観の境地すら感じる。今までだって無理していなかったと言う意見もあるかもしれないけれど、僕にはやはり少し違って聞こえるのだ。結果、サウンドも自分たちの奥にある「彼らが置いてこれなかったものすべて(All That They Can't Leave Behind)」で構成されていると思う。
 もしかしたら彼らは『J-POP』の時もこういうアルバムを作りたかったのかもしれない。という気もする。そしてこのアルバムはものすごく自分には心地よく聞こえる。僕自身の音楽への入り口がここにある80年代風サウンドに近いからかもしれない。