無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

年間ベスト、的なもの。

 2013年も今日で終わりなので、今年聞いた音楽でこれというものを書き記しておこうと思います。ただ、もうリスナーとしては新しいものを必死に追いかけることを半ば放棄した人間ですし、また、ここ数ヶ月に出たものはきちんと咀嚼できるほど聞き込めていないので正当に評価していない可能性もあります。その上で興味ある人だけ見ていただければ。アルバムとしてのセレクトになります。単純に聞いた順なので、特に順位とかはありません。

■『JAKE BUGG』/JAKE BUGG

ジェイク・バグ

ジェイク・バグ


 今年の洋楽新人では一番でした。サマーソニックでもライヴ見ましたが、ロックンロールスターとしてのそのオーラ、イケメンな面構え、声、ギター、全てに魅了されていました。よりバンドっぽくなりスケールアップした2作目も良かったけど、インパクトとしてはこのデビュー作。
 21世紀も10年がたち、ロックやポップスも一回り以上した現在、若い人たちがあらゆる音楽をフラットに聴いて選び取る時代になっているのだと思います。その上でこのジェイク・バグや、今年だとストライプスなど、こういうシンプルなルーツ・R&Rをやる人が出てきているのは興味深いですね。日本にも新人ではないけどBAWDIESやOKAMOTO'Sがいますし。

■『矢野顕子忌野清志郎を歌う』/矢野顕子

矢野顕子、忌野清志郎を歌う

矢野顕子、忌野清志郎を歌う


 カバーアルバムなので、厳密にはこういう年間ベスト的なところにはふさわしくないかもしれないけど、本当に素晴らしいアルバム。これについてはブログに書いているので、これ以上の言葉はありません。
http://d.hatena.ne.jp/magro/20130211

■『POP STATION』/NONA REEVES

POP STATION

POP STATION


 2013年の前半はもう、このアルバムを何十回聴いたことだろう。あまりにもその最大瞬間風速がすさまじく、今聞くと逆にその熱が色あせた感がしてしまうけれど、何度でも聞くほどに素晴らしいポップス。これもブログに書いたのでそちらを読んでいただければ。
http://d.hatena.ne.jp/magro/20130314
 この感想が西寺郷太氏本人にコメントされたのも、今ではいい思い出です。

■『sakanaction』/サカナクション

sakanaction (初回生産限定盤CD+DVD)

sakanaction (初回生産限定盤CD+DVD)


 だいぶ内省的なアルバムだと僕は思っているのですが、いろいろな人のブログなりを見ると本作を今年のベスト10などに選んでいる人も多いですね。昔からサカナクションを能動的に聞いている人は音楽的なリテラシーを高く持っている人が多いのでは、と思います。けど、「彼らは10年早く出てきていたらミリオン売ってるでしょ。今は業界がこんな状態なので、可哀想だね」という内容のことを確か横山健氏が言ってましたが、そういうポップネスをも持っているのがやはり大きな魅力だと思います。紅白出たり、セールスや動員が増えるのは昔からのファンが嘆くべきことではなくて、本来のバンドのスケールに世間が近づいてきたというだけのことだと思っています。これも、感想書いてました。
http://d.hatena.ne.jp/magro/20130519

■『ZOOEY』/佐野元春&THE COYOTE BAND

ZOOEY(初回限定盤)(DVD付)

ZOOEY(初回限定盤)(DVD付)


 2000年代以降の佐野元春は、ブルース・スプリングスティーンのように、現代の日本という国やそこに生きる人々(つまり我々)を描き出してきた。本作は3.11以降初のアルバムであるので、当然そこに正面から向き合ったものになっています。そのテーマが「愛」というのは、すごく自然なことだと思う。と同時に、本作は安易な共感を許さないシビアさも内包していて、聞き手に連帯ではなく「個」としての自由と責任を呼びかけていると思う。佐野元春のビートニクスとしての哲学が近作の作詩には顕著に現れていると思っているのだけど、本作もまた例外ではありません。(そのまま「ビートニクス」というタイトルの曲もあります。)

■『lost decade』/tofubeats

lost decade

lost decade


 NONA REEVESサカナクションに並び、今年最も聞いたアルバムのひとつだと思います。こういう若いクリエイターが老若男女、聞くシチュエーションを選ばないポップミュージックを鳴らすのが今の時代。いいことだと思います。

■『Random Access Memories』/Daft Punk

ランダム・アクセス・メモリーズ

ランダム・アクセス・メモリーズ


 ジョルジオ・モロダーだ、ナイル・ロジャースだ、80年代臭満載でありながら2013年の新作である本作を40代のオヤジが今年のベストに選ばない理由がありません。ドラムやアレンジも含めて、70年代〜80年代のディスコミュージックやフュージョンの雰囲気が強いのですが、こういう曲のドラムは64分の1くらいの微妙な音符単位でスクエアなリズムからずれていて、そのズレが快感を生んでいるのです。これをプログラミングでやるのは非常に難しく、本作のサウンドがほぼ生音で作られているのはとてもよくわかります。ギターカッティングもですが、聞いていてとにかく気持ちいいアルバムでした。

■『Melody Palette』/Negicco

Melody Palette

Melody Palette


 アルバムで言えば、ももクロ『5th Demention』ではなく、間違いなくこのNegiccoのファースト・オリジナル・フル・アルバムを推します。シングルも今年の彼女らは全くもってハズレが無かった。完璧でした。とにかくね、「アイドルばかり聴かないで」という曲の素晴らしさですよ。この曲に書かれている女の子の切なさに僕は涙します。小西康陽氏はやはり天才です。「ときめきのヘッドライナー」も同様の切なさを持った名曲でしたが、「男の子に振り向いてもらえない一途な女の子」というのがNegiccoという3人のキャラにもうまくマッチしているんでしょうね。僕はどっちかというと幸薄そうな女の子に惹かれます。

■『Hesitation Marks』/Nine Inch Nails

Hesitation Marks(デラックス盤)

Hesitation Marks(デラックス盤)


 映像で見たフジロックのパフォーマンスも本当にすごかったNINの新作。僕はNINについてはそんなに熱心なリスナーではなく、『ダウンワード・スパイラル』をピークに、トレント・レズナーがマッチョで長渕剛みたいな風貌になったあたりからはほぼスルーしてました。けど、本作は久々にどストライクに自分の好きなところついてくるサウンドで、ヘビロテでした。ノイズが抑え目でメロディーとビートのバランスが良いのでしょうか。熱心なファンだと違うのかもしれませんけど。いやでもやっぱカッコいいでしょうこれ。

■『LEVEL3』/Perfume

LEVEL3(初回限定盤)(DVD付)

LEVEL3(初回限定盤)(DVD付)


 これもやっぱり気持ちよさ。そして曲のよさ。Perfumeの曲はサウンドが気持ちよくて体を動かしていても歌詞が耳に入ってくるのです。こんな女の子の心情を書いた曲をナカタヤスタカが書いていることに改めて驚くし、この創作ペースをこの人は何年続けているんだと。考えてみると常軌を逸していますね。全盛期の小室以上じゃないのでしょうか。

 というわけでちょうど10作になりました。キリがいいのでベストアルバムは終わります。最後にベストアルバムではなく、曲単位で今年気になったものをいくつか。図らずもアイドルものに集中していますが。

○「恋するフォーチュンクッキー」/AKB48

 AKBに関しては売り方やメディア戦略も全部含めて僕はむしろアンチで。それでも曲が良ければいいのですが曲も正直、いまどきこんなやっつけ仕事みたいなものを一番売れてるやつらがやってていいのかよ、と思っていました。そこにこんな神曲が降臨。数十年後に振り返ってAKBっていたね、という時には「ヘビーローテーション」や「フライングゲット」なのかもしれませんが、「恋するフォーチュンクッキー」という名曲があったことを僕は忘れないでしょう。この曲はやはり指原莉乃というセンターが呼んだのだと思います。歌詞をそう思って聞くとグッと来ます。

○「君の名は希望」/乃木坂46

 乃木坂は昨年の「制服のマネキン」がPVも含めて完璧で。この曲も本当に素晴らしい。何が素晴らしいって、曲もだけど歌詞。「僕が拒否してたこの世界は美しい」。「僕を拒否してた」んじゃないのです。「僕が」なんですね。今孤独に苛まれている若者(に限らず)に聞いてほしい名曲です。彼女らってイマイチ他のアイドルに比べて華がないというか。全員前田敦子的というか、クラスで目立たないほうにいる人たちだと思うんですねどちらかと言えば。その彼女らがこういう曲を歌っていることにまたグッと来ます。メンバーの生田絵梨花がミュージシャン佐久間正英の遠戚で、末期ガンであることを告白した彼と競演したビデオも涙なしでは見れません。
【ニコニコ動画】乃木坂46 生田絵梨花応援パート39 「君の名は・・・」

○「いつか君が」/ももいろクローバーZ

 ももクロに限った話ではなく、「行くぜっ!怪盗少女」以降というか前山田健一以降のアイドルソングというのはひとつの指標ができて。どんだけ複雑な曲展開にするか、どんだけ4分間に詰め込むかみたいな。転調やテンポ変化何回するかみたいなところを競う流れができてしまって。ももクロも「無限の愛」(これは名曲ですが)を筆頭にそういう部分があって。でもこの曲は彼女らにとっては久々にシンプルな名曲で。こういうのを歌うももクロって逆に新鮮でよかったです。miwaは特に好きでも嫌いでもなかったんですが、ももクロの5人がよくなついてて、いいコラボだったんだなあと思いますね。

 来年も感想を書くかどうかは別にして、いい音楽にたくさん出会えますことを。それでは皆様良いお年を。