無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014感想(4)~想い出はモノクローム

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO
■2014/08/15-16@石狩湾新港

 時間的に非常にタイトな中、レインボーシャングリラからデフガレージへ移動。実はこの移動、フォロワーさんから教えてもらった裏技があった。会場内を通ると橋を渡って長距離を移動することになる。当然人も多いのでなかなか思った通りに動けない。しかし、レインボーシャングリラの奥の駐車場出入口から一旦会場外に出て、駐車場を歩きヘブンズゲートから再入場すると人も少ないし距離も短縮できる。この方法ならレインボーシャングリラからデフガレージへの移動は通常20分はかかるところを約10分で行ける。この裏技は今回何度も使ったが非常に助かった。
 ハスキンは2012年の復活・再結成以降ライヴはまだ見ていない。音源も追いかけていないので僕にとっては彼らは2005年で止まったままだ。しかしその止まった時計は1曲目の「#4」を聴いた瞬間、再び時を刻み始めた。テント内には若いファンもいたが、大半を占めていたであろうAIR JAM世代はここぞとばかりにモッシュ・ダイブの連続。残念ながら今のメンバーにはテッキンもレオナもいない。リズム隊が変わってしまっているのでバンドのグルーヴ的には違うものになっていると言ってもいいのかもしれない。いっそんは大村昆のような黒縁の丸眼鏡をかけ、まるで昭和昆虫博士のようだった。しかし、彼らの根幹にある「エモ」は変わっていない。平林の少年のようなピュアな声もそのままだ。90年代から2000年代前半を彩ったエモーショナルなメロディーの数々は全く色あせておらず、懐メロバンドが再結成してますというやっつけ感など微塵も存在していなかった。「ライジングサンがあるなら、ライジングムーンもいいんじゃないですか」と始まった「The Sun And The Moon」で完全に涙腺も決壊。ノスタルジーを感じていたのはステージ上の彼らではなく、ファンの方だったかもしれない。彼らの曲は同時代を過ごした人間にとっては、ある時代の輝きを確実に思い起こさせ、様々な感情を喚起させるものであると思う。抑えることなど到底できはしない。

HUSKING BEE SET LIST
1.#4
2.1 Minute
3.A Small Potato’s Mind
4.Just A Beginning
5.?
6.Once So Close
7.The Sun And The Moon
8.New Horizon
9.The Steady-State Theory
10.新利の風
11.WALK

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夜のかん、ぱーい!

 ハスキン後、レッドスター近くのレストランエリアで友人たちと集まって夕食をとる。そろそろ花火の時間かなーなどとあーだこーだ話しているうちに21時近くなってきたのでデフガレージへ移動。その途中で、花火が上がった。花火に見とれていると21時になりそうだった。駐車場ショートカットルートを急いでいるとヘブンズゲートのあたりで「夏の日の午後」のイントロが!ダッシュしてデフガレージにつくと溢れそうな人の数。人の波をかきわけて何とか中央までたどり着く。イースタンユースRSRで見るのは実に2009年のアーステント以来、5年ぶり。『歩幅と太陽』をリリースした直後だった。吉野氏も久しぶりだと言っていた。いつ呼んでくれるのかと思っていた、と。具体的に何のことを指しているのかはわからないけれど、前回RSRに出て以降、いろんなことがあって、多くの人間が自分たちの周りから去っていったという。それでも、自分たちはこうして音楽を続けてきたと。ちょうど前回RSRに出た後の2009年9月、吉野は心筋梗塞で倒れ、一命を取りとめた。そのあたりのことを言っていたのかもしれない。そういうシリアスめなMCもあったが、総じて吉野氏の表情や口調は明るかった。かつてならそうした明るさは裏返しの皮肉と捉えられたかもしれないが、今の彼はそうは見えない。地元のフェスでのウェルカムムードもあっただろう。このステージに立てることを素直に喜び、楽しんでいるように見えた。サヨナラだけが人生だ、と言いつつも毎日を生きていかなければならない我々は必死で荒野に針路を取り、逃げても逃げてもやってくる朝に抗って自身を奮い立たせなくてはならない。イースタンユースの音楽に通低するエモーションは生きることと同義であり、だからこそ、聞くものの心を揺さぶって離さない。願わくば、もう少し長めのセットでやってほしかった。フェスとはいえ、40分、6曲はやや物足りなさが残った。

eastern youth SET LIST
1.夏の日の午後
2.青すぎる空
3.グッドバイ
4.夜がまた来る
5.荒野に針路を取れ
6.夜明けの歌


花火。

 ハスキンイースタンユースと日本のエモの歴史を辿るようなアクトを連続で見るとどっしりと心に楔を打たれるような感覚になった。ちょうど20代後半から30代に移り変わる頃に彼らの音楽に初めて触れ、耽溺していた自分にとっては彼らの音楽にあるエモーションこそが今の自分の血肉になっている部分が少なくない。それを改めて実感した。テントに戻り、着替えた後レッドスターに移動すると、UAのステージも後半に差し掛かっていた。しかし、すでにすごい人の数。レストランエリアまで侵食しそうな勢いである。言うまでもなく、次の山下達郎目当てに人がすでに集まっているからだ。とは言ってもぎゅうぎゅうと言うわけではなく人口密度はそれほどでもないのでするすると比較的前方まで進む。UAはアコースティックなセットで、この時間のレッドスターにまさにぴったりなソウルフルでしっとりとした歌声を聞かせていた。達郎目当てのお客さんが多かったのは事実だろうけど、この時の彼女の歌はちょっとすごかったと思う。感性の部分だけでなく、歌唱のテクニカルな部分でもほぼ完璧だった。後半だけでも聞けてよかった。トリのフィッシュマンズでも当然、すごいパフォーマンスを見せてくれるだろうと期待が高まった。
 UAが終了した途端に後ろからどっと人が押し寄せる。前方はかなりキツキツな状態になり、確かにこのままだとちょっと危険な状態になりそうだったので観客が自発的に押さないよう指示し始めた。ここまではいいのだが、その後に客の一人がまだ達郎が始まるまで1時間半あるので座りましょうと前から順番に座らせ始めた。この辺からちょっと雰囲気があやしくなってくる。Twitter見るとスタッフが座らせたと書いてる人がいるが、スタッフじゃなく、客が勝手にやったことです。個人的には、前で待つ人はあまり座らないほうがいいと思う。面積をとるし、立ち上がったときに隙間ができて一気に前に押し寄せられると逆に危険だと思うから。たかだか1時間半程度立って待てない人は無理せず後ろで座ってて下さいと思った。
 前方に犇いていたのは長年の達郎ファンと思しき人たちが大半だっただろうと思う。その中には普段フェスに来ない人も多いだろうことはわかる。ただ、仮にこの山下達郎の4年ぶりのRSR出演が特別なステージであったにしても、それを特等席で見られるかどうかはファン歴の長さや達郎氏への思いの深さには全く関係がないことだ。しかし残念ながら、ステージ前に集まった達郎ファンの中には自分たちはこのステージを前で見る権利があると勘違いしている人がいるようだった。ファンクラブ歴30年だか今回のツアー追っかけて全公演行くだかなんだか知らないが、ここはファンのオフ会ではなく参加者全てに開かれたロックフェスである。にもかかわらず、我々はファンクラブ会員なのだから前で待つのは当然、とばかりによっこらしょと座り込んで一息つく人たちを見て言いようのない違和感と気持ち悪さを感じていた。しかし、そんなことをあの場で言っても多勢に無勢、詮無いことはわかっていたので、周りを取り囲む達郎オタクに無力感と苛立ちを感じつつ、意地でも座らないで待っていた。正直、この時ばかりは今年のRSRで唯一、最もイヤな気分になった。4年前は僕の見る限りこういうことはなかったと思うのだけど、サンステージだったから表面化しなかっただけの話なのかな。正直書くべきかどうか迷ったけど、あえて書きました。自分も見たいステージはできるだけ前で見たい気持ちはわかるけど、前で見るだけが全てじゃないし、ファンだろうがなかろうがその場にいる人みんなが楽しめればいいと思っている。フェスで大事なのは自分が楽しいのはもちろん、それ以上に周りの人たちが楽しそうにしているのを見ることだと思う。
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達郎さんバンドの機材が乗るとレッドスターキツキツだね。すごい密接感。

 気を取り直して、山下達郎です。バンドメンバーの機材が並ぶとレッドスターのステージがかなり狭く感じる。サウンドチェック自体は特別なことをしていた感じはなかった。後から聞いた話だと、PAテントで調整をしていたのはツアーに同行しているエンジニアだったようで、後述するフェスとは思えないほどの出音やバランスの良さはこうしたスタッフの力が大きいのかもしれません。小笠原拓海氏や伊藤広規氏が自らチェックに出てくると大きな歓声が。(これもいつもなら僕も盛り上がるところだが、ヲタの歓声に正直萎えていました)時間となり、「I love you…Part I」のアカペラが流れ、メンバーがステージに登場する。後ろの方がどのくらいまで人が埋まっていたのか僕にはわからないけれど、ものすごいどよめきと歓声だった。3日前に見たマニアックツアー札幌公演では「半分はマニアックなセットになります」と言っていた。逆に言えば半分はヒット曲で構成されるということになる。「BIG WAVEのテーマ」から始まり、「SPARKLE」のイントロのカッティングが鳴り響いた瞬間、早くも最初のピークと言える盛り上がりを見せる。やはりこの曲の持つ即効性や立体感は格別だ。揺るぎない音の壁が目の前に立ち上るかのような興奮を覚える。ギリギリ達郎氏の指の動きまで見える距離で見ていたのだけど、ホールツアーではこんなことはありえないので非常に貴重な体験だった。山下達郎のライヴはとにかく各楽器の出音が良い。今回は近くで見ていることもあってかリズム隊の音が良く聞こえた。ドラムはマイクを通す前の音が直接聞こえてきたし、特に伊藤広規氏のベースにはずっとやられっぱなしだった(「BOMBER」でのプレイは驚嘆の一言)。今の若い人にとってはスラップと言えばKenkenなのかもしれない。しかし「スラップ?知らねえよ。チョッパーだよ、チョッパー」とでも言いそうな広規氏の指使いは見ていて惚れ惚れしてしまう。達郎氏が真夜中にライヴをやるのは実に39年ぶりだそうで。シュガーベイブ時代、名古屋で年越しライブをやったとき以来とのこと。そのときはセンチメンタル・シティ・ロマンスと愛奴で、誰が年越しの瞬間ステージにいるかで喧嘩したらしい。「61のジジイにこんな時間にステージやらせるなよ!みんな事務所が悪いんです。あとWESSの若林(笑)」前回出演時よりも、達郎氏の軽妙なトークが多く聞けてうれしい。「ジャングル・スウィング」は僕の見た札幌2日目では演奏されていなかったが、マニアックツアーのセットには入っているのだろうか。これもまたライブとしては比較的レアな曲だと思う。これがやりたいからマニアック・ツアーを企画した、とまで言っていたうちの1曲、ブレッド&バターのカバー「ピンク・シャドウ」。オリジナルよりもビートが利いて踊れる達郎氏のアレンジが好きです。そういえば、達郎氏は「曲順を間違えた」と言って苦笑していた。「大丈夫です。大勢に影響ありません。命にも別状ありません」と。個人的予想としては「ジャングル・スウィング」と「ピンク・シャドウ」が逆だったのではないかと思いますが、どうかな。「THE WAR SONG」の前には、フェスとしては異例なぐらいの長いMCが挟まれた。ツアー時にも同じことを言っていたのだけど、この曲は当時の中曽根康弘首相の「不沈空母発言」を受けて、冷戦まっ只中の不安定な世界情勢の中、一体いつまでこういう時代が続くのだろう、という諦観を持って書いたと。この曲が歌われる必要のない時代が来れば、と言う期待をしていたが、30年経ってむしろ状況は悪くなっている、ということを言っていた。マニアック・ツアーでこの曲を入れたのは、今この曲を歌わなくてはいけない、という彼なりの危機感、使命感のようなものだったのかもしれない。終戦記念日の翌日、この曲が歌われた意味は重い。
 「夏の陽」のアウトロでは「君は天然色」のフレーズを織り込む。彼なりの、彼にしかできない、大瀧詠一氏への追悼。氏の急逝には誰にも慮れないほどの思いが達郎氏にもあったはずで、それがあのアウトロに集約されていると思うと涙なしに聞くことはできなかった。ツアーと同じく、この場面はエモーショナルな意味でのクライマックスだった。静かに、拍手と歓声がレッドスターの周りに広がっていくのは感動的な瞬間だった。「プラスティック・ラブ」も今ではなかなか聞けない選曲だ。『IT’S A POPPIN’ TIME』と『JOY』を合わせたような今回のツアー、フェスはライヴ・アーティストとしての山下達郎の素晴らしさを再認識させてくれるものだと思うし、久しく演奏していない曲を掘り起こすことで彼自身にもいい刺激があったのではないだろうか。「BOMBER」から小笠原拓海氏の壮絶なドラムソロに突入し、達郎氏自身もそれに応えてドラム合戦。そこから「SILENT SCREAMER」のラストにつながると言う構成。「恋のブギウギ・トレイン」ではじけた後、ラストはやはりこの曲「さよなら夏の日」。4年前に書いたことをもう一度書こう。「一番素敵な季節がもうすぐ終わる」とは、夏という季節そのもののことであるけれど、この場においては「フェスというこの幸せな時間」のことでもある。「明日になればもうここには僕らはいない」。まさに、明日の昼には参加者もみな家路に着き、ステージも撤収され数万人が集まったこの村は無くなってしまうのである。フェスの場でこの曲が歌われると、また違う意味での切なさがこみ上げてくる。だから反則なのだ。バンドの演奏、PAのサウンド、達郎氏の歌唱、すべてが素晴らしく、これ以上ないバランスで完成されていた。「来年はデビュー40周年なんで、パーッとやりたいと思います。呼んでくれれば、来年も出ます。」と言っていた達郎氏。「来年も」は前回来た時も言っていたのだけど(笑)。でも、記念ツアーも含めて楽しみに待ちたいと思う。レッドスターという小さめのステージでの演奏は、本来達郎氏がやりたがっていたライブハウスツアーの雰囲気を少しでも感じられるものになっていたのだろうか。選曲も含め、僕は80年代初頭の六本木ピットインでのライヴはこういう雰囲気だったのかな、と思いながら聞いていた。予定の時間をオーバーし、約1時間20分のステージ。素晴らしかった。ステージ前に感じたイヤな気分も、どこかへ消えていた。

山下達郎 SET LIST
1.THE THEME FROM BIG WAVE
2.SPARKLE
3.あまく危険な香り
4.ジャングル・スウィング
5.ピンク・シャドウ
6.僕らの夏の夢
7.THE WAR SONG
8.夏の陽
9.プラスティック・ラブ
10.BOMBER~SILENT SCREAMER
11.恋のブギウギ・トレイン
12.さよなら夏の日

(続く)