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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

常にアニバーサリー。

山下達郎 PERFORMANCE 2013
■2013年12月1日@ニトリ文化ホール
 2013年は『MELODIES』30周年、『Season's Greetings』20周年というアニバーサリーイヤーで、両アルバムともにデジタルリマスターされてボーナストラック入りのデラックス盤として再発された。今回のツアーはそうした背景を受けて、この2枚のアルバムを大きくフィーチャーしたものになっていた。『MELODIES』をリリースした80年代前半は、山下達郎も毎年のようにアルバムを制作し、ツアーを行うというルーチンの中で活動していた。なので、ツアーというのは必然、アルバムのプロモーションという意味合いを持つことになる。アルバムを出し、そのアルバムの曲をツアーで演奏し、プロモーション(販売促進)する。次のツアーでは次のアルバムが中心になる。ということは、シングルなどの代表曲以外は、以降のツアーではなかなか演奏される機会がなくなってしまうことになる。結果、『MELODIES』収録曲にも、この30年間ツアーで取り上げられなかった曲がいくつもあるという。せっかくの機会に、そういう曲も演奏しようということで、珍しい曲が多く聞けた。そういう意味でも貴重なツアーだったと言えるだろう。ただ、こういう思い切った選曲ができるのも、2008年以降コンスタントにツアーを行えている今の状況があればこそだと思う。次にいつツアーができるかわからないということになれば、やはり誰もが聞きたい代表曲が中心にならざるを得ないだろう。「今回はあれもこれも演奏しないけど、それは次のツアーに取っといてよ」ということだと思う。達郎氏も、キャリアが長くなるとセットリストを決めるのが大変で、何を演奏するかではなく何を削るかの作業になるとよく言っている。
 当時を振り返るMCの中で、興味深い話がいくつもあった。70年代から80年代にかけて、カーステレオやウォークマンの普及により、音楽を家から持ち出してアウトドアな環境で聞くことができる時代になった。『RIDE ON TIME』(1980)『FOR YOU』(1982)というアルバムは特にそうした時代背景の中で大ヒットとなり、リゾートミュージックとして消費される場面が増えた。誰が言ったか「夏だ、海だ、達郎だ」というコピーもできるほど、若者のドライブにおける定番として彼の音楽は大衆に受け入れられていく。「このままでは自分の音楽は消費され尽くし、潰されてしまう」という危機感を抱いた達郎氏は、「夏・海」というイメージからの脱却を図り、『MELODIES』を制作したという。このアルバムからMOONレーベルに移籍し、30歳になった達郎氏が自身の内面をシンガーソングライター的に描くようになったのは年齢的必然と思っていたのだけど、それ以外にもそうした理由があったのだ。こうした話を彼の口から聞けたのも、今回のツアーでの収穫と言えるだろう。
 達郎氏の話は現在のミュージックシーンにも及ぶ。今の商業音楽の主流の一つはカバーである、と。「今は右を向いても左を向いてもカバーアルバムだらけ。」しかも達郎氏曰く、どれもこれも選曲がベタ過ぎると。しかもほぼ完コピ。誰でも知ってる大ヒット曲をただ歌ってるだけで、それじゃカラオケの延長じゃないかと。もっとその人の歌手としての特性を生かした選曲なりアレンジなりをすればいいのに、と。というわけで、山下達郎による、山下達郎にしかできないカバーコーナーというこれまた近年のツアーでは珍しい贅沢な趣向。ビーチボーイズの「God Only Knows(神のみぞ知る)」と、ヤング・ラスカルズの「Groovin'」の2曲を素晴らしいアレンジと演奏で披露。とは言え2曲とも有名な曲だし、達郎氏のルーツを知るファンなら十分すぎるほどベタな選曲だとは思うのだけど、ガチでこのカバーが聞けたのなら何も言うことはありません。「God〜」では達郎氏はスレイベルを演奏したのだけど、スレイベルを持った右手をサッカーのキーパー用グローヴをはめた左手で叩いて鳴らしていた。素手だと痛くなってギター演奏に支障が出るし、野球のグローヴだと分厚すぎてダメらしい。ちょうどよかったのがゴールキーパーのグローヴだったのだそうだ。一見ギャグにすら見えるパフォーマンスにも、きちんとした音楽的根拠があるのだ。
 恒例のひとりア・カペラコーナーは『Season's Greetings』から3曲。「Bella Notte」は、達郎氏が人生で初めて見たディズニーの「わんわん物語」という映画で使われていた曲で、この曲が流れるシーンの思い出を熱く語っていた。「DANCER」では、この曲を書くに至った一つのエピソードを語ってくれた。彼はいわゆる学生運動の世代よりも少し下だが、一つ上の先輩にどっぷり運動にハマっていた人がいたのだという。彼は在日で、結局、朝鮮に渡ったらしい。その彼の別れ際に言った言葉が忘れられず、「DANCER」は彼のことを歌った曲なのだそうだ。山下達郎という人は自身の政治的アティテュードを音楽に落とし込むことは決してしない人なので、意外だった。
 フィーチャリング『MELODIES』だけあって「メリーゴーラウンド」が聞けたのも嬉しかった。生で聞く冒頭のベースラインのカッコよさよ。「Let's Dance Baby」では間奏部に「硝子の少年」をボーナストラックとして挿入する憎い演出。「アトムの子」の間奏部で歌われたのはやなせたかし氏への追悼の意を込めて、「アンパンマンマーチ」だった。こういう所でどんな趣向や遊び心を見せてくれるのかも、氏のライヴの楽しみの一つでもある。音源だけでは味わえないものがあるからこその、ライヴなのだ。
 2008年から現在までのバンドメンバーは、よく見れば歪な構成である。山下達郎伊藤広規氏(b)、難波弘之氏(key)が還暦前後のアラカン世代。佐橋佳幸氏(g)、柴田俊文氏(key)、コーラス隊がおおよそアラフィフ。飛んで、小笠原拓海氏(dr)と前回ツアーから参加の宮里陽太氏(sax)がアラサー。年寄りと若いので、働き盛りの40代あたりがいない。ちょっと面白いと思う。達郎氏も還暦を過ぎ、まだまだ声も衰えはなく体も元気とのことで安心しているが、昨年末には彼にも深い関係のある方の訃報が相次いだ。小笠原拓海の前任として、長年達郎氏のレコーディングやツアーでライヴを支えたドラマーの青山純氏がこの札幌公演の直後、56歳の若さで亡くなった。そして年の瀬も押し迫った12月30日、彼を世に出した恩人というべき大瀧詠一氏が急逝した。故人を悼むのと同時に、生き残った者は宴を続けるしかない。今、山下達郎という人の音楽を生で体験できる喜びを全身で受け止めたい。いずれ、それがかなわなくなってしまう日が来た時に後悔しないために、1回でも多くその機会を得たいと思っている。

■SET LIST
1.新・東京ラプソディー
2.SPARKLE
3.LOVE SPACE
4.ずっと一緒さ
5.あしおと
6.ひととき
7.スプリンクラー
8.PAPER DOLL
9.ふたり
10.God only knows
11.Groovin'
12.光と影のレクイエム
13.My Gift To You
14.Bella Notte
15.Have Yourself A Merry Little Christmas
16.DANCER
17.希望という名の光
18.メリーゴーラウンド
19.LET'S DANCE BABY〜include「硝子の少年」
20.アトムの子
21.LOVELAND,ISLAND
<アンコール>
22.クリスマス・イヴ
23.RIDE ON TIME
24.LET'S KISS THE SUN
25.YOUR EYES