無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

売れるのには理由がある。

アナと雪の女王 FROZEN
■監督:クリス・バック/ジェニファー・リー ■出演:イディナ・メンゼルクリステン・ベル
 とにかく大ヒットしてるということでブームに乗って見に行ってきました。松たか子と神田沙也加の評判もいいようですが、映画館で洋画を見るときは原語で見るポリシーなので、字幕版。ちなみに僕はディズニー全般にはほとんど興味はありません。
 アンデルセンの「雪の女王」を下敷きにしているとはいえ、キャラ設定からストーリーまでほぼオリジナルと言っていいくらい改変しています。そこをつっこむのは無粋だと思うけど、問題はその改変のために若干全体のバランスを欠くような歪さが生じてしまっている部分があることです。元々、エルサは原作の通り、ヒロインではなくもっと悪役寄りのキャラとして設定されていたようです。しかし、「Let It Go」という、エルサが歌う曲があまりにも良すぎたために、当初の予定を変更しダブルヒロインということになったそうです。これが製作のどの時点で起こったのかはわからないけれど、作品全体に影響する大きな変更だと思います。ということで作品としては違う悪役を設定しなければならず、それが王子ということになります(もう公開してずいぶん経つしネタバレしてもいいよね)。この悪役が若干、確かにとってつけた感がないわけじゃない。イメージなんだけど、こういうディズニー的作品は、悪役といい人って割とはっきり出てきた瞬間に分かるという印象があります。けど、今回は全く前フリや演出的な仕掛けがないまま、突然豹変して悪者になるのですね。驚きやどんでん返しを狙ったにしても、全体のバランスとしては、ちょっとした表情や仕草で本性を垣間見せるような演出が序盤にあってもいいかなあ、という気はします。その方が作りとして上品だと思う。
 あと、アナがエルサの宮殿から帰ってきて、物語が急転していく後半からラストまでの展開があまりにも一本調子というか、ハッピーエンドになるのは分かっていても、そこに向けて流れ作業的に問題を処理していくのがおざなりな感じがして少し入り込めなかった。前半の展開が手際よすぎて、ちょっと手抜き感が見えてしまいました。もったいない。
 ただ、全体としては、ミュージカルとして素晴らしく良くできていると思います。「Let It Go」はもちろん、「Do You Want to Build a Snowman?」や「For the First Time in Forever」も曲が出色の出来だし、今回のコメディリリーフである雪だるまのオラフによる「In Summer」は楽しい。曲自体が素晴らしく、そして当然作品のストーリーを進める上でも重要な位置を占めています。主要曲はメインシーンだけでなく、メロディーが劇判のオーケストラでも繰り返し出てくるなど、作品の中でも非常にうまく使われていました。特に、エルサとアナが幼少期に楽しい思い出と別離を経験する中で象徴的に用いられている「〜Snowman?」のメロディーが大団円のハッピーエンドの中で出てくるのには参った。あれは、グッと来ます。
 映画としての瑕疵は確かにあるのですが、ディズニー作品としてはこの先20年、30年と語り継がれる大ヒット作であることは間違いないでしょう。そして、ディズニーに限らず、珠玉の映画主題歌として「Let It Go」がこの先歌われ続けていく名曲であることも確実だと思います。そのくらい力のある曲だと思います。みんなで歌おう的なイベントもその曲の力あってのものなので、盛り上がってる今のうちに映画館で見ておくべき作品かな、とは思います。
 吹替版のオラフ役をピエール瀧がやっているのはぜひ聞きたかったのですが、そのためだけにもう一度映画館に行くのも何なので、それはDVDが出てからの楽しみにしておこうと思います。