無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

サヨナラだけが人生だ。

eastern youth 極東最前線/巡業2015~ボトムオブザワールド人間達~
■2015/05/24@梅田クラブクアトロ
■2015/06/06@札幌cube garden

 決してバンドが解散するわけではない。が、ベース二宮がこのツアーを最後に脱退するというニュースを受け、今回のツアーはすべてのイースタンユースファンにとって特別な意味を持つものになってしまった。ツアーラストは、彼らの地元札幌。偶然なのかは分からないが、二宮のラストを飾るのにこれ以上ふさわしい場所はないだろう。
 開演前から会場は一種異様な雰囲気。メディアも多く来ていたようで、会場の前では観客へのインタビューも行われていた。道外から来ているファンも多くいたようだ。札幌でこういう雰囲気のライヴというのは、規模は若干違うけどナンバーガールの解散ライヴ(ペニーレーン)をちょっと思い出した。ドリンクの交換もままならないほどに人が溢れ、こんなにパンパンになったcube gardenは初めてだった。
 集まった観客の思いはそれぞれあれど、ライヴはあくまでもアルバム『ボトムオブザワールド』のツアー。特別な演出や仕掛けはなく、ステージ上に3人が現れ、淡々と始まる。むしろつとめて淡々としようとしていたのかもしれない。アルバムの曲を中心に序盤は進む。もちろん曲はいい。「街の底」は今後もライヴのレパートリーになるだろう。演奏もいい。個人的にはこの序盤で「沸点36℃」が演奏されたのがうれしかった。よし、ここからイケる!と思ったのだが、あくまでもステージ上の3人は淡々と新曲を演奏し続ける。正直、「茫洋」のあたりでは不安にすらなった。これはニノさんのラストライヴなのだ。淡々と新曲を中心に演奏するアルバムツアーでパンパンの観客が納得するはずはない。ステージ上で「今」のイースタンユースを噛みしめる3人と、「これまでの」イースタンユースを清算しようとする観客。そのズレが序盤では出ていたように思う。
 しかし、「月影」のイントロでニノさんのベースが唸った瞬間にその空気は一変する。フロア前方に人が押し寄せ、ここまでの鬱憤を晴らすかのようにモッシュが起こる。サビでは拳を上げ、大合唱。5/24の大阪ではダイヴをする不届きな輩もいたのだが、札幌ではそれはなかった。さすが地元。ここからは怒涛のヒットメドレー。一般的な意味でのヒット曲など存在しないイースタンユースにヒットメドレーというのも変な話なのだけど観念的な意味で、である。過去の名曲が演奏されるたびに、ああ、この曲をニノさんが弾くのも最後なのか、という思いが去来する。それを振り払うようにまた拳を上げ、声を上げる。この中盤でようやく、観客の思いは昇華され始めた。
 「踵鳴る」が終わり、ニノさんのMCが入る。次の「直に掴み取れ」に続く話なのだけど、大阪ではとんでもない下ネタであった。「最後のツアーでそんな話かよ!」とツッコミたくなるほどのひどい内容。うんこ掴むってなんだよ(笑)。そして、本編のラスト3曲はバンドからニノさんに向けての手向けというか、様々な思いを凝縮したようなものだった気がする。「グッドバイ」で別れを告げ、これまでの歩みに「万雷の拍手」を送る。そして、彼が去った後のバンドの未来を覚悟するように、「荒野に針路を取れ」なのだ。ドラマティックとしか言いようがない。札幌では、「荒野に~」の前、今回のツアーではほとんどMCをしない吉野が口を開いた。「俺たち三人イースタンユース、旅はまだまだ続くんだ!」ここで僕の涙腺は完全に崩壊した。
 周りを見ると、ほとんどの人が涙を流している。号泣している人も多かった。イースタンユースのライヴは毎回泣くのだけど、今回は少し意味が違う。アンコールで改めてニノさんはマイクを任された。「まだバンドは続きますし、私もノコノコと生きていこうと思います。もしどこかで会うことがあれば、あの、何かください(笑)。これからも、我々三人をよろしくお願いします。」泣けた。2度目のアンコール、「夜明けの歌」は、涙でほとんどよく見えていなかったと思う。声も出していたけれど、多分声になっていなかったと思う。大歓声の中、ニノさんはステージを後にした。三人とも、表情は晴れ晴れとしたようだった。やり切った、ということなのだろうか。
 イースタンユースは自分にとってとても大事なバンドで、技術とかとは別にしてこの三人で鳴らされる轟音がとてつもなく好きだった。見た目もパッとしないおっさん三人が目の前の霧を晴らしてくれる。そんなライブが好きだった。この三人のステージがもう見られない。この事実がただただ寂しい。この先、バンドは少し休息を取るだろう。どういう形で再始動するのか、今はまだわからない。
それでも、これからもイースタンユースを好きでいる自信はあるし、大事なバンドであることに変わりはない。つらいことはあっても、バンドは続く。逃げても逃げても朝は来る。僕もまた、ノコノコと生きていこうと思った。

 ニノさんありがとう、お疲れ様でした。僕は貴方のいたイースタンユースが本当に好きでした。

■SET LIST
1.街の底
2.鳴らせよ鳴らせ
3.沸点36℃
4.イッテコイ カエッテコイ
5.茫洋
6.ナニクソ節
7.月影
8.男子畢生危機一髪
9.青すぎる空
10.雨曝しなら濡れるがいいさ
11.テレビ塔
12.踵鳴る
13.直に掴み取れ
14.グッドバイ
15.万雷の拍手
16.荒野に針路を取れ
<アンコール1>
17.夏の日の午後
18.砂塵の彼方へ
<アンコール2>
19.夜明けの歌

ボトムオブザワールド

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