■5位:Drones / Muse
ドローンによって統制された人類が自我と自由を求めて戦うという物語を持った完全なコンセプト・アルバム。いかにもミューズらしい近未来の
ディストピアを描いた
サイバーパンク的世界観。音楽的には
デフ・レパードなどで知られるジョン・マット・ラングをプロデューサーに迎え、ハードロック的アンサンブルを強調したへヴィーな音になっている。その反面、前作でフィーチャーしたクラシックへのアプローチもきちんと消化されている。最終曲では
パレストリーナのミサ曲(サンクトゥス、
ベネディクトゥス)に乗せて「父母、兄妹、息子も娘も皆ドローンに殺された。アーメン」と歌われる。この、両極に振り切ったダイナミズムこそがミューズだと思う。やっぱり頭がおかしいとしか思えない。最高である。
Muse - Revolt [Official 360º Music Video]
■4位:BLOOD MOON / 佐野元春 & THE COYOTE BAND
コヨーテ・バンドとのアルバムも『
COYOTE』(2007)、『ZOOEY』(2013)に続き3作目となる。この10年活動を共にしてきたことでバンドとしての一体感は格段に増し、バンドアンサンブルとしてはひとつの完成を見たと言ってもいいと思う。オーソドックスなロックンロールも、ファンキーな
ジャムセッションっぽい曲も、自由自在にグルーヴを組み立てている。こういう音がほしくて元春は一回り下の世代とバンドを組んだのだな、と実感する。グレードを増したバンドの音と歩を合わせるように、彼の言葉もダイレクトな攻撃性を増している。「
キャビアと
キャピタリズム」はその典型だろう。個人的には最も気に入っているナンバー。歌詞は、日本に限らず、今の不安定で危うい時代の中でどうバランスを取って生きていくべきか、どう希望を見つけていくのか、ということを問うものになっていると思う。それを彼なりの視点で、客観的に第三者の物語として描き出している。難しい時代の難しいテーマだからこそ、
ストーリーテラーとしての彼の手腕が光る。メッセージ性の強い作品だと思うし、だからこそ、
ヒプノシスの故ストーム・トーガソンの流れを汲むデザイン・チームにジャケットを依頼したのだろう。混迷する時代には、
プログレッシブな音楽が求められるのだ。
「境界線」 - 佐野元春&ザ・コヨーテ・バンド(DaisyMusic Official)
■3位:RAINBOW / エレファントカシマシ
『MASTERPIECE』から約3年半、これだけのブランクが空いたのは当然、
宮本浩次の難聴によるライブ活動休止の影響も大きいだろう。復帰後にリリースされたシングルもそうだが、本作の歌詞には前に進む、今日を生きるなど、ポジティブな言葉が並ぶ。冒頭のインスト曲から連続するタイトル曲はとても50歳を目前にしたバンドとは思えない荒々しさと勢いに満ちている。それと同時に、「昨日よ」「なからん」と言った曲では美しかった過去、もう戻れない若さに対する悲しみや諦念が見て取れる。元々
宮本浩次と言う人は自身の死生観、どう生きてどう死ぬのか、ということをソングライティングのテーマとしてきている。30代以降特にそれは明確になっていると思う。その彼が自身の病気を機に老いや死というものをより身近に感じたであろうことは想像に難くない。もはや戻らない若さの輝きを惜しみつつ、これからの自分はどう死と向き合い生きていくのか。病気を乗り越え、手にした前向きな言葉はこれまで以上の説得力を
エレカシにもたらしたと思う。あと数年で50になる自分も、勇気をもらった。
エレファントカシマシ「RAINBOW」Music Video (Short Ver.)
■2位:Yellow Dancer / 星野源
先行してリリースされた楽曲からも想像できたように、70年代のソウル・R&Bやディスコミュージックを意識して作られたサウンド。アルバム全編に流れるストリングスやホーンセクション、アナログシンセの生音が気持ちいい。曲のテンポも今時のロックバンドに比べればかなりゆったりだ。つまり、気持ちよく体を揺らせるダンスミュージックになっている。しかし、かの時代の欧米のディスコサウンドを模倣しているだけではない。この、踊るための音楽を
星野源は今の日本に住む我々の日常と結びつけ、J-POPと地続きに鳴らそうとしている。そういう意味での「Yellow Dancer」なのではないかと思う。決して今のJ-POPの主流ではない音だと思うけど、明確な意図を持って堂々とど真ん中を歩いていく爽快感がある。1994年、あるアーティストは「書を捨てよ、恋をしよう!」と言うべきアルバムをやはり70年代のソウルミュージックをベースに作り上げた。本作はさしずめ、「書を捨てよ、踊ろう!」という感じだろうか。
星野 源 - SUN【MUSIC VIDEO & 特典DVD予告編】
■1位:Obscure Ride / cero
ceroというバンド名は
ウィキペディアによれば”Contemporary Exotica Rock Orchestra”の略となっているが、本作の1曲目「C.E.R.O.」では“Contemporary Eclectic Replica Orchestra”と謳われている。今後こうなるのかはわからないが、今までの
ceroとは違うということをはっきり示している。ゆったりと心地良く流れるビートと、音数が少ない中絶妙にタメのあるグルーヴ。シングル「Yellow Magus」以降顕著になったブラックミュージック、ソウルやR&Bへのアプローチがアルバムとして結実している。しかし「Replica」と自分たちで言っているように、日本人である自分たちが日本で模索するソウルミュージックであることを自覚している。この辺は奇しくも、先に挙げた
星野源が「Yellow Dancer」と題した感覚と近いかもしれない。高城晶平という人のメッセージ性を持ちながらも寓話的である詞の世界は聞くものを風景の一部に溶け込ませるような不思議な感覚を呼び起こす。そして聞き進むにつれて昼から夕方、夜から朝へと時間が移ろうような色彩を持っている。僕は東京に住んだことはないけれど、このアルバムを聴いていると東京の街が思い浮かぶ。今の日本を映し出すアーバン・ソウル、都市の聖歌だと思う。2015年間違いなく最もリピートして聞いたアルバムであるし、この年の夏の暑さとともに記憶されることになるアルバムだと思う。そして10年後には2010年代の日本のロック名盤のひとつに数えられていると思う。文句なく傑作でした。
cero / Summer Soul【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
cero / Orphans【OFFICIAL MUSIC VIDEO】