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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2016年・私的ベスト10~映画編~

映画

今年も劇場で50本を目標にしましたが、届きませんでした。でも複数回見た映画を入れたら50回は映画館に行ったかな…。来年はがんばります。

■10位:FAKE

FAKE ディレクターズ・カット版 [DVD]

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 作曲家・佐村河内守氏のゴーストライター騒動について、森達也監督が密着取材して撮影したドキュメンタリー映画。騒動後、姿を隠した佐村河内氏へのインタビューが約1年に渡って行われています。
内容については賛否両論あるし、新垣隆側からの反論もWEB上に既に公表されている。作中で語られることの真偽はもちろん重要ではある。しかし、この映画はそれを明らかにしようというものではありません。森監督の映画はどこに感情移入するかで見方が180度変わるのだけど、本作はフラットな視点で見ていても映画の中でどんどん何が真実かわからなくなって行きます。どちらに転んでも疑心暗鬼になりそうな中、衝撃のラスト15分がやってくる。これについてはネタバレになるので見てもらうしかないのですが、エンターテインメントとしてのカタルシスがとにかくハンパなかったです。
 改めていうと、この映画は真実を明らかにするものではありません。ただ、見た者が何を思うかを問いかけるものではあると思います。そして、この映画はドキュメンタリーという体であってもあくまで森達也という人の主観と編集が入った作りものであることを忘れてはいけません。「FAKE」というタイトルは佐村河内氏のことか、それともこの映画そのものか。それは見た者が判断することなのだと思います。


■9位:アイアムアヒーロー

 花沢健吾原作の人気漫画実写化。原作はまだ完結していないので、物語の序盤までの展開を一本の映画としてまとめています。結論から言うと、日本映画もここまでやれるじゃん!という会心の一撃。ゾンビもののジャンルムービーとしてもうまくできているし、さえない中年男の成長物語としても成功してる。映画としてまとめるために原作からの省略や改変もしてますが、きちんと成功してる。ゾンビのバリエーションも豊かで、特に走り高跳びゾンビがいい。淡々と同じ動作を繰り返す様はコミカルでもあるし、また恐怖でもあるという。後半はかなりグロい部分もあるが、それ系の描写が苦手じゃなければ見ておくべき一本。今年は邦画が面白く元気だった印象ですが、 個人的にはその象徴という感じの作品。
 改めて思ったのが大泉洋って役に恵まれてるなと。もちろん、いい役者だからこそいい映画や役が回ってくるんでしょうが。今回の英雄役も彼だからこそという部分が大きかったと思います。彼が「ヒーロー」になる直前、ロッカーの中で逡巡するシーンは白眉ですね。名演技でした。


■8位:ドント・ブリーズ
映画『ドント・ブリーズ』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ
 荒廃したデトロイトの街で泥棒をくりかえす3人の若者。その一人である少女ロッキーは養育放棄した両親のもとを離れ、妹とカリフォルニアで暮らすことを夢見るが資金がない。そんな中一人暮らしで盲目の老人宅に多額の現金があるという情報を得た彼らはこれが最後との思いで老人宅に侵入する。しかし―というストーリー。限られた空間の中で襲おう側と襲われる側が反転する様は非常に見事だし、「舐めてた相手が実は殺人マシーンでした映画」の新たな傑作と言っていいでしょう。予告編を見るとホラー映画のような作りにも見えますが、クライムスリラーという感じだと思います。ドキッとする演出はあるものの、超常現象的な怪奇が起こるわけではないので。
 役名の無い、「盲目の老人」役のスティーヴン・ラングの存在感が圧倒的です。後半、事態の真相が明るみになってからのサイコ展開もスピード感があって最高でした。主なキャストは4人だけだし、シチュエーションも限られた設定の話で非常に低予算であることは明白ですが、そんなこと関係ない面白さ。88分という上映時間も非常にタイトで無駄がありません。一部では話題になって気になっていたものの、上映規模も大きくないし、個人的には今年一番の拾い物映画でした。


■7位:マジカル・ガール

マジカル・ガール [Blu-ray]

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 余命いくばくもない娘のために父親がアニメのコスプレ衣装を買おうとするのを発端として、誰もが予想しない方向に話が進んでいく。分類すればノワールもの、犯罪映画ということになるのでしょうか。その巧妙さとスリリングさにどんどん引き込まれていく。本来接点のないはずの人物の物語が奇妙に重なり合っていく様は『パルプ・フィクション』のようであり、中盤は『アイズ・ワイド・シャット』的とも言える淫靡さと妖しさを持ち、終盤の展開は『タクシー・ドライバー』的でもある。細かい描写や台詞の端々に、後からコレか!と気づく仕掛けが配置されていて、脚本と演出の妙に唸らされるばかり。繰り返し見ることでその巧妙さはより深くなると思う。バルバラ役のバルバラ・レニーの美しさは惚れ惚れするばかりで、まさに魔女。彼女が男たちの運命を(結果的に)狂わせるファム・ファタールであることの説得力がありすぎる。
 ダミアン(この名前も…)をバルバラが「守護天使」と呼ぶ、その場所が「ガブリエル病院」、そしてダミアンが作っていたパズルの絵柄は…?その最後のピースは何処に?など、何度も見返したくなるほどよくできた映画。エンドクレジットに流れるのは美輪明宏「黒蜥蜴」のカバー。全てに意味があるのです。ああ、書いているうちにまた見たくなってきました。


■6位:スポットライト

スポットライト 世紀のスクープ[Blu-ray]

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 2002年、アメリカの新聞『ボストン・グローブ』の記者たちによって、カトリック教会の神父による子どもたちへの性的虐待とその事実を看過し続けたカトリック教会の共犯とも言える関係が明るみになった。その実話を元にした映画。『スポットライト』とは社会問題を深堀する同紙のコラム欄の名前。ボストンはカトリックが強い影響力を持つ土地で、「ボストン・グローブ」紙の定期購読者も半数以上がカトリック信者。その中でカトリック神父のスキャンダル、さらには教会全体の隠蔽体質を取材するのは困難を極める。地道に証言を集め、じわじわと真実に迫る記者たちの姿をこの映画は実直に映している。構図としては権力を持つ巨悪に対してジャーナリズムが戦いを挑むというもので、ドラマとしては非常に重厚に進む。悪く言えば地味。ただ、とにかく取材チームの役者陣、特にマーク・ラファロの演技は素晴らしい。各自が自分の個性を生かし活躍するチームものとして見ても非常に面白い。どちらかというと役者陣のアンサンブルがメインで主演という概念が薄い映画なので、役者個人ではなくアカデミー作品賞に選ばれたのは納得です。
 タフで骨太なドラマが事件の核心に向けてどんどんテンションを上げていき、見る者を飽きさせない。短い映画ではないが、全く時間が気にならなかった。ドラマとしてのクライマックスは最初の記事が紙面に出るところだが、事件はこれで終わったわけではない。その後に何が起こったのかはエピローグでも語られるのですが、パンフレットにある町山智浩氏の記事に詳細が書かれているのでぜひ読んでほしいです。何とも言えない、ドス黒く、生々しい気分になりました。社会派映画の傑作として長く語られる映画になると思います。


■5位:デッドプール

 マーベルコミック原作の映画化。シリーズとしては『X-MEN』系の流れになるが、X-MENアベンジャーズ系の作品に比べれば格段に少ない製作費で作られている(おそらく1/3程度)。しかし、これは面白い。今年のアメコミものではダントツだと思います。全編しゃべり倒すライアン・レイノルズは原作のテイストをそのままにキャラ化しているし、所謂「第四の壁」を破って観客に語りかける手法も実に巧妙。役ではなく現実のライアン・レイノルズの自虐ネタもあり、第四の壁だけでなく虚構と現実の間も自由に行き来するメタ的なやり方をとっている。以前、DCコミックス原作の『グリーン・ランタン』に主演して大コケしたことを受けて、ミュータント化する前の「頼む!緑の衣装だけはやめてくれ!」の台詞には大爆笑でした。台詞や脚本にはライアン・レイノルズ自身のアイディアやアドリブも多く含まれているそうで、彼自身もこの作品に賭ける思いが強かったのだと思います。
 基本的には望まずに特殊能力を植え付けられた男の復讐劇なのだが、その根幹には実にピュアなラブストーリーが流れている。くだらないお喋りが進んでいるように見えて、細かい部分が実は伏線になっているなど、脚本も上手い。個人的にはクライマックスで流れるワム!「ケアレス・ウィスパー」に感涙。今後X-MENシリーズに合流するのか、単体での続編があるのかはわからないけれど、これで終わりにはならないと思います。これまで作品に恵まれなかったライアン・レイノルズにとってもようやく手にした当たり役。その点でも現実と虚構が入れ混じるのです。負け犬のワンスアゲイン映画としても快作だと思います。


■4位:手紙は憶えている
映画『手紙は憶えている』公式サイト
 妻を亡くした90歳のゼブ・グッドマンは、友人からの手紙を元に、70年前にアウシュビッツで家族を殺したナチス将校に復讐するための旅に出る。しかし、彼は認知症を発症しており、ひとたび眠ると妻が死んだことすらも忘れてしまう。その度に手紙を読んで記憶を取り戻さなければならない。はたして彼は目的を達することができるのか。
 記憶がリセットされてしまう主人公の映画と言えばクリストファー・ノーラン監督の出世作メメント』を思い出します。あの主人公は10分しか記憶が保てない障害の中、、妻を殺した犯人に復讐するために手に入れた手がかりや情報を忘れないように体中に刺青していました。本作でも、ゼブが「手紙を読む」と手にメモするシーンがあります。よぼよぼの老人が人を殺すための旅をするというだけでもスリリングだし、なおかつボケ始めているということでプラスのサスペンスが生まれるのです。それがコメディーにならずに物語の重厚さを失わないのは主演のクリストファー・プラマーの存在感が大きいと思います。
 彼に復讐を託す友人・ザッカーはゼブが認知症であることを知っているのでいちいち連絡を取る。執拗に状況を確認する。それがだんだんある種の違和感になっていくのですが、物語は大きなどんでん返しの結末へと向かっていくことになります。若干、中盤でネタが分かりかける部分もあるのですが、それを置いてもよく出来た映画だと思います。アウシュビッツの当事者が高齢になり、存命な者も少なくなってきている中、こうした作品がリアリティを持って作られるのも今の時代が最後かもしれません。そういう意味でも今年リアルタイムで見ることができて良かった映画です。


■3位:オデッセイ

 火星に一人取り残された宇宙飛行士。食糧も物資も足りない中、助けが来るのは数か月後。絶望的な状況を頭脳とスキルで乗り越え、地球への生還を目指すサバイバルものだけど、悲壮感が全くない。常にユーモアを忘れず、パニックにもならず、淡々と目の前の状況に対して対策を考え実行する主人公の姿に引き込まれます。主人公も、地球で対策を考えるNASAの面々も、皆やるべきことをきちんと考え、それぞれの立場で最善を尽くす。主人公が窮地に陥る原因が災害とかどうしようもないことであって、「誰かバカな奴の手前勝手な行動」じゃないのですよ。だから見ていてとても気持ちがいい。いろんな人がすでに指摘してるけど、『オデッセイ』で中国が出てくるのはハリウッドの中国進出のマーケティングではなくて中国のロケット技術が高いからなんですよね。70年代のディスコミュージックが全編を彩る映画ですが、本作のラストでオージェイズの「ラブトレイン」が流れたところでは思わず涙が出てきました。「ラブトレイン」の歌詞はこんな感じ。「世界中の皆、手に手を取ってラブトレインを走らせよう」「次の停車駅はもうすぐさ ロシアや中国の人にも伝えよう」「この列車に乗る時が来たんだ。この列車をずっと走らせ続けよう」。アメリカと中国が協力し、一人の宇宙飛行士を救出するのを世界中が注目する。そんな映画のラストに流れるのがこの曲ですよ。感動するしかないでしょう!
 「人間なめんな」って思うし、元気をもらえる映画でした。『ゼロ・グラビティ』『インターステラー』そしてこの『オデッセイ』と、宇宙のロマンと人間の素晴らしさを描く傑作が最近毎年のように作られてるのはいいことだと思います。


■2位:シン・ゴジラ

 基本的には1954年の第1作『ゴジラ』のオマージュでありつつ、現代版にリアレンジしたという感じでしょうか。あまりネタバレするのも何なのではっきりとは書かないようにしますが、ゴジラが自然災害などのように避けようのない災厄として描かれているのですね。破壊される街の描写やその後の瓦礫の山は当然、東日本大震災を経た上でのものだし、放射能や被ばくの扱いも震災後の日本を象徴するものです。あと「大震災級の災害が首都圏で起こったらどうなるのか」というシミュレーション、思考実験としても興味深いと思います。官邸や内閣、各省庁がどういう指揮系統で対応するのか、自衛隊はどうするのか、等のうねりがマシンガン級に早く情報量の多い台詞の嵐でどんどん物語を推進していきます。自衛隊兵器の扱いも非常にリアルで、この辺は庵野秀明総監督のオタク趣味が全開になっているところでしょう。劇場版『パトレイバー2』に通じる部分もあると思いました。BGMはまんまエヴァ伊福部昭が手がけた旧ゴジラシリーズと怪獣映画の音楽のミックス。そしてクライマックスの作戦の展開はほぼヤシマ作戦!ということでやっぱこれはエヴァです、ほぼ。こんなものを作っていたらそりゃあ、エヴァ新作は遅れるわけだと思うほかありません。後半のクライマックスで東京の街が文字通り蹂躙されるシーンでは「もうやめてくれ!これ以上やられたら日本が終わってしまう!」と本気で思いました。その後の長谷川博己の「日本はまだ立ち直れる」という台詞には庵野監督のロマンというか希望が現れていると思いますね。
 去年『進撃の巨人』を見た時に思った、「樋口真嗣は特撮監督に徹して、きちんと映画を見れる人に監督させればいいのに」ということを実践した映画とも言えるかもしれません。見ようかどうしようか迷っている人はぜひ見ましょう。ゴジラシリーズを見たことがなくても問題ありません。『パシフィック・リム』を見た時に日本人がやるべきことをハリウッドにやられてしまった、という思いがありました。逆に『シン・ゴジラ』は日本人がハリウッドからゴジラを取り戻した映画と言ってもいいでしょう。ゴジラというのは単なる破壊神、怪獣という枠を超えて、その時々の社会を映すメタファーとしての役割を担っているということです。少なくとも1954年ゴジラはそうだったのですよね。


■1位:この世界の片隅に

全国拡大上映中! 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」公式サイト
 こうの史代による漫画原作を片渕須直監督がアニメ映画化。間違いなく、日本アニメ映画史上、いや、邦画史上に残る大傑作だと思います。舞台は戦争中の広島県。19歳の浦野すずは広島から呉に住む北條周作のもとに嫁ぐことになる。慣れない生活に戸惑う中、次第に彼女らの生活にも戦争の影が忍び寄ってくる。原作のトーンを失わない絵柄とテンポで、淡々と戦中の呉の生活が描かれていきます。そのタッチは非常に軽やかで、想像以上にユーモラス。すずのおっとりした性格もあって舞台が戦中であることを忘れそうになるし、物がない時代であっても人々の生活には笑いもあったことが確かに描かれる。しかし後半に進むに従い、すずの生活からは彼女の大事にしていたものがどんどん奪われていく。晴美も、絵も、絵を描くための腕も、奪われていく。そして物語は終戦に近づいていくのです。映画を見ている我々は昭和20年8月に広島に何が起こるかを知っています。映画の時間がそこに向けてカウントダウンしていくに従い、見ている側の鼓動は早くなっていく。NHKテレビ小説「あまちゃん」でも同じような感覚を覚えました。あのドラマは東日本大震災に向けて物語が進む中、やはりどこかコミカルに進む物語や登場人物たちが辿る運命に胸騒ぎを覚えました。そのドラマに主演していた能年玲奈(のん)が本作ですずの声をあてているのは決して偶然ではないと思います。
 原作ではコマの枠外に注釈として書かれていた当時の状況や風俗などの付属情報が映画の中では殆ど説明されません。なので、見ていて今の時代の常識から考えると違和感を覚えたり理解できない場面がしばしばあります。そこに関しては原作や公式ガイドブックで補填しながら、何度も繰り返し見るべき作品だと思います。ひとつ言うと、物語の大きなテーマとしては当時の女性が嫁に入るということはどういうことか、ということだと思います。すずも、周作の母親が病に倒れたために家事の労働力として必要とされていました。当然、家の跡継ぎを産むことも期待されるでしょう。しかし劇中ではすずには子供はできず、右腕を失ったことで労働力としても使えなくなってしまう。立場としては何のために嫁に来たのかわからない、針のむしろだったでしょう。そういった状況が実は細かい台詞の端々や絵で描かれていることが、後から気づくのです。水原が北條家を訪れたことの意味や遊女・りんとの関係など、考えて語りたくなる要素が他にもたくさんあります。そしてラストに訪れるほのかな希望。エンドロールの間、僕は嗚咽に近い涙を流していました。ブルーレイが出れば今後も何度も見る作品になると思います。今年はこの映画に出会えて本当によかったです。文句なし、最も素晴らしかった作品です。
この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック


お粗末様でした。来年もいい映画にたくさん出会えますよう。