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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2016年・私的ベスト10~音楽編~

音楽

■番外:LAY YOUR HANDS ON ME/BOOM BOOM SATELLITES

 今回、ベスト10からは外れますがこの作品にだけは。というかこのバンドについては触れさせてもらいます。ブンブンサテライツ、最後の音源となるこのミニアルバム。中野雅之が語っているように、ミニアルバムとは言えアルバムと同等の密度と思いを込めて作られた作品です。そして、川島道行にとって最後の歌声がここに収められています。脳腫瘍の再発が公表されて以降、厳しいとは思いつつも中野氏のTwitterや公式サイトで伝えられる川島氏の病状はファンにとってやはり辛いものでした。そして、この作品が発表された約4か月後、川島氏はこの世を去りました。ブンブンサテライツは90年代から00年代にかけて、例えばプロディジーケミカル・ブラザーズのように、ダンスミュージックとロックを繋ぐユニットとして機能していました。しかし彼らのアプローチは音だけでなく歌詞やアティチュードで自らの哲学を表現するものでした。つまり元々彼らはダンスユニットではなくロックバンドだったわけです。『FULL OF ELEVATING PLEASURES』(2005)『ON』(2006)『EXPOSED』(2007)のポップ歌モノ3部作を経て『TO THE LOVELESS』(2010)以降、彼らの曲は激しさと温かさが同居する、人間味溢れるものになっていきます。それは川島が父親になったことと無関係ではなかったと思います。この、最後の音源における川島のボーカルを聞くと僕は今でも涙を禁じえません。怒りや苛立ちではなく、人間の愛と寛容をそのまま表現したようなサウンドとボーカルは聞くものを温かな光で包み込むようです。2014年のライジングサンでライヴを見たのが最後でした。そのライヴも素晴らしく、見れて良かったと今でも思ってます。川島さん、ありがとう、そして、さようなら。お疲れ様でした。

BOOM BOOM SATELLITES 『LAY YOUR HANDS ON ME』Short Ver.


■10位:AWESOME CITY CLUB3/AWESOME CITY CLUB

Awesome City Tracks 3

Awesome City Tracks 3

 近年の日本のロックシーンはフェス仕様の四つ打ちロックが席巻するものでしたが、近年はそれに対抗するようにミドルテンポで横揺れのファンキーなグルーヴを主体とするものが増えてきた気がします。ロックというよりJ-POPも含んだ流れかもしれませんが、70年代のR&Bやディスコミュージック、AORや日本における80年代のシティポップを下敷きにしたポップミュージックです。昨年の星野源『Yellow Dancer』やcero『Obscure Ride』もその流れに沿うものだと思います。そして若手ではこのAWESOME CITY CLUB(ACC)やSuchmosがその筆頭になるのでしょう。Suchmosはジャミロクワイや90年代アシッドポップの影響を感じさせるのに対し、ACCはもっとてらいなくポップの王道から逃げようとしません。前述のような80年代シティポップ、歌謡曲の匂いさえします。PORINの女性ボーカルにある萌え要素も当然の武器として使う強かさがあります。今後、彼らのようなサウンドを標榜するバンドも増えてくると思うのですが、先行する彼らがここまでストレートなことをやってしまうと後に続くものは難しくなるかも、とすら思います。そういう意味では今後のシーンのキーになるバンドかもしれません。このアルバムも、どこからどう聴いても間違いないポップスが並んでいます。青春のコンプレックスが全くないサカナクションと言ってもいいかもしれませんね。

Awesome City Club – Don’t Think, Feel (Music Video)


■9位:BLACKBERRY JAM/NONA REEVES

BLACKBERRY JAM

BLACKBERRY JAM

 ロックシーンとは無関係の独自なポップスという意味ではこの20年間それを突き詰めてきたバンドがノーナ・リーヴスです。西寺郷太マイケル・ジャクソンの急逝以降、マイケル研究家、80年代洋楽研究家として文筆業やラジオなどで活躍の場が増えましたし、ノーナの音楽もそれに比して注目されるようになったとは思います。しかし、それでも彼らの持つ音楽性に対してまだ世間の評価は追いついていません。正直ミュージシャンズ・ミュージシャンの域を出ていないと思います。ファンとしてはそれをもどかしいと思いつつ、宝物のような彼らの音楽を愛でることに喜びを感じるのです。結成20年、彼らの音楽は洋楽をベースとしたJ-POP/ROCKのお手本として全くぶれない作品を積み重ねてきました。1曲目「HARMONY」の歌詞に彼らの本音とプライドが現れているような気がします。「ひと昔前まで俺たちは ミスター・マニアックと呼ばれたけど 今じゃそれぞれのスキルだけを武器にして平和な音楽を繋いでる」。彼らと同世代の自分にとってはノーナのような、80年代を下敷きにした音楽が広く認められて欲しいと切に願うし、今の若いバンドを見ているとそんな時代が近づいて来ているのかもしれないとワクワクする部分があるのです。

NONA REEVES / HARMONY


■8位:A MOON SHAPED POOL/RADIOHEAD

ア・ムーン・シェイプト・プール

ア・ムーン・シェイプト・プール

 レディオヘッドの新作となれば世界的な話題にならざるを得ないわけですが、『IN RAINBOWS』『KING OF LIMBS』と比べれば多少、まだわかりやすい作品かなという気がします。サウンドとしては70~80年代にかけてのブライアン・イーノのような、アンビエント・ミュージックの影響が強いと思います。歌詞はこのアルバムの制作中に23年間の結婚生活にピリオドを打ったトム・ヨークの個人的な想いが反映されたものと、現代社会に対するオピニオンが混じり合ったものになっていると思います。僕は10数年前、レディオヘッドプログレであるという話を書いたけど、基本的にその感想は変わっていません。ただ、レディオヘッドというバンドの立ち位置が変わったということだと思います。大文字の「ロック」という言葉を背負っていた2000年代前半と違い、今のレディオヘッドはもう少し身軽な立場で音楽を紡いでいるのだと思う。以前からライヴで演奏していた曲が散見されるこのアルバムは古参のファンとしては多少肩すかしを食らうものかもしれないけれど、バンドのスタンスとしてはいいものになっていることを示すものではあるのじゃないでしょうか。ラストの「True Love Waits」を聞いていてそう思う。人の気持ちは移り変わるもので、それは寂しいかもしれないが悲しいことではないのです。

Radiohead - Burn The Witch


■7位:METAL RESISTANCE/BABYMETAL

METAL RESISTANCE(通常盤)

METAL RESISTANCE(通常盤)

 今年のライジングサンで初めて彼女たちのステージを見まして。非常にに感服しました。無表情に歌うSU-METALの歌唱力は確かだし、ゴスロリっぽい衣装を着たかわいい女の子がゴリゴリのヘビメタをバックに踊るその姿は海外でウケるのも当然でしょう。音楽的なクオリティの高さと強固なコンセプトの確かさ、彼女らのパフォーマンス(というかSU-METALの歌唱力)が成功の肝なのでしょう。アイドルなのかメタルなのかとか、本物かまがい物なのかという議論は正直くだらないと思います。2作目のフルアルバムとなる本作は彼女らが世界を制覇した凱歌というべきアルバムであり、ここまでの彼女らの歩みを総括する頂点だと思います。「Road of Resistance」や「Tales of Distance」のような壮大な曲と「KARATE」「あわだまフィーバー」などのポップなメロディーの曲とのバランスもいいと思う。多分これからはマンネリとの戦いになっていくと思います。もしかしてメタル×アイドルという化学反応を無邪気に消費できる最後のポイントが今年、このアルバムになるかもしれません(個人的にはもちろん、そうならないことを願いますが)。13年前にt.A.T.u.にハマった時も思いましたが、こういうものは変に斜に構えて批評したりせずに真正面から楽しんで消費すればいいのだと思います。消費されることから逃げていないこのアルバムはカッコいいですよ。

BABYMETAL KARATE @ Genting Arena Birmingham


■6位:HARD WIRED ... TO SELF DISTRACT/METALLICA

ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト(デラックス)

ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト(デラックス)

 2008年の『Death Magnetic』以来となるオリジナルスタジオアルバム。全12曲で80分弱、CDでも2枚組としてリリースされるというボリュームになっている。すごいのはそのボリューム以上に非の打ち所のない横綱相撲のようなその中身。1曲目“Hardwired”から4曲目“Moth into Flame”までの流れは今年最もリピートしたと思います。アドレナリン噴出しまくり。それ以降はミドルテンポの重厚なナンバーが主体になりますが、退屈どころか渦巻くグルーヴにぐいぐいと引き込まれていく。どの曲もギターリフのアイディアと密度をとことん追求したような曲ばかりでベテランの安定感というよりはストイックさと瑞々しさが同居したようなアルバムになっている。未だにメタリカのファンの中には「速けりゃいい」的な価値観を持っている人が少なくない気がします。もちろんそこが初期のメタリカの傑作群の魅力であり、それにより彼らが特別なバンドになったことは確かですが、今の彼らの凄さや魅力はそれだけではないと思います。「今後もお前はメタリカを好きでい続けられるのか?」という問いをファンに突き付けるようなアルバムと言えるのかもしれません。僕は圧倒的に支持派です。
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■5位:THE LAST/スガシカオ

magro.hatenablog.com
 「いつもふるえていた アル中の父さんの手」という衝撃的なフレーズで始まる冒頭の「ふるえる手」は、最後に収められた「アストライド」と対を成す曲になっています。「何度だってやり直す」という決意と希望をスガシカオは再出発であり集大成とも言えるこのアルバムの最初と最後に配置しました。他に収められた曲も、生々しさと直接性を持つ、ザラザラしたものばかりです。サウンドも非常にエッジが効いたものになっていて、さわやかなBGMになるようなものではないでしょう。歌詞も音もどこかいびつで独自性の強いものだと思います。しかしスガシカオの声で歌われるとこれらの曲は不思議とポップな色合いを持つ。彼の声にはそういう力がある。スガシカオの曲はミもフタもない人間の本質や業のようなものを暴いてみせる。このアルバムにはそんなダイレクトな表現が詰まっています。僕はポップミュージックというものはポップであるからこそ毒を孕まなくてはいけないと思っています。メジャーから独立する際、スガシカオは「50歳までに集大成的なアルバムを作る」とコメントしました。まさに、これがそのアルバムなのです。生々しく、ダイレクトで、毒があり、いびつだけど、ポップ。僕にとってのスガシカオはそういうアーティストで、その本質が久々に真空パックされたようなアルバムになったと思います。

スガ シカオ - 「真夜中の虹」 MUSIC VIDEO


■4位:META/METAFIVE

META

META

magro.hatenablog.com

 高橋幸宏LEO今井テイ・トウワ権藤知彦、まりん、小山田圭吾というメンバーで結成されたMETAFIVEのファーストアルバム。改めて見ると、すごいメンバーだと思う。これだけのメンバーが揃っていながらこのアルバムには所謂スーバーバンドにありがちなエゴのぶつかりや縄張り争いが見えない。ボーカルはLEO今井高橋幸宏が曲によって分担している。小山田圭吾YMOでのライブのようにほぼギタリストに徹している。各々が自分の持ち場でやるべきことをやり、他のメンバーの持ち味を尊重して引くべき所は引いているという印象。作詞についてはLEO今井が中心になっているが、それも得意な人間に任せたと言う感じなのだろう。全員がミュージシャンとして独立した人たちなので、自分の好きにやりたいことは自分主体の場所でやればいいという思いがあるのだと思う。すごく大人なバンドだと思います。
 サウンドは基本的には80年代初期の高橋幸宏氏のアルバムのように、ニューウェーブ感を強く意識しながらも非常にソリッドでエッジの効いたポップス。1曲目「Don't Move」に象徴されるように非常にアッパーでアクティブな音だと思う。「Luv U Tokio」ではYMOのサンプリングもあったりして、遊び心も忘れない。11月にリリースされたミニアルバム『METAHALF』も名曲揃いで、必聴です。活動休止は残念ですがこのメンバーのスケジュールを合わせるのも大変だろうし、仕方がないのかなあ。

METAFIVE 「Musical Chairs」

METAHALF

METAHALF



■3位:BLACK STAR/DAVID BOWIE

Blackstar

Blackstar

 今年は本当に音楽界のビッグネームの訃報が多い一年でしたが、それは1月10日のデヴィッド・ボウイから始まりました。28枚目のスタジオアルバムにして、最後の作品。69歳の誕生日にリリースされ、その2日後に彼は帰らぬ人となりました。新世代のジャズ・ミュージシャンを多く起用し、ジャズの要素を大きく取り入れています。ボウイはこのアルバムが自身にとって最後の作品になることを知っていたはずで、その中で新たな試みを行ったりこれまでなじみの無い若いミュージシャンたちと仕事をするというのは普通ならあまり考えないことじゃないかと思う。しかしそこがボウイで、変わることを恐れず、常に新しいチャレンジをし続けるという彼の姿勢がこのラストアルバムでも貫かれていることに感動を禁じ得ないのです。なおかつそれがアートとしてもポップミュージックとしても高いレベルで成立しているという、最後の最後に奇跡のようなアルバムを置いていきました。初めて聞いたのがすでに亡くなってからなのでフラットに語ることはできませんが、歌詞は死を目の前にした男が人生を振り返り残された者たちに語りかけているように聞こえます。「これが私の送り続けたメッセージだ」「私は全てを与えることはできない」という終曲“I Can't Give Everything Away”。この曲の意味を、たぶん僕はこれから先もずっと考え続けていくんだろう、と思うのです。
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■2位:幸福/岡村靖幸

幸福

幸福

magro.hatenablog.com

このアルバムについてはリリース時に書いた感想に全てをぶつけているので特に付け加える必要はないです。活動再開以降の岡村ちゃんサウンドの集大成であり、青春を再定義した岡村ちゃんのキラキラした輝きがここに凝縮されていると思います。リアルタイムで追いかけ続けてきたファンも、新たに彼の音楽に魅了された若い世代にも「自分のための音楽」として届く説得力をようやく彼は手にできたのではないかと思うのです。それが「幸福」というアルバムタイトルに表わされています。何度でも言うけど、岡村ちゃんは今が最高です。まだ間に合うよ。

岡村靖幸 映像作品「幸福2016」予告編


■1位:Fantome/宇多田ヒカル

Fantôme

Fantôme

 2010年の「人間活動」による休止を経て、2008年『HEART STATION』以来8年ぶりとなるオリジナルフルアルバム。今年最も話題になった作品なのは間違いないでしょうし、内容もセールスもその期待を裏切らない、今年を代表するアルバムだと思います。活動休止中にリリースされた「桜流し」もそうですが、本作に流れる大きなテーマは母親・藤圭子の死と宇多田ヒカル自身が母親となったことです。「道」はストレートに母親の存在が自身に与えた影響を歌った曲ですが、こうしたことを明確に言葉にして出せるようになったのは自分自身も母親として同じことを子供に与えていくのだという自覚と事実に向き合ったからこそでしょう。それと呼応するように、サウンドの手触りはプログラミングを使っていてもどこかアコースティックでオーガニックな感触のものになっています。個人的にLGBTをテーマにした「ともだち」は本作でも白眉のナンバーと思いますが、こうした曲は休止前の彼女からはなかなか出てこないものだったと思います。「忘却」などもそうでしょう。どの曲も説得力と奥深さがやはりこれまでの曲と違うと思うし、また、同時に「ああ、宇多田ヒカルって確かにしばらくシーンに居なかったんだよなあ」と思わせるのです。本作にも参加している彼女の盟友・椎名林檎もそうでしたが、圧倒的な才能を感じさせるのは同じでも、女性アーティストが母親になる前と後でその作品の説得力や深度が全く違うものになることがあるのです。色々と屁理屈をこねることはできますが、単純に「やっぱ宇多田ヒカルすげえわ」という他にない傑作だと思います。

宇多田ヒカル「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」(Short Version)


今年10枚選ぶのは結構難しかったです。単純に聞いた回数ならアヴァランチーズ『ワイルドフラワー』やレッチリ『ザ・ゲッタウェイ』もあるし、スピッツ『醒めない』は最後まで入れるかどうか悩みました。ただ、洋楽邦楽分けるほどでもないし…という中でこの1週間くらいはこんな感じ、で選んだものです。来年もいい音楽にたくさん出会えますよう。最後に、今年最も聞いた楽曲を。皆さん良いお年を。

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