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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

転がり続ける魂。

 エレファントカシマシ結成30周年を記念してのオールタイム・ベスト盤。実際のエレカシの活動は80年代前半から始まっているはずで、何をもって結成かという問題はあるが、多分高緑成治が加入して現在に至るラインナップになってから30周年ということなのだろう。
 彼らのように長いキャリアを持ち、作品数も多いバンドの場合、オールタイムベストというのは非常に難しい。時期によって曲の指向も変わるし、ファンの入れ替わりも多い。エレカシの場合簡単に言えばデビューしてから『東京の空』までのEPICソニー時代、『ココロに花を』から「今宵の月のように」でブレイクを迎えるポニーキャニオン時代、ほぼ宮本のソロとも言える『good morning』からバンド回帰を果たす東芝EMI時代、そして「俺たちの明日」から再ブレイクと言っていい充実を迎え現在に至るユニヴァーサル時代。ざっくり分けてもこれだけのフェイズがあり、サウンドも曲調もバンド内の力学も様々だ。何より、その膨大な楽曲群には20代前半から40代後半までの男の人生が刻まれているわけで、一筋縄ではいかない。言うまでもなくエレカシの場合、シングル曲を並べればベスト盤になるかというとそんなことはない。エレカシ自身すでにベスト盤と名のつくものは何作もリリースしているが、万人を満足させる選曲というのはほぼ不可能に近いのだ。
 今回はその点、宮本自身が選曲を行っていることが重要だ。ファンにとってはもちろん「あの曲がない、この曲がない」という意見はあろうが、ここには宮本による「これがエレカシですよ」という一つのフォーマットが提示されている。2枚組の本作ではそれを「Mellow&Shout」「Roll&Spirit」とディスクごとに色合いを分けて選曲している。
 簡単に言ってしまえば「Disc1:Mellow&Shout」にはセンチメンタルで繊細な曲、万人に受け入れられるメロディアスで開かれた曲が多く、「Disc2:Roll&Spirit」にはロックンロールバンドとしてのエレカシのコアな部分、激しい面が収められていると思う。しかし、Disc1にユーミンのカバー「翳りゆく部屋」が収録されていたり、Disc2にアコースティックな「涙」が入っていたりと一概に言えるものでもない。長年のファンはこの選曲に対する宮本の意図を読み取ろうとすることで改めてエレカシというバンドの奥深さに向かい合うことになるだろうし、最近ファンになった人にとってはここから過去作を辿る入門編にもなると思う。
 エレカシの最高傑作は何かという問いは、ファン歴が長ければ長いほど難しい質問だ。自分の思い入れを込みで考えてしまうと、それはファンとして過ごした自分の人生を振り返ることにもなるからだ。僕の場合も『生活』というアルバムは絶対にはずせないし、『東京の空』も『ココロに花を』も重要なアルバムだ。そうした自分史を外して、俯瞰的にエレカシというバンドを見た時にはやはりデビュー作『THE ELEPHANT KASHIMASHI』に行きつくのではないかと思う。バンドの歴史は積み重なっても、このデビュー作にはそのすべての萌芽がすでにここにあったのだと思えてしまう。現在の彼らのライブにおいてもハイライトとして君臨するその1曲目「ファイティングマン」を、宮本はこのベスト盤のタイトルとし、ラストに配置した。ここからすべてが始まり、最後にはここに行きつくということだろうか。宮本がエレカシというバンドの本質をどうとらえているのか、透けて見えてくるような気がするのだ。

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