無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

もう10年、まだ10年。

サカナクション 「SAKANAQUARIUM 2017 10th ANNIVERSARY 『2007.05.09』 TOUR」
■2017/06/23@ニトリ文化ホール

 サカナクションが1stアルバム『GO TO THE FUTURE』をリリースしたのが2007年5月9日。それから10周年ということでのアニヴァーサリーツアー。僕がサカナクションというバンドを認識したのは2ndアルバム『NIGHT FISHING』が出た2008年最初の頃。そこからの彼らの歩みは早かった。3rd『シンシロ』やシングル「アルクアラウンド」がチャートの上位に入り、2010年10月には初の武道館公演。ライヴの規模やリリースの話題性などもどんどん大きくなり、音楽性とセールス、ライブ動員でもシーンの最先端を行くトップバンドとしての地位を確立していった。ライブ演出なども「そこまでやる?」という驚きを常に与えてくれていたし、会場の規模が大きくなってもライブにおけるサウンドのクオリティはいつも素晴らしいものだった。
 そんな風に振り返りモードで開演を待っていた。ホール会場ながら、ステージだけでなく客席の横のエリアまで光るポールのようなセットが張り出している。心臓の音のようなビートに合わせ、赤と青の光が客席までぐるりと移動する。「新宝島」から始まったライブは初期の曲までキャリア全般から万遍なく選ばれていた。初期の曲、特に『GO TO THE FUTURE』の曲などは打ち込みが少なく、バンドの生のアンサンブルが堪能できるのがうれしい。表題曲はちょっとジャジーなアレンジが加わってオシャレになっていた。中盤、「シーラカンス」「流線」ではおなじみのオイルアートをスクリーンに映し出すのだけど、そのやり方も洗練されていた。ステージ後方ではなく前方に位置した半透明スクリーンを使っていた。レーザーで円形の窓を作り、その中にオイルアートを映し出す。後方から照明を当て、窓の中には山口一郎のシルエットが映し出される。リアルタイムでアートビデオを作成しているようなスリリングさと美しさ。特に「流線」ではサイケデリックな空間が表出していたと思う。
 「バッハ~」から「三日月サンセット」の流れは実に見事で、スマートなDJプレイのようだった。「三日月」のアレンジも今のサカナクションに合わせてブラッシュアップされていた。本編は曲間が途切れず、ほぼ全編シームレスに繋がっていく展開だったのだけど、この「バッハ」から「三日月」、そしてクラフトワークフォーメーションでの「SORATO」「ミュージック」へと繋がる流れは素晴らしかった。縦横無尽に飛び交うレーザーも相まってテンションも上がる。まさにクライマックスだった。「まだまだ踊れる?」の声とともに「夜の踊り子」「アイデンティティ」とさらにヒートアップ。長年ファンに愛され続ける名曲「ナイトフィシングイズグッド」で本編ラストとなった。

 アンコールは今回のツアーでの目玉企画である「アンコールくじ引き」で2曲を決める。ライブ後に感想などをエゴサーチしているとセットリストに関して「「ルーキー」「アイデン」飽きた」とか書かれてて凹むらしい。だったらくじ引きにすれば文句出ないだろう、ということのようだ。僕が初めてサカナクションを見たペニーレーンでの「NIGHT FISHING」ツアーファイナル、アルバム2枚分の曲を全て演奏してしまい、2回目のアンコールでやる曲がなくなってしまったことがあった。その時はメンバー1曲ずつ候補を出してお客さんに選んでもらい、拍手が一番大きいのを演奏した。(その時は「ナイトフィッシングイズグッド」だった。)そんな微笑ましい場面を思い出したりした。候補曲をすべては覚えていないのだけど、最近はあまり演奏されない曲も多く、どれをやったとしても面白そうだった。曲を紹介するときに一郎君が一言コメントをつけていて、それがなかなか面白く。「父親の工房で引きこもって書いた曲」(「アムスフィッシュ」「フクロウ」)とか「つらい思い出しかない」(「エンドレス」)とか。「ワード」の時に、「YUKIさんに書いてコンペに出したんだけど落ちて。その時に決まったのが「JOY」。そりゃ負けるよね。」みたいなことを言ってて、僕は初めて聞いたエピソードだったので驚いた。厳正なるクジ引きの結果、選ばれたのは「アムスフィッシュ」「ワード」、奇しくも『NIGHT FISHING』から2曲。「アルクアラウンド」を挟み、新曲を演奏。非常にポップでダンサブルで、シングルっぽいなという感じの曲だった。一郎君によれば今は踊りたいハッピーな気分の曲を作りたいのだそう。それだけではサカナクションらしくない(笑)と思うけど、年内には絶対という次のアルバムにはそうした気分も反映されるんだろう。楽しみに待ちたい。

 山口一郎はサカナクションが注目され始めた割と初期から、「(自分が好きで聞いている)アンダーグラウンドな音楽とメインストリームとをつなぐ架け橋になりたい」と言っていた。チームサカナクションが大きくなった今でも、というか大きくなったからこそできることも増えているだろうし、ある意味それを利用している部分もあると思う。僕は前作『sakanaction』のアルバム発売イベントで一郎君に「今のサカナクションのライブは規模も演出も当初からは考えられないほどスケールアップしているけど、最初から今のようなことをやりたいと意識していたのか?」という質問をした。答えは否で、最初は何ができるか、自分たちが何をしたいかもわかっていなかったという。しかし次第に技術も知識もついてくるにつれ、やりたいことやアイディアが次々と出てきて、それを実現できるよう協力してくれるスタッフも増えてきて今に至るのだ、ということを丁寧に説明してくれた。ペニーレーンでのライブを見ている人間からすると10年経った今のサカナクションはとてつもなく遠くに行ってしまった感があるけれど、その道のりはけっして平坦ではなく、一歩ずつ事項錯誤しながら歩んできたのだろう。この日のライブも、音楽・映像・演出、全てにおいて今まで培ったスキルを惜しみなく発揮していたと思う。いつでも誠実にファンの方を向いて音楽を作ってきたバンドだと思うし、そこはこれからも信頼していきたい。

 どんなに大きなバンドになっても、北海道、札幌でのライブでは常に「おかえり」の声がかかる。そうやって、これからも地元のファンとして温かく応援したい。10周年、おめでとうございます。

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(以下ネタバレセットリスト)

■SET LIST
1.新宝島
2.M
3.アドベンチャー
4.Aoi
5.シーラカンスと僕
6.流線
7.ユリイカ
8.ボイル
9.GO TO THE FUTURE
10.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
11.三日月サンセット
12.SORATO
13.ミュージック
14.夜の踊り子
15.アイデンティティ
16.多分、風。
17.ナイトフィッシングイズグッド
<アンコール>
18.アムスフィッシュ
19.ワード
20.アルクアラウンド
21.(新曲)
22.目が明く藍色