無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2017年・私的ベスト10~音楽編(2)~

■5位:THE KIDS / Suchmos

THE KIDS

THE KIDS

 2016年から2017年にかけて、シーンでの立ち位置、存在感、もちろんセールスや注目度まで、あらゆる意味で最も大きく変わったバンドの一つであることは、誰もが認めるところでしょう。ただ、「STAY TUNE」がいくらカッコよくてもどこかハイプの匂いがするというか、素直に「すごいバンドだ!」とは言えない気がしてました。2016年にフェスで見た時はサウンドチェックでジャミロクワイを演ってみたりして、自分たちのルーツや趣味を隠さない臆面の無さもそのような印象に繋がっていたかもしれません。しかしこのアルバムでは自分たちのルーツをそのままなぞるのではなく、きちんと消化してから独自のサウンドとして鳴らそうという気概が見えます。ポップでオシャレなだけではなくて一本芯と筋の通ったロックっぽさも感じられるアルバムでした。バンドの自信や覚悟みたいなものが見えて、軽々しく聞こえてこない気がします。まだキャリアの短いバンドではあるけれど、彼らにとってまずは決定盤になったアルバムだと思います。

Suchmos – PINKVIBES [Official Music Video]


■4位:MISSION / Nona Reeves

 20周年アニバーサリーイヤーのノーナは2枚のベスト盤をリリースし、満を持してこの『MISSION』というアルバムを作りました。長く音楽を聞いていると軽々しく「最高傑作」という言葉を使いたくなくなってくるのだけど、『MISSION』はそう呼ぶにふさわしいものだと思います。20年間積み上げてきたものを惜しげもなく注ぎ込み、これからのノーナも魅力的であると確信させる充実の一枚。各曲どのフレーズ、どのアレンジを切り取っても「こういうものを作りたい」という意図に溢れていて隙がない。2017年の邦楽シーンともリンクした本当にいいアルバムだと思います。 いつか(元Charisma.com)、曽我部恵一原田郁子など、ゲスト参加のミュージシャンも豪華で、しかも適材適所。単に仲がいいから呼びましたではないところがいい。「Danger Lover」は今後DJセットの常連になりそうだし、原田郁子とのデュエット「記憶の破片」は歌割りにこだわりを持つ西寺郷太氏にとっても会心の出来だと思う。
 20年の間に仲間だったミュージシャン、バンドが活動をやめてしまうこともたくさんあったという。そうした仲間や同志に向けて、そしてこれからも歩み続ける自分たちに向けて万感の思いを歌うラストの「Glory Sunset」は、ノーナの新たなスタンダードになるだろう。来し方行く末双方に目配りするということは、これまでのファンをもちろん満足させ、さらに新たにこれからノーナを知るだろう人たちに向けてもアピールするということ。それを手癖じゃなく丁寧に練り上げて作っているところがいいと思います。

NONA REEVES『MISSION』全曲ダイジェスト


■3位:光源 / Bass Ball Bear

Kougen

Kougen

 僕は決してベボベの熱心なリスナーやファンというわけではなく、彼らの音楽よりもむしろラジオで自分の趣味嗜好を勝手気ままに喋る小出祐介という人物に興味を持ってました。ただ、彼らの音楽のテーマとしてデビュー以来「青春」というものがあったことは理解できます。本作は湯浅将平脱退後初のオリジナルアルバムであり、改めて真正面から「青春」というものに向き合ったアルバムと言えると思います。
 その青春というのは決してキラキラした思い出ではなく、ある種の切なさや痛みと不可分のものだと思います。極端に言えば「黒歴史」と言ってもいい。ただ、その人が今現在その人であるために必要だった時間であるし、また取り戻したい、やり直したいと思っても二度と叶わないもの、として青春を相対化していると思います。小出祐介にとってベボベというバンドは少なくとも青春の一部分ではあったでしょう。そのバンドからメンバーが脱退したことと本作のテーマは無関係ではなかったと思います。すでに青春を過ぎた人間だからこそ、ここまで青春というテーマをえぐることができたのだと思います。
 本作が素晴らしいのは前述のようにそれがどんなに痛みを伴い、忌むべきものだったとしても青春という時間は必要なものだったし、それがあるから現在があるのだ、とはっきり言っているところだと思います。岡村靖幸が『幸福』で描いた「青春の再定義」と、僕にはどこか重なる部分があると思っています。「逆バタフライ・エフェクト」はもう本当に、何度聞いたかわかりません。DJでかけながら、いつも泣きそうになっているのです。

Base Ball Bear – すべては君のせいで Music Video


■2位:Mellow Waves / Cornelius

 オリジナルアルバムとしては実に11年ぶりとは言え、その間プロデュース業やミックスもあったし、「デザインあ」や「攻殻機動隊」のサントラもあったし、YMOのサポートやMETAFIVEもあったし、ステージ上でも音源でもコーネリアスの不在を感じることはあまりなかったように思います。そして本作を聞くとこの間の活動が彼自身の音楽に与えた影響は少なくなかったのだと改めて感じます。
 本作と『SENSUOUS』の大きな違いは歌ものとしてボーカルやメロディーが基本線にあるということだと思います。salyu×salyuや「攻殻機動隊」の仕事を通じて坂本慎太郎の作詞に出会ったことがターニングポイントだったのではないでしょうか。『POINT』から『SENSUOUS』の流れでは歌詞はほとんど文章としての意味を成さず、音節まで分解された上で、極端に言えばあくまでサウンドの一要素として処理されていたと思います。それに対して本作ではきちんと意味のある歌詞にそれを伝えるためのメロディーが与えられている。全体のサウンドの構築そのものに大きなテーマがあった前2作に比べ、圧倒的に人間の体温が感じられる内容になってます。その分、不安定な揺らぎのようなものも出てくるのだけど、それもまた心地よい。アルバムタイトルの意味するところはそんな感じなのではないでしょうか。今後のコーネリアスのサウンドの方向性がどのようなものになるのかはわかりませんが、小山田圭吾が50歳を前にある種伝統的なソングライティングに戻ってきたのは非常に興味深いと思います。

Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here"


■1位:Funk Wav Baunces vol.1 / Carvin Harris

 今年最も驚きをもって聞いたアルバムだし、単純に最もヘビーローテーションで聞いたアルバムです。カルヴィン・ハリスというと大物ボーカリストをフィーチャーして最先端のEDMサウンドを鳴らすDJ/プロデューサーというイメージしかなかったのですが、本作はほぼ全編生音。しかも演奏自体もほとんどカルヴィン・ハリス自身が行っていると言う。BPMは凡そ100前後で、ダンスミュージックとしてはゆったり目です。EDMから生音への回帰というと、やはり2013年のダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』を思い出さずにはいられません。ナイル・ロジャースジョルジオ・モロダーという80sレジェンドとコラボし、ファンキーなディスコサウンドを鳴らしたあの傑作です。本作にも似たテイストを感じますが、ダフト・パンクが前述のように80年代という過去の音楽へのアクセスを一つのテーマとしていたのに対し、本作はあくまでも現在の音楽、最先端のR&Bやヒップホップを標榜していると思います。それはゲストのラインナップからも明らかでしょう。
 兎にも角にも、このアルバムは曲がいい。アレンジがいい。フィーチャリング・ゲストが豪華だし、各々のパフォーマンスも素晴らしい。インストはなし、全編歌もので一貫していて全10曲38分というタイトさもいいです。何度も繰り返して聞きたくなる中毒性があります。2017年、何聞いてた?と言われたら真っ先に僕はこのアルバムを挙げます。

Calvin Harris - Prayers Up (Official Audio) ft. Travis Scott, A-Trak


というわけで2017年、私の選んだ10枚でした。他にもねごと『ETERNAL BEAT』、佐野元春&THE COYOTE BAND『MANIJU』、桑田佳祐『がらくた』、Awesome City Club『Awesome City Tracks 4』など、いいアルバムはたくさんありました。今年もいい音楽にたくさん出会えますよう。

ETERNALBEAT

ETERNALBEAT

  • ねごと
  • ロック
  • ¥2100
MANIJU

MANIJU