無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2018年・私的ベスト10~映画編(1)~

今年は映画館で見た作品が少なくて。見たかったやつを見逃して後からブルーレイで見直すパターンも多かったです。なので非常に狭い範囲でのベスト10です。

10位『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』


映画『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』新予告

1995年の映画『ジュマンジ』の続編。ということになっているのだけど、前作を見ていなくても大丈夫です。

ロック様ことドウェイン・ジョンソン主演のアクション映画ということで誰でも楽しめるお気楽エンターテインメントでしょ?と若干バカ映画扱いされているかもしれません。しかし見てみたら意外に拾いものでした。

問題を起こした生徒4人が学校で居残りを命じられる、という冒頭から明らかに『ブレックファスト・クラブ』を引用した展開になっています。ジョン・ヒューズ監督による、1985年の青春映画の歴史を変えた傑作です。

その4人は童貞ガリ勉オタク、スポーツマン、かわいこちゃん、オタク女子。ゲームの世界に引きずりこまれた4人は現実とはかけ離れたキャラクターになり、それぞれのスキルを駆使してゲームをクリアし現実世界に戻ろうとするわけです。

その中でそれまで別の世界にいた者同士がお互いに理解を深め、親密になっていくという展開はまさに『ブレックファスト・クラブ』そのもの。青春映画の金字塔と言えるこの名作を下敷きにしている時点で、単なる娯楽アクションとは違った趣になっています。

SNS依存症のかわいこちゃんがジャック・ブラックになるという時点でコメディ要素たっぷり。あとは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ではガチガチメイクでネビュラを演じていたカレン・ギランが素顔で出てますが、めちゃくちゃキュートで最高ですね。

『ブレックファスト・クラブ』と違って現実に戻った彼らが普通に仲良く学校生活を送るあたりはちょっと物足りなさを覚えるところですが、そこはまあ良しとしましょう。

9位『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』


『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』予告編

1994年のリレハンメル五輪の選考会となる全米フィギュアスケート選手権直前に起こった「ナンシー・ケリガン襲撃事件」。当時日本でもワイドショーを賑わせたこの事件を中心に、トーニャ・ハーディングの半生を綴っていく映画。

実際の事件を元にしているし、俳優たちは実名の役で、カメラに向かってインタビューに答えるように演技する。いわゆるフェイク・ドキュメンタリーの手法を取っているのだけど、その実、何が真実なのかはこの映画を見てもわかるわけではありません。

当事者たちの証言が食い違っていて、それをそのまま映像化しているので見ていても何が本当なのかわからなくなってくる。

しかしこの映画の目的は真実を明らかにすることではなく、なぜこんな事件が起きたのかをトーニャという人の人生を振り返ることで推測することであり、そしてよくわからない事件をよくわからないものとしてそのまま映像化することなんだと思います。

テンポよく話が進むし、登場人物が観客に向かって語りかける、いわゆる「第四の壁を破る」手法がとられている。そして70年代~80年代のロックナンバーがガンガンかかる中、実際に起きた事件を描いていく。

これはまさにフィギュアスケート版『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』でしょう。出てくるキャラクター全員頭がおかしくてバカなところも似ています。エンドクレジットで、実際のインタビューやニュースの映像が出てくるのだけど、 どのキャラクターも似すぎてて笑えます。

唯一脚色というか、想像で描いたのは母親でしょうか。実際この部分が一番ドラマ的であり、強烈なキャラクターを見事に演じたアリソン・ジャネイはアカデミー受賞も当然のインパクトです。

全体に悲壮な感じにならず、あくまでもカラッと仕上げたところが高感度高かったです。

あと、トーニャの幼少期を演じたマッケナ・グレイスちゃん。『ギフテッド』でも最高の演技を見せてましたが、ここでもちょっと大人になった彼女が素晴らしい演技を見せてます。この人、あと数年経ったらハリウッドでも最高の若手女優になるでしょうね。

8位『スリー・ビルボード


アカデミー賞有力!映画『スリー・ビルボード』予告編

ミズーリ州の寂れた道路に掲示された巨大な3枚の広告看板。設置したのは、7カ月前に何者かに娘をレイプされ殺された母親。犯人は一向に捕まらず、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長ウィロビーを名指しで批判する広告を出したのです。

最初はとんでもない話だ、とミルドレッドを応援する気持ちで見始めるのだけど、どうも様子が違うのですね。ウィロビー警察署長は人望も厚く、仕事熱心で家庭では良き父親である。名指しで職務怠慢を批判されるような人物ではありません。

そしてミルドレッドは娘を殺されたのは事実でも、決してほめられた人間ではないことが見えてきます。簡単に言えば自己中心的なトラブルメイカー。

もう一人重要な登場人物が署長を敬愛する警察官ディクソン。マザコンで人種差別主義者で、弱いものに対し権力を振りかざす彼は第一印象で最も忌むべき人物です。しかし、映画を観終わった時には観客が最も感情移入するキャラクターになっているでしょう。一言で言えば「おいしい」役。

看板と同じように、人間にも裏と表がある。一面だけ見てその人間を理解できるはずはない。この映画のテーマがそうであるとするならば、そのテーマを最も体現しているのがディクソンだと思います。

ただ、本作のテーマはそれだけではないでしょう。映画の中で起きた出来事、この田舎町、アメリカという国、そのトップにいる人物。それは果たして、あなたが思っているようなものなのだろうか?と問いかけてくる気がするのです。この映画で描かれる3人の主要人物に対するミスリードは、一種の寓話に過ぎないのではないか、と。

マーティン・マクドナー監督が映画監督、そして脚本家としても世界的に認められる出世作となったわけですが。僕は、アカデミー監督賞はともかく少なくとも脚本賞にはノミネートされるべきだったんじゃないかと思います。

7位『ペンタゴン・ペーパーズ』


メリル・ストリープ、トム・ハンクス主演!『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編
1971年にベトナム戦争に関する政府報告書である「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在を、NYタイムスがスクープしました。すでにベトナム戦争は泥沼化してましたが、アメリカ政府はベトナム戦争に負けることが分かっていながら、戦争を続けていたというのです。

ただ、本作の主人公はNYタイムスではなく、ワシントン・ポスト紙です。政府はスクープを載せたNYタイムスの記事を差し止めようとします。それに対し、当然タイムス側は抵抗。ワシントン・ポストも「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手し、独自に記事を掲載します。機密漏えいの罪と報道の自由とが裁判の場で争うことになったのです。

裁判の結果がどうなったのかは調べればわかりますが、重要なのは、国家が重大な隠ぺいや国民に対しての背信行為を行った時にジャーナリズムはどう対するかということです。NYタイムスもワシントン・ポストも、ジャーナリズムの信念に基づいて記事を掲載したのです。

これは、フェイクニュースだなんだとトランプ大統領に言われ放題の現在のメディアに対して、「かつてのメディアはこんな気概を持っていたぞ。お前らはどうなんだ?」とハッパをかけているような映画だと思います。

スピルバーグは脚本を読んで「これは今すぐ映画にしなくてはならない」と思ったそうです。実際に、撮影開始から約半年という短期間で映画は完成しました。

正直、急いで作った感が所々あるのは否めませんが、メリル・ストリープやトムハンクスはじめ役者陣の奮闘もあり重厚な社会派ドラマに仕上がっています。この映画自体もまた、プロの気概を感じる仕事だと思います。

6位:『万引き家族


【公式】『万引き家族』大ヒット上映中!/本予告
カンヌでパルムドールを受賞という驚きのニュースから、「万引きを助長している」などという言いがかりのような的外れな批判まで、とにかく話題を集めた是枝裕和監督最新作。

家族を家族たらしめるものは何なのか。それは決して血のつながりというだけではなく、血がつながっていたとしてもそれだけで勝手に家族になるわけではない。そのための努力や、プロセスや、相互理解を経なければ家族になることはない。そういう、是枝監督が今まで描いてきたテーマの集大成ともいえる作品だと思います。

この家族は血はつながっていなくても、今の時代忘れ去られたような家族の絆がある、的に美化する見方もあるのだとは思います。けれど、結局はここに出てくる大人たちは犯罪者であり、いざとなれば自分の利益のために相手を捨てる人たちなのです。それも含めてこの家族はきちんと自分たちのやったことへの報いを受けるわけですね。

ただ問題なのはなぜこういう疑似家族ができてしまうのかということでしょう。「本当の家族」の枠組みから外れたり、そもそも親に捨てられたり、様々な問題を抱える中で居場所がなくなってしまう人はいるでしょう。この映画は独居老人やネグレクト、虐待、ワーキングプアなどいろいろな社会問題を内包しています。

いろいろ欲張った分掘り下げが不十分なところはもちろんあるのだけど、考えるきっかけにするには十分だと思います。物語後半の安藤サクラの演技がとにかくすごくて、ずっとうなってました。

興味あるなし、好き嫌いはもちろんあるでしょうが、2018年に見ておくべき一本だったのは間違いないと思います。

(続く)