無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2018年・私的ベスト10~映画編(2)~

5位『ヘレディタリー/継承』


『へレディタリー/継承 』予告編 (2018年)

家長であるエレンの死をきっかけに、グラハム家に起こる奇妙な出来事とその顛末を描くホラー映画。

確かに血しぶきやグロい場面も多いですが、この作品にはゾンビや猟奇殺人といった一般的なホラー映画ではありません。もっと、背中の奥から気持ち悪さやヤバみがこみあげてくるような映画です。

万引き家族』のように、世間一般的な家族の枠からはみ出てしまった人たちの運命も悲惨ですが、端から見て普通の家族に見える関係の中で家族関係が崩壊していくこともまた地獄でしょう。そしてそこから逃れられない、と気づいた時の絶望たるや。

この映画の怖さには宗教というものが大きく関係しています。『エクソシスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』といった過去のホラー傑作と比較されるのもそのためでしょう。

いわゆる超常現象的な描写もたくさんありますが、この映画のキモはそれよりも日常や今までの人間関係や、何より家族という血のつながりの中に恐るべき闇が潜んでいることへの恐怖なのだと思います。

一歩間違えば自分の身にも起こっていたかもしれない、という怖さ。この辺の距離感でこの映画の怖さはかなり個人差が出てくるように思います。

しかし本作の恐怖描写は本当にすごいです。視覚のみならず、聴覚、音で「いる」ことを示す演出などその最たるもの。緊張と緩和でなく、どんどん緊張と恐怖が積み重なっていくアリ・アスター監督の演出はとても初監督作と思えない手腕です。

4位『シェイプ・オブ・ウォーター


『シェイプ・オブ・ウォーター』日本版予告編

本作はギレルモ・デル・トロ監督が子供の頃『大アマゾンの半漁人』という映画を見た経験が元になっているそうです。デル・トロ監督は映画の中で半漁人とヒロインがハッピーエンドを迎える話を夢想し、イラストやストーリーを描いていたと言います。

本作では発語障害のヒロインの他、主人公側の人間は黒人女性やゲイの老人など、マイノリティ、社会的弱者ばかりです。ヒロインも決して美女ではない。移民出身であるデル・トロ自身も含め、虐げられてきた人々に対する監督の想いが反映されていると思います。

「強いアメリカ」の象徴でもあるようなマイケル・シャノン演じるストリックランドをはじめ、キャラクターはある種形骸化されたような、分かりやすい描かれ方をしています。それはおとぎ話だから問題ないのでしょう。正直ソ連アメリカの冷戦を中心とした1960年代の時代背景など、おとぎ話というには生々しい部分が目立つ気もしますが、セットや色調の美しさがそれを凌駕していたという感じです。

モンスター映画、怪獣映画という枠ではなく、監督はあくまでも王道のラブストーリー、おとぎ話として徹底してブレずに作られているところが良かったですね。異形なるものと人間の恋愛おとぎ話という意味で『シザーハンズ』を少し思い出しました。とにかく青と緑の色が美しくて、字幕も薄緑色だったのがニクイです。

3位『ボヘミアン・ラプソディ


映画『ボヘミアン・ラプソディ』最新予告編が世界同時解禁!

クイーンの、というかフレディ・マーキュリーの伝記映画。結成から成功を経て、空中分解しそうになったバンドが再び一つになり、1985年のライブエイドでのステージをクライマックスとしています。

フレディと元恋人であり生涯の友人であったメアリー・オースティンとの関係を含め、ファンであればほぼ知っているだろうエピソードがほとんどで、非常にテンポよく物語が進みます。そしてそれを彩るのは当然、クイーンのヒット曲、名曲の数々。クライマックスのライブエイドの映像は個人的にはリアルタイムで見ていたし、その後も映像で見たもの。その前後のシーンと合わせ、最後の方は涙と鳥肌が止まりませんでした。

フレディ役のラミ・マレックは見た目はもちろん、喋り方からステージパフォーマンスまで完全にフレディでした。完全に何かが憑依しているのではと思うほどの凄まじさです。その他のメンバーもそっくりで、ライブエイドの映像は元のものをそのまま使っているのでは?と思うほどのクオリティでした。バンドの栄枯盛衰を描いた映画は数あれど、その中でも屈指の名作として語り継がれるのではないでしょうか。この後に、1986年伝説のウェンブリー・スタジアムでのライブDVDを見たくなりますね。

家族にも社会にも居場所のない、つまり「ボヘミアン」だった若者(フレディ)がバンドや友人という「家族」に支えられながら生きていく物語になっていたと思います。最後に本当に家族の元に帰り、認められるという展開も涙なしには見られません。

事実と違う点があるという指摘はごもっともなのですが、クイーンというバンドの持つドラマ、フレディ・マーキュリーという人の伝説性を強調する意味でこの改変というか「脚色」はアリだと思います。何でもかんでも真実を伝える事が全てではないでしょう。リアルよりリアリティ。

何にせよ、ブライアン・メイによる20世紀FOXファンファーレから本当に最高の音楽映画でした。

2位『カメラを止めるな!

今年の邦画では最も注目を集めた作品ということになるのではないでしょうか。興行収入では『名探偵コナン』とか、他にも大ヒット作品がありますが、ここまで社会現象ともいえる状況を作った作品は他にないと思います。そして実際、それに値するだけの面白さを持った映画でした。

今更とは思いますが、やはりネタバレは控えます。というと物語についての感想は何も言えなくなってしまうんですが、「この映画は二度始まる」という宣伝コピーに嘘はないということは言っておきます。序盤の30分間、頭の中に「?」や違和感や「アチャー」という感想が出てきても、無視することです。それらを全て回収する見事な展開と、爽快感。そして感動とちょっと泣けるラスト。見事だと思います。

演劇のワークショップから展開した作品ということで、脚本も役者さんにアテ書きで書かれているそうです。ほぼ無名の役者さんばかりですが、ハマってるなと思うのはそういうところなのでしょう。低予算の映画が口コミでこれだけの社会現象を巻き起こすという、邦画ではなかなか見られないシンデレラストーリー。監督にとっては次の作品のハードルが限りなく高くなったでしょうが、今後も楽しいに注目したいです。

1位『バーフバリ 王の凱旋』


『バーフバリ 王の凱旋』予告編

厳密に言うと昨年公開になった映画なのですが、2017年12月29日だし、ほぼ今年ということで入れさせていただきます。そしてこれも本来ならアウトでしょうが、前作『バーフバリ 伝説誕生』との合わせ技1位ということでお願いします。

古代インドの架空の王国を舞台に、親子2代にわたる王家の物語を壮大なスケールで描いた娯楽超大作。インド映画には疎い自分も、さすがに『ムトゥ 踊るマハラジャ』でイメージが止まっているわけではない。にしても、ここまで王道のエンターテインメントを真正面から直球で作れるとは驚きでした。とにかくスケールがでかい。そして絵が美しい。

物語は本当に王道で、ありきたりと言ってもいいくらいのシンプルなストーリーです。最終的にどういう結末になるかはわかっているのに、胸が熱くなる。簡単に言うと見ていて燃える、熱い展開なのです。

スローモーションや決め絵を多用した大仰な画面構成は明らかにザック・スナイダー以降のハリウッド映画の影響を感じさせます。でも今のDCユニバース映画のように画面が暗くなく、鮮やかで明るい絵なので見ていて気持ちいいのです。物語の展開と相まって、「ここで来る!」「はいキた、バーン!」の連続。一つ一つのエピソードや展開はどこまで見たようなものばかりでも、全く新鮮な映画体験を楽しむことができました。

回想シーンでの画面と、その後の現在の画面がうまく呼応するような構成になっているとか、実は緻密に計算されて作られているのだと思います。長いけど飽きませんし、難しく考えることのない映画なので未見の方は年末年始にいかがでしょう。

バーフバリ 伝説誕生 [Blu-ray]

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バーフバリ2 王の凱旋 [Blu-ray]

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というわけで、少ない中から10本選びました。『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』ももちろん素晴らしかったのですけど、『インフィニティ・ウォー』は来年公開の続編とニコイチという考えがあるので、選びませんでした。『ブラックパンサー』も『ミッション・インポッシブル:フォールアウト』も面白かったなあ。今からでもジュマンジと入れ替えようかなあ!という感じです。来年はもう少し映画館に行けるといいなあ、と思っております。