無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2018年・私的ベスト10~音楽編(1)~

明けてしまいましておめでとうございます。

本当にもう年々、新しい音楽をじっくり腰を据えて聞くことが少なくなってきました。正直目新しい驚きや意外性に乏しいラインナップになっていると思います。

今年は順位はつけていません。邦楽から5枚、洋楽から5枚で計10枚選んでいます。まずは邦楽編から。

エレファントカシマシ『WAKE UP』


エレファントカシマシ「Easy Go」Short ver.

前作『RAINBOW』以来2年半ぶりの23枚目(!)のオリジナルアルバム。昨年の30周年記念ベスト盤と全国ツアーという大きな節目を終え、文字通り新たなスタートという意味合いのアルバムとなります。

ただ、口で言うのは簡単でもこの「新たなスタート」というのはなかなか厄介だと思うのです。特に、言いたくはないですが歳を取ると新しいものや環境と適応するのが億劫になってくる。

本作は宮本浩次をはじめメンバー全員が50歳を超えての最初のアルバムになります。「Easy Go」という、エレカシ史上最速のパンク・ナンバーをはじめ、本作には本気でここからリスタートするのだという気合がみなぎっています。

どの曲も、それこそ曲調としては「Easy Go」の対極にあるような「風と共に」ですら、とにかく「前へ進む」ことしか歌っていない。この力はどこから出てくるのだろう。こういう人たちが人生の先輩として前を歩いていてくれることに感謝したい。そんなアルバム。

tofubeats『RUN』


tofubeats -「RUN」

tofubeatsは早くから注目されていたし、メジャーデビューしてからだってすでに5年以上が経っているし、新世代の旗手云々的な文脈で語ることはもうできなくなっていると思います。もうすでに中堅からベテランの域に入っていると思うんですね。

ポップスとしてもクラブミュージックとしても彼がやろうとしていることがすでに王道ど真ん中という時代なんだなあと改めて感じるようなアルバムでした。

最近のタイアップにしても、目新しさではなくて彼の音や言葉が必要だから選ばれているという気がします。

前作『FANTASY CLUB』以降ゲストフューチャリングはめっきり減り、シンガーソングライター的なアプローチが増えてきました。本作もその流れに沿っています。個人的にはその方向も、彼のアーティストとしての覚悟のようなものの表出だと思っています。

Run

Run

宇多田ヒカル『初恋』


宇多田ヒカル Play A Love Song

活動再開してからの宇多田ヒカルは憑き物が落ちたという感じで、いろんな意味で迷いが無いと感じます。母親に捧げたような前作『Fantome』に比べるとテーマ的にはそこまで重くはないし、むしろ開放感のようなものすら感じます。

それでも今作も生や死ということが歌われています。そういうテーマにしようというよりも、今の彼女が普通に曲を作るとそういうものがにじみ出てくるのでしょう。

全体のサウンド的にはあまり時流というものを意識していないように思いますが、今作でも新しい才能をフックアップしていて、彼女自身がハブのような存在として新しい音楽や才能を発信する装置となっているかのようです。

デビューから20年を経て、デビュー作『First Love』に対しての『初恋』。イヤでも対比したくなるタイトルですが、ひと回りしたということよりも、彼女がこの20年間でどれだけ人間として、アーティストとして成長したのかということが重要なのだと思います。今の宇多田ヒカルの音楽にはそういう奥深さが備わっています。

Perfume『Future Pop』


[Official Music Video] Perfume 「Future Pop」

完全にフューチャーベースに移行してきていた最近のPerfumeですが、その方向性についての決定盤と言えるアルバムになっていると思います。

今のPerfumeをアイドルとして見る向きは既に少数派でしょう。少なくともJ-POPの範疇の中で他のアイドルと比較することはできなくなっていると思います。

ライブパフォーマンスにしてもサウンドにしても、完全に世界規模で普通に認められるところまで来ています。その中であくまでも東京発であるところを意識して活動しているのは2020年に向けてのメッセージも含まれているのかもしれません。

Perfumeは誰も見たことのない場所に行こうとしているのは間違いありません。三十路を迎えた彼女らがどんな場所でどんな景色を見せてくれるのか、こちらは身を任せるしかないのです。

Future Pop

Future Pop

  • Perfume
  • エレクトロニック
  • ¥2200

星野源『POP VIRUS』

年末に飛び込んできた究極のポップ・アルバム。星野源が現在の星野源たるスケールとやりたいこととスキルの全てを結集したアルバムと言っていいのではないでしょうか。

正直、1年前までは次のアルバムは『YELLOW DANCER』を超えないだろうと思っていました。それが変わったのは「アイデア」のフルコーラスを聞いてからです。

星野源は自分が聞いてきた音楽、自らのルーツや趣味志向に対して非常に自覚的なアーティストです。そのルーツを隠さず、時には明確なオマージュも行いながら、換骨奪胎してコンテンポラリーな音楽に仕上げています。『YELLOW DANCER』ももちろんそういうアルバムでしたが、本作にはさらに未来のポップス観のようなものが示されている気がします。

そしてこのアルバムにはとにかく音楽を聴くことの意味、とりわけアルバムとして1枚通して聴くことの意味が詰まっていると思います。既発曲も、どれもが単発で聞いた時と違う感覚で聴こえてくる。音楽を愛し、愛された男がリスナーに対して音楽を愛してください、と訴えかけるアルバム。それだけでもうちょっと泣けてくるんですよね。

ただひとつ今の星野源に文句があるとすれば、彼は自分が曲や音に込めた意図を説明しすぎの感があります。ラジオでもどこでもそうですが、例えば彼が本来意図したのではない受け止め方をしたリスナーがいたとしたら「そうじゃないんだよね、」と説明をしてしまう。

僕個人は誤解されることも含めてポップミュージックだと思うので、あまりそういうことはしてほしくない。そして、説明することに慣れてほしくもない。じゃないと、自分で説明できないことを音楽にできなくなってしまうと思うのです。

まあ、そんなことは星野源はわかりきっていることだとは思いますが。