無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

「昔々、ハリウッドで…」-タランティーノの愛と憧憬について

クエンティン・タランティーノ監督最新作。
1969年のハリウッドを舞台に、落ち目の俳優(レオナルド・ディカプリオ)とスタントマン(ブラッド・ピット)の姿を描いています。そして実在の女優シャロン・テートマーゴット・ロビーが演じています。

1969年8月9日にシャロン・テートの身に何が起こったのかは調べればわかることだし、あえてここでは書きませんけれど、本作を見る上においては知っておいた方がいいでしょう。というか、知らないで見てもこの映画のテーマ自体がよくわからないと思います。
例えばNHK朝ドラ『あまちゃん』における東日本大震災とか『この世界の片隅に』における広島への原爆投下のようなもので、この先に何が起こるかを知っているからこそ画面で起こることの意味が深く理解できるという類の物語なわけです。シャロン・テートの運命と、チャールズ・マンソンの名前くらいは知ってから見ることをおすすめします。

本作では1969年のハリウッドとそこに生きる人々の姿が実に生き生きと描かれています。監督も言っているように、ハリウッドが最も無邪気に輝いていた最後の時代に対する憧れのようなものが本作の動機であるようです。
ただ、当時タランティーノはまだ6歳。後に映画オタクになるとしてもリアルタイムで当時のハリウッドを知っている世代ではないでしょう。なので本作は「最もハリウッドが輝いていた時代」に間に合わなかったタランティーノからの、この時代とそこにいた映画人たちへのラブレターのようなものなのだと思いました。
その無邪気さの象徴がシャロン・テートであり、マーゴット・ロビーはビッチ感を全く出さずに天使のようなシャロンを見事に演じていたと思います。特に自分の出た映画を見に行くシーンは白眉ですね。

基本的に全編、タランティーノ作品とは思えないほどのんびりほんわかとしたシーンが続きます。前述の1969年8月9日の運命を知らないで見るとただ単に退屈なエピソードが羅列しているだけと感じるかもしれません。しかしこの「何でもない日常」こそが今回彼の描きたかったものであるはずなのです。
ディカプリオ演じる落ち目の俳優と彼のスタントダブルであるブラピは、モデルになった人物こそいるものの、基本的にはこの時代に数多くいたであろう同様の人物の総体としてとらえられているのだと思います。時代の移り変わりについていけなかった数多くの映画人の象徴なのでしょう。何気ないやり取り(特に、子役の女の子との会話は最高)の中にタランティーノの愛が溢れていてジーンときます。

本作の中で不穏な影を落とすのはやはり「彼ら」マンソン・ファミリーのヒッピーたち。最初は無邪気にブラピに声をかけてきた少女も、ブラピがスパーン牧場に来てからは態度が一変。
この牧場のシーンは緊張感、セリフのやり取りも含めてタランティーノ映画でも屈指の名シーンと言えるのではないでしょうか。

で、ラストの襲撃シーンとオチなのですが、これはまさに「無邪気な時代」を終わらせてしまった「彼ら」へのタランティーノの怒りが結実したものと言えるでしょう。
イングロリアス・バスターズ』ではナチやヒトラーを、『ジャンゴ-繋がれざる者-』では差別主義者の白人たちへと向けられた怒りと同等のものです。映画の中で事実を改変し、虐げられた者や無残に散った者たちの怒りを代弁し復讐する。
そんなタランティーノの「歴史改変3部作」完結編と言っていいと思います。

「彼ら」が終わらせた無邪気な時代はハリウッドだけのものではありません。ロックやサブカルチャーにおいても、非常に重要な分岐点となりました。
イーグルスが「ホテル・カリフォルニア」の中で歌った「1969年以来、うちにはスピリット(魂と蒸留酒ダブルミーニング)を置いてないんだ」という歌詞にもあるように。

ラストも、実にほのぼのとしたシーンで終わります。それでいいのです。これは1969年のハリウッドを舞台にしたおとぎ話だから。
「昔々、ハリウッドで…」というタイトルの映画は、悪漢たちを懲らしめた後に「めでたし、めでたし」で終わるべきなのです。
古き良きハリウッド、そして映画文化全体に対するタランティーノの憧憬と愛情が結実したような映画だと思います。
160分という上映時間も全く長いとは思いませんでした。個人的には彼のフィルモグラフィーの中で最も好きなもののひとつになると思います。


(日本語字幕)ブラピ&ディカプリオ 二大スター共演 映画“ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド”インタビュー 1/2

『834.194』についての雑感。

https://music.apple.com/jp/album/834-194/1465208767?uo=4&at=1000lvHZ

前作『sakanaction』から6年余り。日本のミュージックシーンとしては異例のブランクを経てリリースされたサカナクションの新作『834.194』である。もちろん、バンドはこの間活動を休んでいたわけではない。ベーシスト草刈愛美の産休はあったにせよ、シングルのリリースやツアーは定期的に行ってきた。自身が主催するクラブイベント「NF」を立ち上げるなど、その活動は多岐に渡り、山口一郎個人での仕事も考えると逆によくアルバムを作れたなと思うほどの多忙ぶりだったと思う。

前作以降のシングル曲を全て収録し、結果2枚組という形態に落ち着いたこのアルバムは一見コンセプチュアルでありながら、非常に歪なものだと思う。Disc1には「多分、風」「陽炎」「新宝島」など、既発のシングルでもアッパーでキャッチーな曲が並ぶ。Disc2は「グッドバイ」「ユリイカ」をはじめ、内省的な曲が並ぶ。という風に考えることは可能だ。しかしどうにもそれだけでは座りが悪い。

昨年リリースされたベストアルバム『魚図鑑』では、シングルでありながら収録されていない曲があった。それは「グッドバイ」「ユリイカ」「サヨナラはエモーション」「蓮の花」である。正確には完全生産限定プレミアムBOXのDisc3「深海」に「グッドバイ -binaural field recording-」が収録されているのだけど、オリジナルバージョンではない。これらの曲をベストから外したのは曲に満足行ってないということではなく、来る新作において核になるべき曲だから安易にベストに収録することを避けたのではないかと思っていた。その考えは、半分当たりで半分外れという感じか。『魚図鑑』にも収録された「新宝島」や「陽炎」もこの新作に収録されているのだし、単純にその観点だけでこの新作は語れないと思う。

何回か通してアルバムを聴いてみて「「新宝島」とか「陽炎」とか、この辺の曲を外したら1枚で収まったんじゃないか」と思ったこともある。しかし、それでは今のサカナクションを表すのには不十分だとも思った。


サカナクション - グッドバイ (MUSIC VIDEO)

このアルバムの出発点となったのは間違いなく「グッドバイ/ユリイカ」のシングルだ。2013年のサカナクションは『sakanaction』がオリコンチャートで初の1位を獲得し、紅白歌合戦にも出場。テレビの歌番組にも積極的に出演し、「Aoi」がNHKサッカーテーマ曲になるなど、お茶の間にもサカナクションの音楽が浸透した1年だった。

山口一郎は東京進出以降、「売れる」ということをひとつのキーワードにしてきた。それはもちろん下世話な意味だけではない。クラブミュージックというアンダーグラウンドな音楽と日本のメジャーな音楽シーンとをつなぐ存在になりたいという彼らの意思を反映したものだ。そしてそれが最も結果として出た1年が2013年だったと思う。サカナクションは目指していた場所に到達した。さぞかし大きな達成感があったことだろう。がしかし、次の一手としてリリースされたシングル「グッドバイ」はこんなフレーズで始まる。

探してた答えはない
此処には多分ないな

2013年のサカナクションをセルアウトなどとは僕は思わない。あくまでも彼らは自分たちの信じる音楽で頂点に立ったと思っている。しかし、そこから見える景色は山口一郎が思っていたものとは違うものだったのだろう。サカナクションはその場所で戦い続けることをしなかった(できなかった)。一度経験したからもういい、と思ったのかもしれない。サカナクションは、山口一郎は、自分たちの進む道が決してこの方向ではないことを知ってしまった。だから、新しい世界で何を歌うのかわからないうちに、そこから降りてしまったのだ。この内省から『834.194』は始まっている。

そして同時に、もっと前から始まってもいる。「834.194」という数字はサカナクションが札幌時代に活動拠点としていた「スタジオ・ビーポップ」と、現在レコーディングの際に使用している東京の「青葉台スタジオ」を結んだ距離(834.194km)に由来している。

札幌のサカナクションファンが彼らを見る目というのは、北海道の人間が大泉洋を見るのと似ている。いくら東京で活躍していても、「おらが町のスター」的な視点を忘れられないのだ。山口一郎は、「東京に住む自分」、「東京で違和感を覚えている自分」をテーマにした曲をいくつも書いている。しかし、だからと言って自分たちがやりたい音楽をやるには東京でなければいけないということも十分理解している。

地元北海道・札幌と東京の距離をタイトルにするということは、今までのバンドの歩みそのものを包括するような意図があるのだろう。その象徴として収録されているのが「セプテンバー」という曲だ。この曲はサカナクション以前に山口一郎がギターの岩寺とやっていたバンド「ダッチマン」時代に作られた曲だそうだ。僕の記憶では、2018年のツアーアンコールでこの曲を演奏している。その時は記憶を頼りに演奏を始めたら何となく形になって、「いいねこれ。新作に入れようか」みたいなことを言っていたと思う。それが本当に収録された。Disc1には東京バージョン、Disc2には札幌バージョンとして。

僕は前作『sakanaction』リリース後に札幌某所で開催されたトークショーに当選し、参加したことがある。その質疑応答のコーナーで山口一郎にこんな質問をした。

サカナクションのライブは、札幌のペニーレーンなんかでやっていたころと比べたら規模も技術も何もかも違っていて、それは最初からこういうことがやりたいというビジョンがあったのか、徐々に広がっていったのかどちらでしょうか?」

それに対して山口一郎は真摯に答えてくれた。

「札幌でやっていた時っていうのは、僕たちは本当に何も知らなくて。音響とかPAとか、ライブを構成するのに必要な技術とか全く知識がなかったんです。それが徐々に自分たちの周りに人が集まってきて、こういうこともできるああいうこともできる、ってなった時にじゃあこういうことがやりたいっていう風にどんどんアイディアが出てきたんです。最初から今みたいな状況は全く想像もしてませんでした」

ライブだけではなく、東京で広がったサカナクションの世界と、札幌で何も知らずに音楽を作っていた時代。それを直線で結ぶことで、この先の未来を指し示すこと。それがこの新作のコンセプトなんだろうと思う。ちなみにDisc1には東京の緯度と経度、Disc2には札幌の緯度と経度が記されている。


サカナクション / 忘れられないの

このアルバムで個人的に最も響いた曲はDisc1の1曲目「忘れられないの」だ。80年代色バリバリなMVも素敵だが、サカナクションがここまで直接的に80年代シティポップな曲を作るとは思っていなかった。ここ数年、日本のシティポップが世界的に再評価されて一種のブームになっているのは事実だし、自身のクラブイベントを主催しているサカナクションはもちろんその動きも察知していたとは思う。

2013年の狂騒を経てサカナクションはJ-POPシーンのトップランナー争いからは下りた(今現在そこにいるのは星野源だと思う)。自分たちの信じる方向に舵を切ることを決めたのである。その結果、ビビッドに世界の音楽シーン、クラブシーンに反応した曲ができた。こうした80年代テイストの曲をこれからも作り続けるということではないと思う。その時その時で自分たちのやりたい音楽、やるべき音楽を信じて作り続けるという意思表示が「忘れられないの」なのだと思う。

ファンとしては次は6年も待たせないでほしいという思いもあるけれど、逆に言えばもうアルバムという形態に固執する必要もないのかもしれないとも思う。信じる道を行ってくれればいい。ファンはそれを楽しみにしている。

どんなに遠くに行ったと思っても、結局はたかだか834.194㎞の間なのだ。

私的・80年代の名サウンドトラック5選

DJイベントのためにいろいろと曲を選んでいたら、「そういえば80年代というのはいい映画のサウンドトラックがたくさんあったな」と思い返しました。

80年代はいわゆるMTV全盛時代。この時代のヒット曲はマイケル・ジャクソンやマドンナをはじめ、魅力的なミュージックビデオと共に記憶に残っているものがたくさんあります。つまりは音楽と映像が密接に関係していた時代なのです。

映画の中で使われた曲がヒットし、曲がヒットすることでまた映画も注目される。そんな相互作用がたくさんありました。

というわけで1980年代のサウンドトラックの傑作をいくつかピックアップして、徒然なるままに書いてみようと思います。

フットルース』(1984)

80年代の音楽映画と言えば最初に出てくるのが本作でしょう。ハーバート・ロス監督による青春映画です。

ケヴィン・ベーコン演じる高校生レンはシカゴから中西部の田舎町に引っ越してきます。そこはある高校生が起こした事故をきっかけに、音楽もダンスも禁止されているという町でした。レンは友人やガールフレンドの協力を得ながら卒業記念のダンスパーティーを行おうとし、大人たちと戦うというストーリー。

サウンドトラックから6曲の全米TOP40ヒットが生まれたという驚異のヒットアルバムです。ケニー・ロギンスによるタイトルトラックの他、No.1ヒットとなったデニース・ウィリアムス「レッツ・ヒア・ボーイ」、日本ではドラマ「スクールウォーズ」でもおなじみのボニー・タイラー「ヒーロー」など、名曲が目白押しです。

そして何よりこのサウンドトラックを特別なものにしているのは、全てのオリジナル楽曲の作詞を手掛けているのが映画の脚本を担当したディーン・ピッチフォード自身であるということ。劇中で曲が使われる時に、歌詞もそのシーンにピッタリなわけです。脚本家が書いてるわけですから当然ですね。

このこだわりがオムニバスでありながらアルバムとしての統一感につながってくるのです。

映画そのものは正直B級青春映画という感じですが、サウンドトラック含めて同時代を過ごした人には忘れられない作品であると思います。


Footloose - Kenny Loggins (1984) HD


Deniece Williams - Let's Hear It for the Boy


Bonnie Tyler - Holding Out For A Hero (Video)

ビバリーヒルズ・コップ』(1984)

ビバリーヒルズ・コップ オリジナル・サウンドトラック

ビバリーヒルズ・コップ オリジナル・サウンドトラック

  • アーティスト: サントラ,ハロルド・フォルターマイヤー
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2017/03/29
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る

エディー・マーフィーを一躍トップスターに押し上げた傑作アクションコメディです。

デトロイト市警のアクセル刑事(エディー・マーフィー)は友人を殺した犯人を追って、単身ロサンゼルスに乗り込みます。監視役のロサンゼルス市警の刑事たちや友人ジェニーを巻き込み、口八丁手八丁で騒ぎを巻き起こすアクセルの活躍が描かれます。

この映画の爽快感はアクセルがロサンゼルスにやってくるシーンに集約されてると思うのですが、そこで流れるのがポインター・シスターズ「ニュートロン・ダンス」だったりパティ・ラベル「ニュー・アティテュード」といった明るく抜けのいいダンスナンバーです。

主題歌はグレン・フライ「ヒート・イズ・オン」。これもカラッと明るいロックナンバー。とにかく聞いていて楽しい、爽快なサウンドトラックです。

そして映画のメインテーマとして劇中何度も登場するのがハロルド・フォルターメイヤーによるインストナンバー「アクセルF」。シンセサイザーによるシンプルなサウンドと印象的なメロディーで一度聴いたら耳に残る曲です。インスト曲でありながらビルボードチャートの3位を記録する大ヒットとなりました。

1987年の『ビバリーヒルズ・コップ2』のサントラもいいんですが、個人的にはこの1作目を推したいです。


Axel F/Harold Foltermeyer 1984 (Audio/Video)


Glenn Frey, The Heat Is On


The Pointer Sisters Neutron Dance 1983 (Stereo)

マイアミ・バイス』(1985)

マイアミ・バイス

マイアミ・バイス

映画ではなくてTVドラマのサウンドトラックですが、80年代の名サントラとして記憶に残しておくべきアルバムだと思います。

ヤン・ハマーによる印象的なテーマ曲から、グレン・フライスマグラーズ・ブルース」、同じくグレン・フライによる名バラード「ユー・ビロング・トゥ・ザ・シティ」など、ヒット曲を多く輩出しました。

他にもチャカ・カーンフィル・コリンズティナ・ターナーなどが参加した豪華な布陣。

しかし、当時は今とは違って海外ドラマが気軽に見られる時代ではありませんでした。僕もアルバムは持っていたものの肝心のドラマ自体を見たのはだいぶ後になってからのことです。

スタイリッシュな刑事もので音楽を劇中にふんだんに使うというスタイルはおそらく「あぶない刑事」にも大きな影響を与えたのではと思います。


Jan Hammer - Miami Vice Theme (1984) HD


Glenn Frey - You Belong To The City - HD

『プリティ・イン・ピンク』(1986)

80年代には多くの青春映画が作られました。『ブレックファスト・クラブ』や『フェリスはある朝突然に』などで知られるジョン・ヒューズが製作・脚本を務めた本作もそのひとつです。

『ブレックファスト・クラブ』のヒロイン役だったモリー・リングウォルドが本作でもヒロインを演じていることから、所謂「ブラット・パック映画」に数えられる作品です。(ブラット・パックというのは当時青春映画によく出ていた俳優・女優たちの総称です。)

そしてこのサウンドトラックが実に素晴らしいのです。全米大ヒットを記録したオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク「イフ・ユー・リーヴ」をはじめ、サイケデリック・ファーズによるタイトル曲、スザンヌ・ヴェガ、イン・エクセス、ニュー・オーダー、エコー&ザ・バニーメンと素晴らしい布陣。

収録曲の多くはありもの曲の寄せ集めではなく映画のために書き下ろされたもので、オリジナル・アルバムに未収録のものも多いのです。

ラストを飾るのはザ・スミスの「プリーズ・プリーズ・プリーズ」。青春映画として完璧な選曲だし、アメリカ映画でありながらアーティストのセレクトがイギリス寄りなところも個人的には高ポイントです。

80年代に限らずとも、名サウンドトラックに数えられる傑作だと思います。


Orchestral Manoeuvres In The Dark - If You Leave


PSYCHEDELIC FURS : Pretty in pink (HD)

『カクテル』(1988)

Cocktail (Original Soundtrack)

Cocktail (Original Soundtrack)

  • Various Artists
  • ポップ
  • ¥1600

トム・クルーズ主演映画のサウンドトラック。映画とともに、アルバムも大ヒットしました。

ジャマイカが舞台ということもあって、主題歌「ココモ」は南国風味溢れるポップス。ビーチ・ボーイズに約22年ぶりの全米1位をもたらしました。

ボビー・マクファーリンドント・ウォーリー・ビー・ハッピー」も全米1位の大ヒット。今でもいろんな場面で耳にする名曲です。

ファビュラス・サンダーバーズジョージア・サテライツといった骨太なアメリカン・ロックからスターシップ、ロビー・ネヴィルらのポップス勢、ライ・クーダー、リトル・リチャードのルーツ・ミュージックとツボを押さえた選曲はある種見本市のようですらあります。

時代的にも80年代のバブリーな感じというか、「どうにかなるさ」という暢気さを感じさせたのはこのサントラが最後の方だったかもしれません。


The Beach Boys - Kokomo [Official Music Video]


Bobby McFerrin - Don't Worry Be Happy

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO感想(4)~20回目の朝

■2018/08/11@石狩湾新港特設野外ステージ

https://www.instagram.com/p/BmVhfGghYES/
JOY-POPS終わってかえりみちのblue。 #rsr18 #rsr2018

ここで各ステージ小休止の時間。RED STAR周りの屋台で腹を満たし、休んでいると花火が打ち上がる。毎年恒例、ありがたや。

RED STARでエゴラッピンエゴラッピンもちゃんと見るのは久々な気がします。20周年のベスト盤はあったけど、オリジナルアルバムも結構ご無沙汰な気が。そんな感じでふわふわと見ていたのですが、新旧取り混ぜてのセットはなかなか面白かったです。「くちばしにチェリー」とか「サイコアナルシス」とかのキラーチューン連発を期待してた人には物足りなかったかもしれないけど、フルバンドで現在進行家のバンドを見せてくれたと思います。レッド・ツェッペリンのカバーもあったりして。ただ個人的には前二つの熱にまだ浮かされていたような感じで、そこまで前のめりになれなかったというのが正直なところでした。

■EGO-WRAPPIN'
1.10万年後の君へ
2.love scene
3.BRAND NEW DAY
4.5月のクローバー
5.Whole Lotta Love(胸いっぱいの愛を)
6.human beat
7.GO ACTION
8.新曲
9.A little dance SKA

https://www.instagram.com/p/BmVu3PGBbgW/
こんなのあった。 #rsr2018 #rsr18

サンステージでエレカシ。30周年アニバーサリーのお祭りも終わり、メンバー全員50代に入っての新作『WAKE UP』をリリースしたエレカシです。その新作がとにかく、「前に進む」ことしか歌っていない。老け込むとか落ち着くということは微塵も考えず、とにかく前を向いて進む。40代後半になって改めて思うけど、口で言うのはもちろん行動でそれを示すってこの歳になると難しいです。自分より上の人間が本気でそれをやってるのを見ると素直にすげえなあと思います。この日のステージもそんなエレカシの「落ち着きのなさ」を感じさせるものでした。

30周年を超えてバンド史上最速のパンク・ナンバーである「Easy Go」、そして「奴隷天国」、さらに「RAINBOW」と畳みかける序盤からアクセル全開です。今いる場所とスタンスをしっかり見せて、なおかつヒット曲・代表曲もしっかり押さえる。ファンも満足だし、一見さんもどうぞいらっしゃいという全方位型のほぼ完璧なパフォーマンス。改めて30年のキャリアは伊達じゃねえな、と思った次第です。あと、石君のいでたちが長渕剛マニアがB'z稲葉浩志のコスプレしてるみたいでインパクトありすぎでした。

エレファントカシマシ
1.Easy Go
2.奴隷天国
3.RAINBOW
4.悲しみの果て
5.旅立ちの朝
6.風に吹かれて
7.俺たちの明日
8.ガストロンジャー
9.so many people
10.ファイティングマン
11.今宵の月のように

今年のラストはスカパラで締め。20回目という節目にほぼ毎年出演しているスカパラがトリというのはまあ順当だろうと思いました。そして事前にアナウンスされている分でも相当コラボでゲストボーカリストが出てくるということもあり、最初からお祭りのような雰囲気でした。

なんと、最初はツインドラムからスタート。青木達之亡き後、欣ちゃんが加入するまでバンドを支えた中村達也がゲスト出演。欣ちゃんとツインドラムでドラムバトル。こりゃ最高。その後はセットリストを見てわかるように、ゲストの嵐。そして名曲の連発。スカパラの歌ものコラボがいかにクオリティの高いものだったか、その歴史を総括するようなライブでもあったと思います。おそらくワンマンでもこれだけ多くのゲストを一度に呼んだことはないでしょう。フェスだから、ライジングサンだからこそ実現した夢のような時間でした。

ゲストボーカリストは皆スカパラとおそろいのスーツを事前に仕立てて衣装として着ていたのですが、TOSHI-LOWだけは「オレ呼ばれてねえぞ!」ってことで急遽出演が決まったらしく、ほぼパンイチという半裸状態での出演でした。これだけ豪華な布陣の中で仕方ないとは思いますが、後半に出てきた尾崎世界観と斎藤宏介は順番的にも少しかわいそうでしたかね。そして坊主頭にしていた峯田和伸が出てきた時一瞬「誰?」となったのはご愛敬。今思えば「いだてん」の撮影のためですね。

東京スカパラダイスオーケストラ
欣ちゃん達也ドラム対決
1.火の玉ジャイヴ
2.スキャラバン
3.美しく燃える森(奥田民生
4.カナリヤ鳴く空(チバユウスケ
5.銀河と迷路
6.流れゆく世界の中で(キヨサク)
7.SKA ME CRAZY
8.野望なき野郎どもへ(TOSHI-LOW
9.追憶のライラックハナレグミ
10.星降る夜に(甲本ヒロト
11.水琴窟
12.爆音ラブソング(尾崎世界観
13.白と黒のモントゥーノ(斎藤宏介)
14.ちえのわ(峯田和伸
15.めくれたオレンジ(峯田和伸
16.DOWN BEAT STOMP
17.Paradise Has No Border

https://www.instagram.com/p/BmWaoLjhHuY/
明けてきた。もうすぐ終わってしまう。 #rsr2018 #rsr18

例年ならトリのステージはテントで音だけ聞いているか、見ていてもほぼ棒立ちの状態ですが、この時はラストまでガンガン踊ってました。最近はフジロックかというくらい毎年雨が降るし、今年は会場レイアウトも変わって
いろいろと不慣れな部分もあったし、駐車場のオペレーションは最悪だったし、いろいろありましたがそれでも楽しかったです。間違いなく。

2019年は本当の意味での20周年です。夏フェスという言葉の意味も各々のフェスが置かれた状況もロックシーンにおけるフェスの意義もあらゆる点で20年前とは変わりました。当然、ライジングサンもこの20年で全く違うものになりました。と思います。今年以上にいろいろと想いを巡らせながら楽しむことになる気がします。できれば、昔から参加してる人といろいろと語り合いたいですね。

https://www.instagram.com/p/BmWf3YZBk_Z/
終わってしまいました。また来年! #rsr2018 #rsr18


こんなことをつぶやいていたのに、半年以上遅れてしまいました。いや、ちょこちょこ書いていたのは本当なんですが。何とか最後まで書き終えられてよかったということでご容赦ください。今年の感想も書きます多分。あと4か月、すぐですね。今後ともよろしくどうぞ。
(了)

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO感想(3)~それは天気のせいさ

■2018/08/11@石狩湾新港特設野外ステージ

昨日の夜ほどではないにしろ、まだ断続的に雨は降り続いていました。車で石狩に向かう途中も止んだと思ったらまた降ってくるの繰り返し。天気の変わりやすい会場周辺ではもっと落ち着かない天気になるのだろうと覚悟して臨みました。この日は朝から長靴で完全武装です。

ひとつ苦言を呈したいのが、会場内駐車場のオペレーションについて。僕のように一度帰宅して休み、翌日戻ってくる人はそれなりにいたと思います。それ以外にも買い出しや何かで一度車で会場を離れる人はいるでしょう。そういう人が会場に戻ってくると、この日初めて会場に来る組も一緒くたで長蛇の列に並ばなければならなかったのです。少なくとも、すでに駐車券と通行証を引き換え終わっている人は別口で入場できるようにしてほしかったと思います。前日よりも長い列に並び、再入場できた時はすでに12時を回っていました。
https://www.instagram.com/p/BmU3pRKBqmg/
PROVOのフルーツコーン、安定の美味さ。甘さ。生がオススメ。ナマが一番いい。 #rsr18

ということでやや予定が狂い、この日の最初はボヘミアンサーカスで関取花ボヘミアンサーカスはボヘミアン側のゲート付近にある小さなステージです。弾き語りやアコースティックのライブ用という感じですね。関取花はテレビやラジオでは見ていてもライブは初めて。このRSRの後に札幌のワンマンも見ましたが、その前にこのアコースティックライブを見ました。まあ、とにかく小さくてかわいかったです。声はいいし、歌も上手いし、トークも上手い。男性女性関係なく、またあんまりいやらしい意味でもなく、人としていいなと思えるアーティストですね。いい飲み友達になれそうな。ワンマンでもやってましたが、ここでも昔北海道で流れていた融雪機のCM「モンスター」の歌で盛り上がってました。

関取花
1.私の葬式
2.あの子はいいな
3.親知らず
(雪溶かし機の歌)
4.黄金の海で逢えたなら
5.もしも僕に

ここからデフに移動。少し雨が落ちてきました。でもテントなので関係なし。フラカンはメンバー全員が48歳を迎えてまたインディーレーベルを立ち上げるなど、いまだ自分たちのやりたいことを素直に追及している印象があります。逆にそうせざるを得ない状況があるのかもしれませんが、居心地のいい場所に安寧せずにもがき続ける様はフラカンらしいと思うし、ほぼ同世代として胸を打たれます。いきなり「深夜高速」から始まるセットも彼らのキャリアと自信の表れ。先が見えない中でそれでも「最後にゃなんとかなるだろう」と歌う彼らは背伸びしない、等身大のバンドなのだと思います。無理せず、もがく。辛かったらちょっと逃げる。それでいいんじゃないかな、なんて見ていて思いました。

フラワーカンパニーズ
1.深夜高速
2.はぐれ者讃歌
3.ピースフル
4.吐きたくなるほど愛されたい
5.ハイエース
6.最後にゃなんとかなるだろう
7.真冬の盆踊り

https://www.instagram.com/p/BmU30qchcF9/
藤原さくら聞きながらのモヒート。ボヘミアン好き。 #rsr18

ボヘミアンに移動してサニーデイ・サービス。このライジングサンの1ヶ月前に、公式サイトにてドラマーの丸山晴茂の訃報が伝えられた。かねてから体調不良でライブやレコーディングには参加できていなかったものの、ファンにとっては衝撃だった。しかも実際に亡くなったのは5月で、2ヶ月間公表を控えていたという。純粋に追悼の気持ちで今のサニーデイを見たいと思いつつ、曽我部恵一がこの件について何を言うのだろう、と思う自分もいた。でも何も言わなくていいとも思っていた。

ステージ前には多くのファンが集まり、神妙な面持ちでバンドの登場を待っていた。みんな同じ気持ちだったと思う。1曲目は「bay blue」。静かな弾き語りから始まり、最初にドラムが鳴る時の音が非常に鮮烈に聞こえてくる曲。晴茂君のドラムはドタバタしていたけど、いい音だったなあと思いながら聞く。様々な想いを振り切るように、あるいは見ないようにしているかのように、淡々とライブは進む。今日の天気を見て「これはやろうと思って急遽セットリストに入れた」という「雨の土曜日」。そして「苺畑でつかまえて」に続いて、現在のサニーデイの中でも最も激しい曲の一つ、「セツナ」へと飛び込んでいく。崩壊しそうなほどのバンドアンサンブルの中、曽我部恵一は叫び続ける。そして後半のギターソロも曽我部は何かがとり憑いたかのように弾き狂っていた。このギターソロの時、空を見上げながら曽我部は何を思っていたのか。この時点で僕は泣いていた。雨で濡れていたし、それを拭うことはしなかった。「白い恋人」の後、曽我部は思い出したかのように晴茂君のことを話し始めた。

「晴茂君がいなくなって…、あ、休んでた時ね、一人で曲を作りながら「晴茂君だったらどう言うだろう」と思ってたのね。死んじゃってからはその声も聞こえないね…」周りからはすすり泣く声。当たり前だ。そんな様子を見て曽我部はこう言った。「みんな泣いちゃダメ。次にやる曲はそういう曲じゃないから。」始まったのは「愛と笑いの夜」。ずるいよ、曽我部。泣くに決まってるじゃないかこんなの。

ラストは夏フェスならこれを聞かなければ終われないと個人的には思う名曲「サマーソルジャー」。1999年、第1回目のライジングサンでサニーデイ・サービスがトリを務めた時にも当然演奏された曲。その時の印象は本当に強く残っていて、僕にとってあの最初のライジングサンの記憶はブランキーでもミッシェルでもなく、「サマーソルジャー」と共にあった。今回で20回目となるライジングサンでまたこの曲が聞けたのも偶然じゃないと思う。ありがとうサニーデイ・サービス。2018年のベストアクトでした。

サニーデイ・サービス
1.baby blue
2.スロウライダー
3.今日を生きよう
4.雨の土曜日
5.苺畑でつかまえて
6.セツナ
7.白い恋人
8.愛と笑いの夜
9.青春狂走曲
10.サマーソルジャー

そのままボヘミアンに残って待機。今年個人的に一番と言っていい目玉、JOY-POPS。かつてTHE STREET SLIDERS(以下スライダーズ)として日本のロックをけん引していたHARRY(村越弘明)と蘭丸(土屋公平)によるユニット名だ。スライダーズの4人のうち、JAMESとZUZUがHARRYのライブに客演で出たことはあったけど、この2人が同じステージでプレイするのはほとんど無かった(皆無?)と思う。リズムセクションはなく、ギター2本のみのステージ。それでもワクワクは止まらない。ソロになってからのHARRYのライブは何度か見たが、この2人が揃うステージを見るのは僕にとって1996年以来、実に22年ぶりのことだ。

HARRYは元気そうで、笑顔も見える。1曲目は「カメレオン」。HARRYのざっくりとしたストロークに、蘭丸のキレのあるカットが絡む。このギター2本の絡みだけでそこはスライダーズの世界になる。何かをかみしめるようにギターを弾き、歌うHARRY。堅実なプレイでHARRYを支える蘭丸。並んでプレイしている2人を見てるだけで泣きそうだった。「2人でまた何かやろうと思って、新しい曲も作った」というHARRY。そして各々がボーカルを取る新曲2曲を披露。HARRYらしいメロディーの、それでいて少しメッセージ性も入った曲と、蘭丸らしいブルースな曲。今後はツアーも行う予定があるらしい。スライダーズの名曲は否が応にも盛り上がる。集まっていたのは当時を知るオールドファンがほとんどだったと思うけど、全員とハイタッチしたいくらいだった。演奏が終わった後、2人で手を繋いで一礼。その姿を見てまた涙が。ありがたいものを見ました。長生きはするもんです。

■JOY-POPS
1.カメレオン
2.すれちがい
3.かえりみちのblue
4.新しい風(新曲)
5.デルタのスー(新曲)
6.風が強い日
7.Special Women
8.No more trouble
9.Back to Back

(続く)