無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

転がる石に苔は生えない。

ユニコーン ツアー2017「UC30 若返る勤労」
■2017/12/16@Zepp Sapporo

 デビュー30周年を記念して、現時点での最新アルバム『ゅ13-14』までの全オリジナルアルバム、そして未発表曲集や各メンバーの50歳記念曲等々を網羅したリマスタリングBOXセットをリリースしたユニコーン。それに伴うツアーが今回の「UC30 若返る勤労」です。
 この日の札幌は雪こそ降っていなかったけれど、すでに根雪が積もっていて冬景色。そんな中、1曲目は「雪が降る町」。年末にこの曲が聞けるのは格別なものがあります。前述のように今回のツアーはBOXセット発売に伴うものなので、キャリア全般から幅広く選曲されています。しかもシングルの代表曲などではなくむしろ地味なアルバム曲などが多いのでレアなセットリストだったと思います。初期の曲、特にデビューアルバム『BOOM』の曲は現在も滅多にライブで演奏されることはないので、「Hystery Mystery」のイントロが流れた時は歓声と同時にどよめきが起こりました。まだABEDONが加入する前ですからね。
 「ロック幸せ」からは川西さんをはじめ、EBI、テッシーと各メンバーのボーカル曲コーナー。「ヒゲとボイン」から「SAMURAI5」は文句なしに盛り上がるクライマックス。グッズの小旗を買っておけばよかった(もしくは前回ツアーの時のを持ってくればよかった)とちょっと後悔しました。「すばらしい日々」はいつ聞いてもイントロから泣きそうになってしまいます。解散直前のシングルだったこともあり、この曲にはいろいろな意味が込められている気がしてどうしてもグッときます。いまだに、川西さんがこの曲を叩いてること自体にも。本編最後は「車も電話もないけれど」。とぼけた内容の曲ではありますが、個人的にはユニコーンの中でもトップクラスに優れたラブソングだと思っています。
 本編、短くない?と思ったのもつかの間、アンコールは「WAO!」から始まります。そして曲の途中でイントロクイズコーナーが。BOXセット発売記念ということで、全楽曲の中から民生セレクトでイントロクイズを行いメンバーが回答するという趣向。これがまたくだらないけど盛り上がるのです。そして選曲がマニアック。メンバーが誰もわからない時には客席に答えを求めて、正解者にはグッズをプレゼントしてました。このクイズコーナーが凡そ20~30分あったかと思います。最近のツアーではやはりアンコールの「WAO!」でABEDONのワンマンショーが恒例でしたが、それ以上に長い(笑)。こんなくだらないことを真剣にやるバンドは彼らくらいのものでしょう。
 デビューから30年が経ちメンバーが全員50歳を過ぎているということで言えば、例えば90年代前半、ちょうど1994年にアルバム『ブードゥー・ラウンジ』をリリースした頃のローリング・ストーンズとほぼ同じ状況です。じゃあその頃のストーンズがステージ上でイントロクイズをやったりバカバカしい冗談で笑いあったりしていたかというともちろんそんなことはないわけで。比べても意味のないことだとは思うのだけど、そう考えるとやはりこのユニコーンのユルさというのは特筆すべきものなのではないかという気がしてきます。2008年にアルバム『シャンブル』でユニコーンが再結成したとき、僕は「数年に1回でも良いからまた復活してほしい。そういうペースでなら、今の彼らなら続いていけるんじゃないだろうか。」ということを書きました。実際、それ以降のユニコーンは予想以上のペースで活動しているし、その間各々のソロ活動も並行して行ってます。そもそも既に再結成後の活動期間の方が長くなっているという、稀有なキャリアを歩んでいるバンドだと思います。無理のないペースでユルく、くだらないことを一生懸命にやってほしいと思います。ツアータイトルのように若返っているかどうかは別として、「こういう風に歳をとれたら幸せだろうなあ」と思わせるバンドでい続けてほしいと思うのです。

■SET LIST
1.雪が降る町
2.はいYES!
3.パープルピープル
4.ハヴァナイスデー
5.Hystery Mystery
6.サービス
7.ロック幸せ
8.夢見た男
9.オッサンマーチ
10.R&R IS NO DEAD
11.鳥の特急便
12.薔薇と憂鬱
13.ヒゲとボイン
14.SAMURAI5
15.すばらしい日々
16.車も電話もないけれど<アンコール1>
17.WAO!~イントロクイズ大会~ブルース~WAO!
18.サラウンド

UC30 若返る勤労(完全生産限定盤)

UC30 若返る勤労(完全生産限定盤)

2017年・私的ベスト10~音楽編(2)~

■5位:THE KIDS / Suchmos

THE KIDS

THE KIDS

 2016年から2017年にかけて、シーンでの立ち位置、存在感、もちろんセールスや注目度まで、あらゆる意味で最も大きく変わったバンドの一つであることは、誰もが認めるところでしょう。ただ、「STAY TUNE」がいくらカッコよくてもどこかハイプの匂いがするというか、素直に「すごいバンドだ!」とは言えない気がしてました。2016年にフェスで見た時はサウンドチェックでジャミロクワイを演ってみたりして、自分たちのルーツや趣味を隠さない臆面の無さもそのような印象に繋がっていたかもしれません。しかしこのアルバムでは自分たちのルーツをそのままなぞるのではなく、きちんと消化してから独自のサウンドとして鳴らそうという気概が見えます。ポップでオシャレなだけではなくて一本芯と筋の通ったロックっぽさも感じられるアルバムでした。バンドの自信や覚悟みたいなものが見えて、軽々しく聞こえてこない気がします。まだキャリアの短いバンドではあるけれど、彼らにとってまずは決定盤になったアルバムだと思います。

Suchmos – PINKVIBES [Official Music Video]


■4位:MISSION / Nona Reeves

 20周年アニバーサリーイヤーのノーナは2枚のベスト盤をリリースし、満を持してこの『MISSION』というアルバムを作りました。長く音楽を聞いていると軽々しく「最高傑作」という言葉を使いたくなくなってくるのだけど、『MISSION』はそう呼ぶにふさわしいものだと思います。20年間積み上げてきたものを惜しげもなく注ぎ込み、これからのノーナも魅力的であると確信させる充実の一枚。各曲どのフレーズ、どのアレンジを切り取っても「こういうものを作りたい」という意図に溢れていて隙がない。2017年の邦楽シーンともリンクした本当にいいアルバムだと思います。 いつか(元Charisma.com)、曽我部恵一原田郁子など、ゲスト参加のミュージシャンも豪華で、しかも適材適所。単に仲がいいから呼びましたではないところがいい。「Danger Lover」は今後DJセットの常連になりそうだし、原田郁子とのデュエット「記憶の破片」は歌割りにこだわりを持つ西寺郷太氏にとっても会心の出来だと思う。
 20年の間に仲間だったミュージシャン、バンドが活動をやめてしまうこともたくさんあったという。そうした仲間や同志に向けて、そしてこれからも歩み続ける自分たちに向けて万感の思いを歌うラストの「Glory Sunset」は、ノーナの新たなスタンダードになるだろう。来し方行く末双方に目配りするということは、これまでのファンをもちろん満足させ、さらに新たにこれからノーナを知るだろう人たちに向けてもアピールするということ。それを手癖じゃなく丁寧に練り上げて作っているところがいいと思います。

NONA REEVES『MISSION』全曲ダイジェスト


■3位:光源 / Bass Ball Bear

Kougen

Kougen

 僕は決してベボベの熱心なリスナーやファンというわけではなく、彼らの音楽よりもむしろラジオで自分の趣味嗜好を勝手気ままに喋る小出祐介という人物に興味を持ってました。ただ、彼らの音楽のテーマとしてデビュー以来「青春」というものがあったことは理解できます。本作は湯浅将平脱退後初のオリジナルアルバムであり、改めて真正面から「青春」というものに向き合ったアルバムと言えると思います。
 その青春というのは決してキラキラした思い出ではなく、ある種の切なさや痛みと不可分のものだと思います。極端に言えば「黒歴史」と言ってもいい。ただ、その人が今現在その人であるために必要だった時間であるし、また取り戻したい、やり直したいと思っても二度と叶わないもの、として青春を相対化していると思います。小出祐介にとってベボベというバンドは少なくとも青春の一部分ではあったでしょう。そのバンドからメンバーが脱退したことと本作のテーマは無関係ではなかったと思います。すでに青春を過ぎた人間だからこそ、ここまで青春というテーマをえぐることができたのだと思います。
 本作が素晴らしいのは前述のようにそれがどんなに痛みを伴い、忌むべきものだったとしても青春という時間は必要なものだったし、それがあるから現在があるのだ、とはっきり言っているところだと思います。岡村靖幸が『幸福』で描いた「青春の再定義」と、僕にはどこか重なる部分があると思っています。「逆バタフライ・エフェクト」はもう本当に、何度聞いたかわかりません。DJでかけながら、いつも泣きそうになっているのです。

Base Ball Bear – すべては君のせいで Music Video


■2位:Mellow Waves / Cornelius

 オリジナルアルバムとしては実に11年ぶりとは言え、その間プロデュース業やミックスもあったし、「デザインあ」や「攻殻機動隊」のサントラもあったし、YMOのサポートやMETAFIVEもあったし、ステージ上でも音源でもコーネリアスの不在を感じることはあまりなかったように思います。そして本作を聞くとこの間の活動が彼自身の音楽に与えた影響は少なくなかったのだと改めて感じます。
 本作と『SENSUOUS』の大きな違いは歌ものとしてボーカルやメロディーが基本線にあるということだと思います。salyu×salyuや「攻殻機動隊」の仕事を通じて坂本慎太郎の作詞に出会ったことがターニングポイントだったのではないでしょうか。『POINT』から『SENSUOUS』の流れでは歌詞はほとんど文章としての意味を成さず、音節まで分解された上で、極端に言えばあくまでサウンドの一要素として処理されていたと思います。それに対して本作ではきちんと意味のある歌詞にそれを伝えるためのメロディーが与えられている。全体のサウンドの構築そのものに大きなテーマがあった前2作に比べ、圧倒的に人間の体温が感じられる内容になってます。その分、不安定な揺らぎのようなものも出てくるのだけど、それもまた心地よい。アルバムタイトルの意味するところはそんな感じなのではないでしょうか。今後のコーネリアスのサウンドの方向性がどのようなものになるのかはわかりませんが、小山田圭吾が50歳を前にある種伝統的なソングライティングに戻ってきたのは非常に興味深いと思います。

Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here"


■1位:Funk Wav Baunces vol.1 / Carvin Harris

 今年最も驚きをもって聞いたアルバムだし、単純に最もヘビーローテーションで聞いたアルバムです。カルヴィン・ハリスというと大物ボーカリストをフィーチャーして最先端のEDMサウンドを鳴らすDJ/プロデューサーというイメージしかなかったのですが、本作はほぼ全編生音。しかも演奏自体もほとんどカルヴィン・ハリス自身が行っていると言う。BPMは凡そ100前後で、ダンスミュージックとしてはゆったり目です。EDMから生音への回帰というと、やはり2013年のダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』を思い出さずにはいられません。ナイル・ロジャースジョルジオ・モロダーという80sレジェンドとコラボし、ファンキーなディスコサウンドを鳴らしたあの傑作です。本作にも似たテイストを感じますが、ダフト・パンクが前述のように80年代という過去の音楽へのアクセスを一つのテーマとしていたのに対し、本作はあくまでも現在の音楽、最先端のR&Bやヒップホップを標榜していると思います。それはゲストのラインナップからも明らかでしょう。
 兎にも角にも、このアルバムは曲がいい。アレンジがいい。フィーチャリング・ゲストが豪華だし、各々のパフォーマンスも素晴らしい。インストはなし、全編歌もので一貫していて全10曲38分というタイトさもいいです。何度も繰り返して聞きたくなる中毒性があります。2017年、何聞いてた?と言われたら真っ先に僕はこのアルバムを挙げます。

Calvin Harris - Prayers Up (Official Audio) ft. Travis Scott, A-Trak


というわけで2017年、私の選んだ10枚でした。他にもねごと『ETERNAL BEAT』、佐野元春&THE COYOTE BAND『MANIJU』、桑田佳祐『がらくた』、Awesome City Club『Awesome City Tracks 4』など、いいアルバムはたくさんありました。今年もいい音楽にたくさん出会えますよう。

ETERNALBEAT

ETERNALBEAT

  • ねごと
  • ロック
  • ¥2100
MANIJU

MANIJU

2017年・私的ベスト10~音楽編(1)~

 今年はDJ活動を再開したこともあって好きな音楽に触れる時間が昨年までよりも長かった気がするんですが、かといってじゃあ新しい音楽をたくさん聞いてきたか?というと決してそうではないような気がします。そこそこは聞いたとは思いますが、例えばフェスで若い人たちが盛り上がるような新しいバンドや最新の流行を追いかけるような聞き方はもうしてません(というか、できません)。歳のせいにはしたくないですが、結局自分の好きなもの、そのアンテナに引っかかるものに時間と労力とお金を使いたいのですね。その分出会い頭のサプライズ的な、意図しない新しい音楽との出会いは減ってしまうんですけれど。でも、人生折り返し地点過ぎて死ぬまでカウントダウンと思ったら、そりゃ残り時間好きなもので埋め尽くしたくなりますよ。わざわざあまり興味ないものに使う時間と労力とお金がもったいないのです。と、醜い言い訳をしたところで今年聞いたアルバムベスト10です。ベスト10とは言っても順位にあまり意味はありません。はっきり言って、ベスト3以外はもう同列。その日の気分によって順番どころかラインナップすら変わると思います。今年僕のDJを聞いてくれた人なら、なるほどなと思うようなタイトルが並んでいると思います。


■10位:Pacific Daydream / Weezer

 ウィーザー、通算で11枚目のオリジナルアルバム。前作『ウィーザー(ホワイト・アルバム)』からは1年半。これだけキャリアの長い海外のバンドとしては非常に短いスパンでのリリースだと思います。でもウィーザーって1994年のデビューから割とずっとこんなペースなんですよね。個人的にはウィーザーが一番好きなバンドだ!と思うことは実はあまりなくて、でもずっと身近にいたバンドなので。オアシス亡き今、自分の青春時代からおっさんになった今まで一緒に歩んできた「おれのバンドだ!」と思える存在って今はもうウィーザーくらいしか残っていない気がします。90年代までのウィーザーはポップではあっても少しひねくれていて、歌詞も内省的だし童貞くさいし少しオタク的な印象があったと思うのだけど、ここ10年くらいは逆に、すごくストレートにポップ・ロックを疾走している感が強い。本作もそんな職人技のような眩いギターロックが溢れています。リヴァース・クオモは1970年生まれ。学年で言うと僕の一個上で同世代。そんな彼が陰鬱とした青春時代を超えて本作のような音を鳴らしていると思うと感慨深いですね。

Weezer - Beach Boys


■9位:Colors / Beck

 ベックという人は音楽性の幅が広いのでアルバムのテーマやその時の彼のモードごとに作品のカラーがガラッと変わってしまうアーティストです。前作『モーニング・フェイズ』がサイケデリック・アコースティックな作品だったのに対し、今作はキラキラしたポップ・アルバムになっています。ダンサブルでストレートなポップスが並んでいて、こんなに素直に聞いていて楽しいベックのアルバムは久しぶりと思います。印象としては『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』や『グエロ』に近いかなという感じです。彼のバックボーンであるルーツミュージックの影響をあまり感じなかったりするのはあえて狙ったのかなという気がします。昨今のブラックミュージックの影響を強く感じさせるコンテンポラリーな内容だと思います。プリンスが急逝した後、彼の功績や影響についてベックが語ったインタビュー記事を読んだことがあるのですが、本作のカラーはもしかしたらその辺を反映しているのかもしれません。

Beck - Seventh Heaven (Audio)


■8位:light showers / 藤井隆

 藤井隆の音楽活動は2000年の「ナンダカンダ」に始まるわけですが、当初は人気の出た芸人がお遊びで曲を出した程度に思われていたかもしれません。が、デビューアルバム『ロミオ道行』は松本隆プロデュースで全曲作詩も担当、作曲陣に筒美京平田島貴男堀込高樹キリンジ)らを迎えた本格的なポップアルバムでした。「ナンダカンダ」やセカンドシングル「アイモカワラズ」はあくまでもボーナストラック扱いになるなどアルバムとしてのトータル性にもこだわった、芸人の副業にとどまらないJ-POP、歌謡ポップスの傑作でした。この『ロミオ道行』とセカンド『オール・バイ・マイセルフ』は今でも色褪せない名盤だと思います。彼の音楽遍歴や音楽への愛情は「Matthew's Best Hit TV」などでも開陳されていますが、藤井隆は1972年3月10日生まれで僕とたった18日違い。なので通ってきた音楽体験は非常に近いと推測します。2015年にリリースした『Coffee Bar Cowboy』も西寺郷太NONA REEVES)やtofubeatsが参加し、80sテイストと歌謡アイドルポップスとダンスミュージックを融合させたシティポップアルバムでした。そして本作はさらに豪華。90年代J-POPをテーマに、作家陣には前作に続き西寺郷太、堂島幸平やEPO、澤部渡(スカート)などの名前が並びます。そして全10曲には全て「架空の会社」の「架空の商品」のCMタイアップがついているという設定になっていて、そのCMを実際に作ってしまうという壮大なギミックが仕掛けられています。ちなみにCDパッケージにはそのタイアップ元を記したシールまでついています。その仕掛けもさることながら、どこかレトロ感の漂うサウンドのダンスミュージックは昨今のシーンの潮流ともばっちりハマっていて内容的にも素晴らしい。自分の思春期や青春時代に好きだった曲をプレイリストに入れて楽しむようなことは多くの人がやることだと思いますが、藤井隆はそれを全部新曲でやってしまっているのです。

藤井隆 "light showers" CFまとめ


■7位:Who Built The Moon? / Noel Gallagher’s High Flying Birds

Who Built The Moon?

Who Built The Moon?

 ノエルのソロアルバムももう3作目。正直もうオアシスの再結成がどうということを考える気はしない。そのくらい、ノエルの音楽活動は充実しています。今年で50歳になったノエルではあるけれど、ソングライティングの手腕はもちろん錆びついていないし新しい音楽的チャレンジも貪欲に行っています。本作でもデヴィッド・ホルムスをプロデューサーに迎えて従来よりもエレクトロニック色を強めた曲が並んでいます。オアシスの(結果として)ラストアルバムになった『ディグ・アウト・ユア・ソウル』の先を行ったようなアルバムと言っていいかもしれません。ノエルの書く歌詞は基本的に難しい単語や比喩を使いません。中学生でも訳せそうな英語です。そんな単純な文章やフレーズの中に聞き手は自分の思いを投影するのです。オアシスが「みんなのうた」になりえたのはノエルのそんなソングライティングの資質がやはり大きかったのだと改めて思いました。「シー・トート・ミー・ハウ・トゥ・フライ」なんて本当に何の意味もない曲です(褒め言葉です)。そしてボーナストラックとして収録されている「デッド・イン・ザ・ウォーター」が余裕で圧倒的に名曲という。ノエルの弾き語り系の曲にはハズレがありません。横綱相撲のようなアルバムです。

Noel Gallagher’s High Flying Birds - Holy Mountain


■6位:ダンサブル / RHYMESTER

Danceable

Danceable

  • RHYMESTER
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2200

 RHYMESTERのアルバム、特に『マニフェスト』以降はヒップホップはもちろん、様々なカルチャーに対するメッセージや社会問題、政治的なメッセージ性も強い曲が多かったと思います。もちろんそれをエンターテインメントとして提示できるだけのスキルが彼らにはあったということですが、今作のキモはむしろそこから解き放たれよう、ということだったと思います。J-POPやシティポップ、昨今のR&Bやヒップホップのいいとこどりをしたようなトラックは聞いていてとにかく楽しい。J-POPの流れを汲むラップグループの流行りはもう一段落したような気がするけれど、これは生粋のヒップホップグループがポップに寄せていったもので、基礎工事の太さが違うのです。「梯子酒」のような、大人の悪ふざけとしか思えない曲が入っているのもいいです。KIRINJIをフィーチャーした「Diamonds」はKIRINJIのアルバムにRHYMESTERがゲスト参加した「The Great Journey」に続く名曲だと思います。
 「Future Is Born」や「スタイルウォーズ」の歌詞はヒップホップの歴史や現状にインスパイアされたものでしょう。TVドラマ版「SR~サイタマノラッパー」の主題歌であった「マイクの細道」はややボーナストラック的な扱いではあるけれど、アルバムの締めくくりとしてこれ以上のものはないと思います。全10曲41分というタイトさも大きな魅力。無駄なものが入ってません。RHYMESTERってちょっと怖そう、とか小難しそう、とかいうイメージがある人はまず今作を聞くといいと思います。

RHYMESTER - Future Is Born feat. mabanua

後半は年明けに…皆様良いお年を。

2017年・私的ベスト10~映画編(2)~

■5位:ゲット・アウト

getout.jp

 この映画は人種差別をテーマにしたホラー映画として紹介、宣伝されています。確かに前半は何が起こっているのかわからない奇妙な違和感や緊張感が支配しています。しかし、物語が大きく動き出す後半は全く別の映画になる。ほとんどコメディと言っていい荒唐無稽さとストーリーの飛躍。この、あれよあれよとジェットコースターのように思いもよらぬ方向に連れていかれる感は昨年末にヒットした拾い物の傑作『ドント・ブリーズ』や同じく昨年の傑作ノワール『マジカル・ガール』にも通じるものがある気がします。(ちなみに『ゲット・アウト』は『ドント・ブリーズ』のさらに半分の予算しかありません)
 監督のジョーダン・ピールはこれが初監督作品で、元々はきわどい人種差別ネタを得意とするコメディアンだそう。「ホラーとコメディは共通する」という監督のコメントもあるように、これまでの彼のキャリアを総括するような作品になっているのでしょう。低予算ながら発想と工夫でこれだけ面白いものを作れる、という気概も感じます。
 前半のパーティーのシーンで、クリスに対する白人たちの話があまりにも典型的すぎる(オバマタイガー・ウッズの話題ばかり出るなど)のは、そのつもりがなくとも無意識の所で実は差別的な言動をされているような、黒人ならではの「あるある」に満ちているのだと思います。こういう違和感や居心地の悪さを上手く描けるのは、そういうものを笑いに転換するコメディアンである監督の得意とするところなのかもしれません。


■4位:マンチェスター・バイ・ザ・シー

 非常に物静かで、穏やかな風景が美しい映画。しかしその裏には一人一人の登場人物たちの葛藤や思いが激しく動いています。リー・チャンドラーという主人公の男がなぜ誰にも心を開かないのか。なぜ、マンチェスター・バイ・ザ・シーを去らなくてはいけなかったのか。それは物語の核心を突くネタバレになるので伏せますが、その出来事が彼にとって重くのしかかる呪縛になっています。普通の映画であれば、兄の息子パトリックとの交流を経て過去を乗り越え、新たな家族の物語が始まる…という感動物語になるところが、この映画はそうではありません。乗り越えられない過去もあるのだ、ということをこれでもかと見せつけるのです。リーは自分が犯した罪を決して赦すことはできません。しかし彼は法では裁かれず、自ら死ぬことも許されなかった。複数の人間の人生を狂わせたほどの過去がそう簡単に清算されるわけはないのです。何ともいたたまれない。
 回想シーンを除いて、この映画での登場人物たちの会話は全編とことんぎこちない。全員が、お互いの距離を計りかねているように見えます。リーをはじめ、パトリックもリーの元妻のランディも、ハリネズミのように自分の心をガードしています。なので逆に劇中でポイントとなるのは誰かが誰かに激しく感情をぶつけたり、突発的な行動に出る場面だと思います。その中で、彼らは少しずつ、本当に少しずつではあるけれど近づくことができる。そういう、微妙な心理を実に見事に描いた映画だと思います。
 ケイシー・アフレックもミシェル・ウィリアムスもそれぞれの人生、キャリアでつらい過去や失敗を経験してきた人です。僕はマット・デイモンではなくケイシー・アフレックがリーを演じてよかったと思います。個人的には主人公に感情移入してしまって、後半はボロ泣きでした。人は一人では生きられないし、前へ進むこともできないのです。40代も半ばになると、本当に良くわかりますよ。


■3位:メッセージ

 ある日、地球各地に大きな宇宙船のような物体が出現する。言語学者のルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)は宇宙船から発せられる音や波動から彼らの言語を解明し、何らかの手段でこちらのメッセージを彼らに伝えるよう、国家から協力を要請される。宇宙人にはタコの足に似たものがあったため、彼らをヘプタポッドと呼ぶようにした。彼らはその先端から図形を吐き出す。ルイーズたちは刻々と変化する図形の規則性を見出し、コミュニケーションを取ろうと試みる。
 物語はヘプタポッドとの対話を試みるルイーズたちの奮闘と、彼らを脅威と見なして攻撃しようとする各国首脳たちの動向を時限的にスリリングに描く。しかし本作の肝はそこではなく、なぜヘプタポッドが地球に来たのか、彼らの言語(文字)を解読する中でルイーズにどんな変化が生じたのか、そして時折インサートされるルイーズと娘・ハンナとの記憶です。これらは密接に絡み合っていて、言語学における「サピア=ウォーフの仮説」がひとつキーワードとなっています。詳細は省きますが、簡単に言うと「言語はその話者の世界観の形成に差異的に関与する」というものです。例えば、英語だと主語の次にすぐ述語が来るので、結論を先に言わなくてはいけませんが、対して日本語や韓国語では述語が来るのは文章の最後なので、結論が最後になります。話している最中に結論を変えてもいいのです。なので英語よりも優柔不断な場合が多い、みたいな話です。劇中で一つキーとして出てくるのは、ヘプタポッドには時間という概念がないという事実です。過去も現在も未来も区別がなく、時制を超越しているのです。では、サピア=ウォーフ仮説が正しいとして、ヘプタポッドの言語を理解し始めたルイーズにどういう影響が出始めるのか。ここまで来て、見ている側にも理解できるのです。ヴィルヌーヴ監督は冒頭からハンナとルイーズのシーンを明らかに回想シーンのように撮っているのですが、それは意図的なミスリードだと思います。ルイーズに生まれたハンナという娘、そして彼女が病魔に侵されて亡くなってしまう悲劇。それはこれから起こる未来の話だったのです。
 ヘプタポッドが描く文字のように、映画自体も円環構造でオープニングと同じ場面で終わします。本作は「未来に悲劇が待っていると知って、選択を変えるか否か?」と問いかけるのです。ルイーズはハンナを産むことを選びます。その選択を支持するかどうかは意見があ分かれるでしょうが、それは本作の評価には関係ないと思います。未来のビジョンから現在の行動が変化するので、明確にタイムパラドックスになっているところが引っ掛かる人も多いと思います。でもこれだけあからさまにやっているのはやはり意図的なんじゃないかと思います。この映画が伝えたいのは科学的に正しい考証ではなく、「あなたの人生の物語」なのだから。
 SFでありながら、その実は人間への根源的な問いかけになっているという、非常に哲学的な映画でした。アカデミーで作品賞はじめ複数ノミネートされたのもそういう部分でしょう。先に見た『パッセンジャー』もそうだったけど、見た後で感想を語り合いたくなる映画です。


■2位:ベイビー・ドライバー

 オープニングのカーチェイスシーン。ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの「ベルボトム」に合わせて展開される、スピード感あふれるカーアクションが異常なカッコよさです。一部では「カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』」などとも言われているようですが、実際『ラ・ラ・ランド』のオープニング「Another day of sun」に負けるとも劣らない見事なアバンタイトルだと思います。ベイビーが常に音楽を聞いているという設定もあり、この映画では常にバックに流れる音楽が大きな意味を持ちます。登場人物のセリフや生活音(靴音、テーブルにカップを置く音、ドアが閉まる音etc)など、様々な音がBGMとシンクロするように作られている。偏執的と言えるほど拘った撮影と編集だと思います。当然ながらそこで流れる曲はなぜそのシーンでこの曲なのかという意味がきちんと込められているわけです。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『オデッセイ』など、最近はこうした手法で音楽を重要な要素にしている作品も多いですが、映像とのシンクロという意味でも本作の拘りはひとつ頂点を極めてしまったと思えるほどです。エドガー・ライト監督は『ホット・ファズ―俺たちスーパーポリスメン!』や『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』などの過去作でもオタク的な小ネタや拘りを随所に見せていましたが、今回は天晴な所まで来たと思います。
 カーアクションと音楽だけの映画ではなく、過去にトラウマを負った少年がそれを乗り越えるという成長物語でもあります。耳鳴りはベイビーにとって真正面から向き合いたくない過去の記憶であり、息苦しい世の中そのものの象徴でもあるのでしょう。そこから彼を救いだすのがヒロインのデボラであり、ラストでこれまでの罪を償い、子供(ベイビー)から大人になった彼にはもう耳鳴りは聞こえていないのです。作品の元ネタとしてグレアム・グリーンの小説「ブライトン・ロック」があるというのは町山智浩氏の解説でもわかりやすく指摘されていますが、読んでいなくても問題はありません。ただ、ベイビーが最も好きな曲がクイーンの「ブライトン・ロック」であるのはその小説のタイトルから来ているということを覚えておけばいいと思います。素晴らしい音楽映画であり、青春映画。エドガー・ライト監督にとってもキャリア最高の傑作だと思います。


■1位:ドリーム

 プロットを聞いただけでこれは絶対見たい!と思った映画だし、実際見てみて期待以上。日本公開が遅れたのは客が呼べるスターが出ていないとか、題材が地味とかいろいろと理由はあるのだろうけど、こういう映画こそ、ちゃんと宣伝して伝えるべきと思います。昨年『この世界の片隅に』が証明したように、口コミでもちゃんと広がりますよ。「私たちのアポロ計画」とかふざけた邦題つけなくて本当によかったと思います。
 とにかく、演出が丁寧。台詞だけでなく、画面の構図や役者の所作、劇伴の音楽など、いろいろな所で前に出てきたものが活かされる作りになっています。それが単なる伏線の回収ではなく、物語の推進力を増し、感動を呼び起こす装置として見事に機能していて上手いと唸ってしまうシーンがいくつもありました。白眉は、やはりケビン・コスナー演じる技術責任者がキャサリンに「ある物」を手渡すシーン。ここは冒頭のシーンと重ね合わさって涙が止まりませんでした。
 全ては「前例がない」という理由ではねつけられる。メアリーが白人専用高に行くために訴えるシーンも爽快でした。。誰かが最初に、ファースト・ペンギンにならなくてはいけない。前例がない有人宇宙飛行をやろうとしているのに、前例に囚われていてどうするのか。クライマックスに向け、NASAの中にそうした垣根が取り払われていくのは心が熱くなりました。
 本作がアメリカで『ラ・ラ・ランド』を超えるヒットになったのは、親が子供連れで、特に黒人で女の子を持つ親が子供に見せるために足を運んだからだそうですね。理系離れと言われ、大学の研究費も削減されっぱなしの日本でも、この映画は多くの人に見られて然るべきだと思います。この映画は様々なハードルや困難を乗り越えて何かを達成する人たちの物語。そのハードルとは主人公たちにとっては人種差別や偏見ですが、人類にとっては宇宙へ行くために重力を乗り越えるということでもあると思います。主人公たちが頭脳と能力で周囲を認めさせると同時に、人間が科学の力によって重力を超え宇宙へ行くというカタルシスが並行して描かれています。この映画のテーマは人種差別ですが、それと同時に人間賛歌、科学賛歌でもあったと思います。


 個人的に『ドリーム』はやっぱり頭一つ抜けてたなと思いますが、他にもいい映画は多くて10本選ぶとなるとどれを外すか悩むところでした。『ムーンライト』『ハクソー・リッジ』『ダンケルク』『アトミック・ブロンド』『ブレードランナー2049』『ELLE』、などなど。来年も50本目標に映画館に通おうと思います。今年はHDDに録りためた昔の作品を見る時間があまり取れなかったのでその辺も来年は頑張ろうと思います。

2017年・私的ベスト10~映画編(1)~

 今年も劇場で50本を目標にしましたが惜しくも届かず。来年がんばります。今年は上位3本は別格で、それ以外はほぼ同列。全部好き。そんな感じです。なので順位にあまり意味はないかもしれません。

■10位:沈黙-サイレンス-

 遠藤周作の「沈黙」を、巨匠マーティン・スコセッシが映画化。実に、企画から30年近くかかって実現した作品とのこと。本作が原作小説をいかに忠実に、そして丁寧に描写しているかは、遠藤周作の弟子である作家の加藤宗哉氏インタビューを読むと非常によくわかります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/012700229/

 ここでも言及されているのですがキチジローは周作本人であり、また弱い人間そのものの象徴だと思います。強い信念を持って生き続けられない、市井の人々の象徴としてキチジローは描かれている。彼はアンドリュー・ガーフィールド演じるロドリゴ神父と対をなす存在ですが、ロドリゴも劇中で彼を嫌忌します。ロゴリゴはキチジローの弱さが自分の中にもあることを知っているからでしょう。写し鏡のように、彼の弱さに向かい合うのが怖いのだと思います。そしてその弱さというのは宗教とは別にして、目の前にある現実や理想との乖離に対して、多かれ少なかれ誰しもが持つものだと思います。そういう普遍的なものを描いている作品だと思います。
 とにかく重厚で、見ごたえのあるドラマです。画面の美しさも素晴らしい。日本人キャストも総じて良かった。強烈な印象を残すイッセー尾形窪塚洋介浅野忠信はもちろん、モキチ役の塚本晋也は素晴らしかったと思います。日本人や日本文化、日本語の台詞や細かい風俗に至るまで、ハリウッドでここまで正しく日本が描かれた映画は殆どなかったんじゃないだろうかと思います。テーマとしては重いし、長いし、見終わって爽快感やカタルシスがある作品ではないけど、見ておいてよかったと思いました。


■9位:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2

 私も意地でも『リミックス』という邦題は使わない派です(笑)。
 いわゆるマーベル・シネマティック・ユニヴァース(MCU)作品でも今年最も注目されていた作品でしょう。大ヒットとなった前作を受けて、予算もスケールも大きくなった2作目。
 前作のラストで暗示されていた通り、今作は主人公ピーター・クイルと父親の関係を描いたものですが、それだけに留まらず父子、家族、仲間、姉妹、様々な「絆」の映画でした。フリートウッド・マック「ザ・チェイン」が要所で流れるのも当然。その他音楽の使い方は相変わらず素晴らしい。ジェームズ・ガン監督天晴です!前作に比べて曲が地味なんじゃないかという意見もあるようですが、曲単体のクオリティは高いままに映画との結びつきはむしろ前作の比じゃないわけで。よくぞこの選曲をしたなあと思う他ないです。前述の「ザ・チェイン」、ジョージ・ハリスン「マイ・スウィート・ロード」、キャット・スティーブンス「父と子」(これがかかるシーンは泣ける!)のようなあからさまに重要な意味を持つ曲はもちろん、冒頭に流れるELO「Mr,ブルースカイ」がクライマックスでそう来たか!と思わせる展開に繋がるのはやられました。個人的にはサントラを聞いてから見に行った方がいいと思います。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(GotG)以降、ありものの曲を使って劇中の展開とリンクさせるようなやりかたは『オデッセイ』や『スーサイド・スクワッド』など一種ブームのようになりましたけど、ジェームズ・ガン監督のセンスはその中でも目立ってると思います。
 あと、とにかく絵が綺麗。色が美しい。黒基調の宇宙ものというイメージを覆して、ほぼサイケデリックとすら言えるカラフルさ。ロジャー・ディーンの描いたYESのアルバムジャケットみたいなのですよ。近年はダークでシリアス路線になりがちなアメコミヒーローものですが、軽口をたたき続ける登場人物たちの軽妙なやり取りやポップな音楽で全編を彩るGotGはそれとは一線を画しています。しかしそれでいて内容が浅いわけではない。ハリウッドの大作映画としては現在最高のクオリティの一作と言っていいのではないでしょうか。


■8位:お嬢さん

 公開前から相当エロいという話は聞いていて、R18というレイティングでどんなものかと期待は膨らむばかりでした。原作はイギリスのサラ・ウォーターズが書いた「荊の城」。舞台設定をヴィクトリア朝から日本統治時代の朝鮮に変更しています。
 同じ時間軸の話を登場人物の視点を変えて描く第一部と第二部。これにより、同じ画面も全く違う意味を持つ仕掛けになっています。主要キャストそれぞれがお互いに裏を持って相手を騙しているという設定なので、パタパタとドミノが倒れていくように伏線や謎が回収されていくさまは実に鮮やか。そうしたどんでん返しやミステリー、サスペンスとしての面白さはもちろん、画面の美しさとエロさの変態性が映画に奥行きとオリジナリティを与えていると思います。日本人がむしろ忘れかけている(ような気がする)大正~昭和初期のエログロさ、江戸川乱歩夢野久作のような妖しさと不気味さとどこかコミカルさを持つ演出。体当たり演技を見せた主演女優二人はもう、満点です。印象に残るシーンは多いですが、直接的なベッドシーンよりも珠子が秀子の歯を指貫でしこしこと削るシーンがとてつもなくエロかったです。ここの長回しワンカットのシーンががチャヌク監督の変態性をよく表していたのではないでしょうか。
 原作と大幅に変更したという第三部とラスト。個人的にはもうひと波乱あるかと思っていたので若干拍子抜けでしたが、ヒロイン二人の解放ということを考えればこれでよかったのかもしれません。キャストたちが話す日本語は多少のぎこちなさがあるものの、非常に頑張っていたと思います。ここでも主演女優二人は文句なしでした。


■7位:ギフテッド

 「ギフテッド」とは、先天的に平均よりも顕著に高度な知的能力を持っている人のこと。そうした子供に対して通常の学校に通わせるのではなく、特別に支援する教育のことを「ギフテッド教育」という。本作では数学に対して特別な才能を持つ7歳の女の子、メアリーが主人公。
 メアリーに対して普通の教育を受け普通の人生を歩ませたい叔父と、ギフテッド教育によりその才能を開花させようとする祖母がメアリーの親権と教育権を争う。日本ではアメリカに比べて一般的ではないギフテッド教育ですが、詳しい背景などを知らなくても問題ない映画です。要は、子供にとって何が幸せなのか、人生にとって何が幸せなのか、という根源的な問いかけになっています。人間ドラマと法廷劇が中心ですが、とにかくメアリー役のマッケナ・グレイスちゃんの演技が素晴らしい。乳歯が抜けて前歯がないのもキュートで、表情や台詞回しは大人の役者顔負け。子供らしさだけでなく大人びた複雑な感情も見事に表現していて、末恐ろしいですね。物語や状況としては全く違いますが、子役の圧倒的な演技と父親(本作では父親代わりの叔父ですが)と少女の絆、彼女にとっての幸せとは何かをテーマにしているという意味では『アイ・アム・サム』を思い出しながら見てました。あの映画ではダコタ・ファニングがすごかったですね。
 映画の中ではリンゼイ・ダンカン演じる祖母が悪役という風になってしまうんですが、決してそうとばかりも言えず。純粋にメアリーのため、そしてメアリーの才能を伸ばすことが人類のためだと思って行動している節もある。いわゆる毒親問題とも関わってくると思うんですが、第三者から見て毒親かどうかという判断は非常に難しくて、ギフテッド教育が一般的でない日本でもいろんな視点で考えさせられる映画だと思います。エンディングについては賛否あるようですが、このどっちつかずでモヤモヤした結末はとてもリアルだと思いました。でもその中でメアリーが楽しく笑っているというのが全てじゃないでしょうか。
 マーク・ウェブ監督にとっては尻切れトンボになった『アメイジングスパイダーマン』シリーズからの復帰作で、元々のフィールドである小規模予算のミニシアター系映画に帰ってきたという所でしょう。映画のテイストとはやや違うかもしれませんがのびのびと撮っている様が感じられて良かったです。


■6位:ラ・ラ・ランド

 長文感想はすでにブログに書いています。
http://magro.hatenablog.com/entry/2017/04/03/122441

 ミュージカルとしては申し分なしです。ですが物語、テーマとしては違和感を感じました。主人公たちの夢に対する考え方や彼らの選んだ人生とその描き方についてです。見た人それぞれに納得いかない部分や意見はあるでしょうが、映画としての評価はまた別です。過去の遺物としてほぼ消え去ったかに見えるオリジナルのミュージカルをハリウッドに復活させるという壮大な野望をチャゼル監督はやり遂げたわけです。映画史に残るであろうアバンタイトル、高速道路でのミュージカルシーンはやはり秀逸です。2017年は『ラ・ラ・ランド』があったと記憶されるような象徴的な一本であることは間違いないと思います。

(続きます)