無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2022年・私的ベスト10~映画編(2)~

第3位:マイスモールランド

川和田恵真監督の初長編作。主演もデビュー作となるモデルの嵐莉菜です。

舞台は埼玉県川口市クルド人である17歳のサーリャは、幼い頃に日本に移住し家族とともに生活しています。しかし難民申請が不認定となり、一家の生活は一変してしまいます。

現在の日本における難民・移民問題に正面から向き合った作品です。難民申請が不認定になると在留資格を失い、居住地である埼玉県から出られず、働くこともできなくなります。でも生活はしなくてはいけない。じゃあどうすればいいのか?

あまりにも理不尽で無慈悲な扱いに怒りを覚える半面、難民申請がほぼ受理されないという現実を見て見ぬふりをしてきたのもまた我々日本人なのです。そんな無力感と申し訳なさに苛まれる作品です。

川口市には実際に多くのクルド人が在住しコミュニティができているそうです。実際に在留資格のあるクルド人移民の中からオーディションで出演者を選出しようという話もあったのですが、断念したそうです。

彼らの顔や名前が作品として残ってしまうと、今後何かあった時彼らにとって不利な事態になりかねない、という判断だったとのこと。

そうした判断をせざるを得ないほど移民の立場は不安定だということなのでしょう。本作で当事者キャスティングができなかったこと自体が、日本の移民政策の歪さを表しているとも言えると思います。

その結果、5か国のルーツを持つモデルである嵐莉菜がサーリャ役に選ばれました。彼女の繊細な演技が本作のキモであることに間違いありません。

サーリャの家族には実際に嵐莉菜の父親、妹、弟がキャスティングされました。いずれも演技経験はないと思いますが、これがまた素晴らしいのです。

実際の家族であるからこその空気感が画面に映し出されていて、弟ロビン役のリオン君はおそらくまだ6~7歳くらいと思いますが、実に自然な演技です。

川和田監督は映像制作者集団「分福」所属で、是枝裕和監督の弟子筋にあたる人です。是枝監督も子役演出に定評のある人ですが、しっかりとそのイズムを受け継いでいるようです。

作中の日本人はバイト先の店長役の藤井隆を筆頭に、基本的には善意の人々です。しかし何気ないやり取りの中に差別や偏見が見え隠れする。悪気がない分余計にタチが悪いのですが、実際にこれが自分も含めた大多数の日本人の姿なのでしょう。この辺も見ていて「ああ…」となります。自分は果たしてどうなのかと。

奥平大兼演じる聡太とサーリャの恋愛模様が重いドラマの中に爽やかな光を与えています。青春映画としてもとてもよくできていると思います。

これを見て自分に何ができるのか、と考えると非常に重く暗い気持ちになる作品ですが、逆にこうした作品を作れるだけまだマシというか、作ってくれてありがとうという気持ちにもなります。

ウィシュマさん死亡事件に代表されるように、日本の入管や移民政策には大きな問題があります。日本人としてそこから目を背けないようにしようと思える映画でした。


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第2位:トップガン マーヴェリック

1986年公開のトム・クルーズ主演作『トップ・ガン』の続編です。3年前から予告編がガンガン流れていましたが、コロナで公開が遅れに遅れた末にようやく今年の公開になりました。全世界で大ヒットしたのは、ようやく映画館で大作映画が見られるというコロナからの反動もあったでしょうが、何より作品の力だと思います。

まず、赤い画面の中出発する戦闘機のオープニング。ケニー・ロギンス「デンジャー・ゾーン」の流れるタイミングから何から前作と全く同じです。リアルタイム世代はまずこのオープニングで血沸き肉躍り、心を持っていかれたと思います。

トム・クルーズ演じるピート・ミッチェル大佐は昇進を拒み、現在も現場でパイロットを続けています。そんな中、とある重要作戦へ参加する精鋭パイロットへの講師として呼ばれます。
その中にはかつて自分のパートナーだったグースの息子、ルースターがいたのです。

年齢を重ねたトム・クルーズはもちろん、前作のキャラクターや設定を35年経った中でも巧みに活かしています。今も現場でパイロットを続けるピートの姿は、体を張ったスタントを自ら演じ続けるトム・クルーズ自身の姿に重なります。

息子のような年齢の若者たちと肩を並べ、それを上回る技術と経験で進むべき背中を見せる。本作の中でピートがルースターたちにやっていることは、現実のトム・クルーズが映画界においてやっていることそのものです。トム・クルーズは老兵になりつつある自分が一線を去る前に本作を作っておこうと思ったのかもしれません。

そして感動的なのはアイスマンヴァル・キルマーとのシーン。咽頭がんの治療のため声が出せなくなったヴァル・キルマーのため、アイスマンにも同様の設定を与えた上で見事な「会話」シーンを描いています。葛藤するピートの迷いを払拭させる非常な重要なシーンであり、本作でも屈指の感動的なシーンとなりました。

唯一残念なのは本作で描かれる「敵国」の設定や実像が非常に曖昧なこと。しかもロシアがウクライナに侵攻した今となっては本作でアメリカがやっていることの正当性が非常に揺らいで見えてしまいます。予定通りに公開されていればそこまで気にならなかったかもしれませんが。

ともあれ、大きなスクリーンで見るべき映画をしっかりと見るべき作品に仕上げてくれたことには感謝しかありません。2022年を象徴する1本だったことは間違いないでしょう。


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第1位:RRR
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『バーフバリ』のS.S.ラージャマウリ監督の新作。1920年代、イギリス植民地時代のインドを舞台に2人の男の友情と戦いを描いています。

主人公2人は実際にインド独立運動の指導者であったラーマ・ラージュとコムラム・ビームがモデルのようです。ただ、実際にこの2人が出会って共に活動したという事実はなく、あくまでもフィクションの物語とのこと。

つまりこれは一種の歴史改変もので、タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』や『ジャンゴ』のように歴史に消え虐げられた者たちが怒りを爆発させ、一矢報いるという形式の話なのだと思います。

そして全編『バーフバリ』を超えるスケールのアクションが怒涛のように展開されていきます。

まず大義のために警察官として出世しようとするラーマが数千人の反イギリスデモ隊の中からリーダーを捕まえようとするシーン。1vs複数のアクションシーンは数あれど、ここまでしっかりと主人公の戦いのロジックを見せるものはあまりないと思います。

対してビームがジャングルの中で虎と戦うシーン。主人公2人の戦い方や考え方が対比され、まさに「炎」と「水」のように描かれています。

そしてこの2人が出会うシーン。少年一人を救うためにそこまでやるか?という大仰なアクションなのですが、まさに炎と水の中2人がガッチリと手を握るシーンはグッときます。そしてこの時に2人が乗っているものが後の展開に効いてくる。この辺も胸熱です。

とにかくわかりやすく盛り上がるような仕掛けが随所に配置されていて、それが後半できちんと回収される。壮大なアクションを描きながら大雑把ではなく緻密に組み立てられたエンターテインメントになっているところがラージャマウリ監督の真骨頂だと思います。3時間があっという間です。

主演2人はダンスも定評があるようですが、キレのいいダンスでイギリス人たちを圧倒する"ナートゥ"ダンスのシーンは圧巻です。めちゃくちゃカッコいい。間違いなく本作でも屈指の名シーンだと思います。

エンドクレジットではインド独立運動を行っていた偉人たちの顔が次々と出てきます。ただ、我々にはなじみのない人ばかりなのでその辺の解説をしっかりしているパンフレットは必読だと思います。


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以上です。長文乱筆失礼しました。
来年もたくさんの素晴らしい映画に出会えますよう。