無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2022年・私的ベスト10~音楽編(2)~

2022年私的ベストアルバム、引き続き洋楽編5枚です。

Dawn FM/The Weeknd

Dawn FM

Dawn FM

  • ザ・ウィークエンド
  • R&B/ソウル
  • ¥1324

前作『アフター・アワーズ』がその年を代表する大ヒットだったにもかかわらずグラミー賞から完全スルーされ、ヘソを曲げてしまったザ・ウィークエンド。本作も80年代、特にマイケル・ジャクソンからの影響を色濃く残しながら架空のラジオ局というコンセプトで製作されています。途中インサートされるDJの声はジム・キャリーが担当。

驚くべきは「Out Of Time」という曲で亜蘭知子の「Midnight Pretenders」をほぼそのままサンプリングしていること。1983年リリースのアルバム『浮遊空間』に収録された曲です。ジャパニーズ・シティポップの波もとうとうここまで来たかという感じですね。何しろ現行シーンで最も売れているアーティストの一人に取り上げられたわけですから。

それを抜きにしても本作は80年代へのオマージュに溢れています。リアルタイム世代からするとたまりません。


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Harry's House/Harry Styles

ハリー・スタイルズのソロ3作目です。女優であり映画監督でもあるオリヴィア・ワイルドとは結局破局してしまったようですが、本作はまだ交際中に製作されたもの。彼女との関係も本作には大きく影響していると思います。

アルバムのタイトルは細野晴臣の『HOSONO HOUSE』から取られたという話もあります。今まで以上に私小説的で内省的なアルバムになっていて、彼の頭の中やプライベートな空間に聞き手を引き入れるような作品になっていると思います。

それでいて聞き心地は非常に軽やかでポップ。大ヒットした「As It Was」はウィークエンド「Blinding Lights」へのUKからのアンサーのようにも聞こえます。まあ元ネタはa-haなんですけど。これもまた80s。音楽の趣味とか関係なく、誰かに1枚洋楽を勧めるなら昨年はコレですね。


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Special/Lizzo

Special

Special

  • Lizzo
  • ポップ
  • ¥1375

今年は後述のビヨンセの新作とこのLizzoの新作が出たというところで、R&B的には非常に盛り上がったのではないでしょうか。

ボディポジティブやガールズ・エンパワーメントの視点から見ても本作は非常にパワフルな作品だと思います。と同時に弱さも隠さずに見せる等身大のLizzoの姿もあり、より強く共感を得られるような作品になっていると思います。

ハリー・スタイルズやケンドリック・ラマーのアルバムもそうでしたが、スポットライトの中でいかにスターが苦しんでいるかをストレートに吐露するような作品が最近は多いですね。SNS社会の中で昔に比べてもメンタルの負担は大きいのでしょう。

そんな中、アフリカン・アメリカンや女性のみならず、マイノリティ全体に対して「あなたは特別だ」と歌うメッセージ性はとても重要です。

サウンド的にはシックをベースにした「About Damn Time」や、これもやはり80sなビートを聞かせる「2 Be Loved (Am I Ready)」など懐かしいもの。ヒップホップオリエンテッドではないR&Bとして、とてもよく聞いたアルバムです。


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Being Funny In A Foreign Language/The 1975

前作『Notes on a Conditional Form』から約2年ぶりの新作。前作が全22曲、約80分の大作だったのに対し本作は約半分というコンパクトさ。政治的なメッセージ性も薄く、非常に聞きやすくポップな作品です。

本作の製作過程はまさにコロナ禍であり、メッセージ性を込めようと思えばいくらでもできたと思いますが、むしろ意図的というほどそういう色は排除されています。誰しもが苦しみや一定の我慢を強いられている状況で、少しでもそれを和らげるような音楽を、と思ったのかもしれません。

少なくとも僕自身は本作のキラキラとしたサウンドとメロディーにとても癒されました。「Happiness」は2022年最も聞いた曲のひとつです。


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Reneissance/Beyonce

RENAISSANCE

RENAISSANCE

  • Beyoncé
  • ポップ
  • ¥1833

ビヨンセ、オリジナルアルバムとしては『Lemonade』以来6年ぶりとなる新作。

リード・シングル「Break My Soul」に代表されるようなハウスサウンドが全面に出ている作品です。ハウスに限らず、ディスコやテクノ、ダンスミュージック全般と言ってもいいでしょう。様々なサンプリングを駆使しながら、最先端のダンスミュージックとR&Bを融合させた作品になっています。

元々ディスコはブラックミュージックから生まれてきたものだし、ハウスミュージックの発展は現在のLGBTQ、クィア・コミュニティと切り離せないものです。奏した文脈の中で、もう一度自分たちの手のそうしたサウンドを取り戻そうという意図が見える気がします。

単にサウンドを融合させたのではなく、自分たちの人生や出自に立脚したプロデューシングなのだと思います。内容的にも女王再臨にふさわしい、まぎれもない傑作だと思います。


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以上、ようやく2023年に完全に足を踏み入れることができました。多分気がついたら2024年になっているのだと思います。
今年もよろしくお願いします。

最後に、2022年よく聞いた曲プレイリストを添付しておきます。順番に聞いてもシャッフルしても問題ありません。