無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

勝訴ストリップ

勝訴ストリップ

 子供の頃から周囲の期待に応えようと意識しすぎるあまりに自分で自分を演じてしまう。そのために自分を傷つけながら生きている。そういう人間を何人か知っている。きっと彼女もそうしたうちの一人なのだろう。椎名林檎というアーティストを演じている。しかし状況は彼女の許容量を明らかにオーバーしてきた。このアルバムにいるのは椎名林檎でありしいなゆみこであり、もう既にその区別すらつかないほどに剥き出しの感情そのものだ。このアルバムの彼女は疲れている。無理している。追い詰められている。大丈夫と傍らにいる人間に呼びかける曲に「虚言症」と名付けざるを得ないほどに。皮肉にもそれがこのすさまじいテンションを生み出している。ただただ引きこまれる。圧倒的な情念のカオス。
 自らの存在証明を賭けて全身全霊で搾り出す音楽表現。人はそれをブルースと呼ぶ。彼女は21歳にして既にそれを手にしてしまった。音楽的な面で言えば前作に比べてアレンジがこなれて、音が厚くなった印象がある。が、そんな表面的な変化など全くどうでもいいと思わせる密度の高さだ。ここにあるエモーションは。