無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ERA

ERA

 「ジュビリー」も「ハレルヤ」も確かにいいと思ってたし、次のアルバムが楽しみになるものだったんだけど、それ以上にとにかく僕はもう「1,2,3」のイントロにブチのめされていた。あのギターのカッティング。音そのものが強靭で明確な意思を発する、そんな瞬間。だった。きっとわかりやすい、一聴しただけで夢に色がつくような、そんなアルバムになるだろうと思った。そしてそれは、実際その通りだった。
 あまりにストレートに、屈託なく希望が描かれる歌詞。頭にこびりついて離れない、魔法のようなメロディーとサウンド。彼の印象的な声もあって、一度聞いたら忘れられない素晴らしい楽曲ばかりだ。このアルバムは様々なゲストが参加しているけども、基本的には中村一義1人の手によって作られたものだ。これだけ開放的なアルバムなのにどこか閉塞感を伴なうのはそのためだと思う。プリンスの『サイン・オブ・ザ・タイムス』やベックの『オディレイ』がそうだったように。そしてもうひとつ、僕ら1人1人を取り巻く現実が閉塞しているからなのだと思う。それを分かった上でやはり希望を歌うからこそこのアルバムは感動的なのだし、だからこそこのアルバムはリアルに鳴るのだと思う。このアルバムの前後で目の前の風景が全く違う、そんな感じだ。
 「産まれてくる赤ちゃんはきっとかわいい女の子さ」という曖昧で不確かな希望は「この目に、その目に、この手や、その手に、そうだ、すべてはある。」という確信に変わった。それも、純粋に音楽の、ロックの持つ力と、それに対する信頼によって。これほど感動的で、勇気づけられることはそうはない。音楽好きで聞いてて良かったと思う瞬間だ。2000年の日本に生きる魂を祝福する都市の聖歌。数え切れない「雨にも負けて風にも負ける」人たち(自分も含めて)にこそ届いて欲しい、真のポップミュージックだと思う。
 祝おう。