無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

インビジブル

 バーホーベンの映画は『ロボコップ』『トータルリコール』『氷の微笑』『スターシップトゥルーパーズ』くらいは見ていて、で、結構好きだったりする。エロ描写と並び、ストーリーと全く関係無い(とは言わないが、少なくともあそこまで見せる必要は無いのではと思われる)、これでもかのヴァイオレンスにやられまくりなのだ。『ロボコップ』でピーターウェラーが殺されるシーンなど痛々しくて見ていられないのだけど、こう指と指の間からチラッと見て、うぉぉやっぱすごい、ダメ、でも見ちゃう、っていう、そんな感じなのだ。監督自身は社会派っぽいことも言っているけども、こういう映像感覚自体がこの人の最大の魅力だと僕は思っている。
 で、この『インビジブル』。予告編で強烈な印象を与えた、あの透明になる過程の理科室人体模型状態シーン。これでもう親指グーです。「おお、腎臓はここにあるのか、ふむ、上腕二頭筋はこうなっているのか」とか、違う楽しみ方も出来そう。ただ全体として見るとバーホーベンにしてはエログロともに控えめの感もありますね。なんつってもヒロインのエリザベス・シューが脱がないし。もっともっと暴れて欲しかったです。この映画、そういう素材だと思うんですが。役者では、透明になっても「ここでニヤリと笑ってるんだろうな」と分からせるほどの存在感を見せたケビン・ベーコンがいい。この人、善人から悪役まで本当に幅広い。
 単に透明人間が人を襲う、という古臭いホラー物ではなく、「透明になった人間が何故人を襲うに至るのか」という心理サスペンスとして作られているので、ギョッとするだけではない、ピーンと張り詰めた緊張感が全編に漂っていて、飽きなかった。姿が見えなくなったら人間は何をするだろうか?という命題を掘り下げた作品としては、ドラえもんの「石ころぼうし」に匹敵する傑作だと思う(いや、結構マジで)。