無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

現日本のロック最大の欠落

ブッチーメリー The ピーズ1989-1997 SELECTION SIDE A

ブッチーメリー The ピーズ1989-1997 SELECTION SIDE A

ブッチーメリー The ピーズ1989-1997 SELECTION SIDE B
 改めてこのベスト盤を聞くと、なんで当時あれだけ黙殺されたのか不思議になってくる。これだけいい曲を書いていたのに、なんでと思う。今だったら、誰もほっておかないのにと思う。トリオ編成によるスッカスカの音、必要最小限の力で脳みそを揺さぶってくるメロディー、一度こびりついたらもう逃れられない言葉。

「正面からマトモに/自分をみれねーよ/ボロだもん」「見える物だけが/全てでいいだ/見えねえ物まで/考えるもんか」「ここが世界だ/オラの世界だ/夢の中で/夢を見るんだ/じゃますんなボケ」「負けるなら負けろ/敗北を目指せ」「僕らの死ぬまで/考えた/そして最悪の人生を消したい」

 引き裂かれたコミュニケーションと感情の狭間で、人生を後ろ向きに50mダッシュするようなロックンロール。永遠に青臭く、イカ臭い若気の至りロック。ピーズというのは日本に生まれた唯一のグランジだったのかもしれない、と今になって思う。エレカシの宮本という人には愛嬌とサービス精神があった。はるという人にはそれがなかった。とも言えるかもしれない。活動停止してから4年間だが、実際もっとたっているようにも感じる。果たしてはるは今でも戻ってくる気があるのだろうか。僕は、正直言って、どちらでもかまわないと思っている。いや、違う。戻ってきて欲しいけれども、戻ってこなくてもいい(しょうがない)と思っている。僕にとって彼らの音と言葉はあまりに生々しくて、今だに出来たてのかさぶたのようにヒリヒリしているのだ。この感覚は彼らのいない間もずっと変わっていない。少なくともそうである間は絶対に、過去のバンドにはならないのである。
 新宿のタワーレコードに、ピーズ復活を願う人たちが自由に書きこむノートがあった。それを見ていたらなんだか無性に泣きたくなってしまった。そのノートに、結局僕は何も書かなかった。でも、待っている。