無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

民生の裏表、そして真ん中。

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 Dr.Strangeloveを中心としたいつものメンバーだけではなく、海外レコーディングでのスティーブ・ジョーダン、アンディ・スターマーはじめかなり豪華なメンバーが参加しているけれども、アレンジや、サウンドの方向性など意外に統一感がある。『GOLDBLEND』の方がもっといろいろ遊んでいたと思う。全体として、昨年から今年にかけてのツアーで見られたようなストレートなロック志向に貫かれている。
 80年代をどっぷり音楽に漬かった人ならなんとなくわかると思うのだけど、あの時代をくぐった人には自分をストレートに表現することをためらう人が多い。それがダサいという価値観が時代を覆っていたからだ。90年代にアイデンティティを確立した今20歳前後の若い人たちと最も違うのはこの点だろう。しかし今は30代のミュージシャンもそうした呪縛から解き放たれているように見える。90年代は(今もそうか)斜めからしたり顔でモノを見るのがダサい時代だったから。「The STANDARD」や「CUSTOM」に見られるマジモード、シリアスな奥田民生というのもそういう、自分の中にある熱い核の部分を開陳した楽曲と思われがちだけど、果たしてそうなんだろうか。思えばユニコーン時代から奥田民生という人は時代の雰囲気に流されるということがほとんどなかったのじゃないか。民生から出てくるものはいつでも民生的としか呼べないものだった。松本人志が「HEY!HEY!HEY!」と「一人ごっつ」を両立したように、民生も楽曲の中で本気と冗談を絶妙に使い分ける。その技は年々鋭くなるばかりだ。
 もしこのアルバムに民生の本気、本質というものがあるのだとすれば、それは個々の楽曲ではなくて全体を通して一貫したサウンドの手触りであったり、曲順の構成だったりするのじゃないだろうか。そんな気がする。民生の場合「捨て曲がない」という表現はあり得ない。捨ててもいいような曲もたくさんある。だから素晴らしい。