無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

20代のベテラン。

Meltdown (Bonus CD)

Meltdown (Bonus CD)

 名作『フリー・オール・エンジェルズ』に続くASHの新作は、彼らのハードロック志向が全開の爽快なアルバムになった。ロサンゼルスでレコーディングされ、フー・ファイターズを手がけたニック・ラスクリネクス(恋の呪文はスキトキメキスみたいな名前だ)がプロデュースを担当している。おもいっきしアメリカン・ハードロックな音だ。真夏の太陽が似合う、健康な若い肉体美をイメージさせる。元々彼らはそうした志向を持ってはいた。そもそもデビューした時からいわゆるUKっぽい、USっぽいというような形容詞とは無縁だったバンドだ。だからこそブリットポップやヘヴィ/ラップ・ロック、内省ロック、様々なシーンと一切関係なく頑固なまでに独自のポップ/ロックを追求して来れたのだと思う。ここに来てここまでアメリカを意識しているのは、恐らくはセールス的にもアメリカを視野に入れ始めているのもあるのだろう。ツアーも積極的に行っているようだし。前作のラスト、文字通り「世界制覇」と冠された曲は誇大妄想でもなんでもなく、彼らの現実的な野望だったというわけだ。清々しい。
 1曲目からハードエッジなリフがガンガン飛び出してくる。が、そのハードなサウンドに乗るのはあくまでも一流のポップメロディー。パッと聞いて憶えて大合唱できる即効性のメロディーが満載。ティム・ウィーラーはやはり稀代のソングライターである。前述のタイトル曲のみならず、「オルフェウス」、「アウト・オブ・ザ・ブルー」などの疾走感+大サビの盛り上がり方は本当に素晴らしい。かと思えば「スタークロスト」、「ウォント・ビー・セイヴド」のような胸キュン系ナンバーもしっかり押えている。基本的にはほとんどがラブソングだけど、「クローンズ」のように現在のシーンに辛辣なメッセージを投げかける曲もある。それも今の自分達が充実している自信があるからこそだろう。
 ASHを語る際にはよく「成長」という言葉が使われる。デビューしたのが10代半ばだったわけだから当然という気もするが、その実もう既にキャリア10年のベテランバンドである。まだ20代とは言え、成長のスピードを落とすことなく10年間キャリアを積み上げてきたのだからすごいことだ。しかもまだ底が見えない。全編聞き所と言ってもいいこのアルバムにはこの夏かなりお世話になりそうだ。