無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

何回だってやり直すんだ。

DON QUIJOTE(ドン・キホーテ)

DON QUIJOTE(ドン・キホーテ)

 僕はいまいち「エモ」という言葉の指す音楽がどういうものなのかよくわからない。そもそもエモーショナルじゃないロックなんてあるのかよ?と思ってしまう。何かの本で見た記事ではACIDMANもエモなんだと。そうなの?でも、そんな僕でもこれは間違いなくエモなんじゃないの?と思える日本のバンドがイースタンユースだ。イースタンの曲はすべからく叙情的であるが、決して目の前にある現実を見落とさない。全ての曲に「生き様」が刻まれていると言ってもいい。プラスもマイナスも、ポジもネガも引き連れて自分が生きること、その意味、そしてその人生の風景そのものを描くのだ。そしてその筆致はアルバムごとに大きく変わる。水墨画だったり、油絵だったり、素描だったりする。決して器用ではないが、毎回その世界を広げるために様々な試みをしている。それはアレンジだけではなく言葉の選び方やメロディーにも現われる。今いる場所で満足することなく、修験者のように自らを追い込んでいくのである。日本語ではなく、アルファベットで冠された新作は、そうしたバンドの、ひいては吉野寿の姿を投影したものだと思う。ミュージシャンとして、理想の音楽を目指す姿かもしれないし、人間として人生を生きる姿かもしれない。「ドン・キホーテ」というタイトルからは、何かとてつもない、大きなものに(無駄なのに)立ち向かう孤独な男の姿を想像するのである。
 このアルバムの歌詞は自己陶酔やヒロイズムとは無縁の、どちらかと言えば惨めで哀れで情けないものだ。何かを失い、何かを諦め、未練がましく痛みを抱えたままそれでも何回だってやり直し生きていく、そんな傷だらけの決意が刻まれている。特に名曲揃いの前半は圧倒的。男として共感しなけりゃウソだというくらいの男度。いや、漢度。「矯正視力〇.六」で涙と鼻水にまみれた後、ラストの「窓辺」まででどん底から夜明けが来るような、ドラマチックな展開が待っている。夜中にこのアルバムを聞いていると、ぶらりと散歩したくなってくる。ポケットにはいくつかの悲しみ、そして顔には安手の仮面を被ったままで。