無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

変わるもの、変わらないもの。

SONORITE(初回限定盤)

SONORITE(初回限定盤)

 オリジナルとしては『COZY』以来7年ぶり。『COZY』では青山純伊藤広規・難波弘之といったおなじみのメンバーとレコーディングした曲が多かったのだが、今作では基本的に彼が一人で作った曲がほとんどだ。というのもこの7年の間にレコーディングテクノロジーが大きく変化し、彼が今まで愛用してきたアナログのレコーディング機材が使用できなくなってしまったのだそうだ。世の中はプロトゥールズをはじめとしたデジタルレコーディングが主流。今作で達郎氏もやむなく、初めてデジタルレコーディングに挑戦し、悪戦苦闘しながらサウンドメイキングを行ったのだそうだ。山下達郎という人は演奏者、シンガーソングライターとしてはもちろんだが、それと同じくらいアレンジャー/プロデューサーとしての部分が大きい。自分が納得行く音を作るために、エンジニアの仕事も行う。図らずもこのアルバムではそういう面が出ている気がする。レコーディングのやり方が大きく変わったという意味では1986年の『ポケット・ミュージック』に匹敵する大きな転機といえるかもしれない。
 デジタル・レコーディングになったことで大きく変わったのは彼のボーカルが前面に出る曲が増えたことだ。全体としてシンプルに、少ない音数でくっきりとした輪郭を持たせるアレンジが多い。僕の貧弱なステレオでも音の位相がかなり明確に配置されているのがわかる。ただ、逆にサウンドのダイナミズムがやや後退したようにも見える。曲自体が落ち着いた雰囲気のものが多いせいもあるのだと思うけど、その辺はさらに技術的にこなれるであろう次作に期待したい。個人的にお気に入りは「MIDAS TOUCH」と「LIGHTNING BOY」(5拍子がカッコいい)。Kinki Kidsに提供した「KISSからはじまるミステリー」のセルフカバーもいい。ケツメイシのRYOがラップで参加しているが、ぱっと聞き達郎氏に非常に声が似ているので、本人がラップに挑戦しているのか(笑)と思ったほど。
 大人のラブソングからポップなものまで、職人的なソングライティングは健在。53歳になった達郎氏は、人生であと何枚のアルバム、どれだけの曲を残せるのかということをイヤでも意識するようになったという。自分が納得行かないものは出さない、録ったものは全て出す、というくらいの考えでいるらしい。次のアルバムは7年も待つことがないのではないだろうか。彼のように一貫したこだわりを持ち、頑固なまでに自らの筋を通すアーティストがそのゴールを見据えて作品を作るとどんなものが生まれるのか。とことん見届けたいと思う。