無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ニッポンの男の中の男。

怒髪天 〜ニッポニア・ニッポニア・ニッポン・イン・ニッポン・ツアー 2005-2006
■2005/11/12@ペニーレーン24

 8月のライジングサンでも熱気溢れるステージで石狩を沸かせた怒髪天。新作『ニッポニア・ニッポン』を引っさげての地元凱旋だ。開演前、会場に流れていたSEはなぜか沢田研二。毎回おなじみの出囃子で登場し、シングルでもある「俺達は明日を撃つ!」でスタート。増子兄さんは真っ赤な北海道にこれまで彼らがリリースしてきた全ての曲名が書かれた白シャツ姿。地元であり、かつこのツアーの初日。当然気合も入っている。新作からの曲を中心に、盛りだくさんのセット。増子氏のMCも相変わらずの冴えで観客の爆笑を誘う。いつも以上に坂さんいじりが盛り上がっていた気がする。この日一番のネタはやはり「ラーメン山岡家」でしょうかね(笑)。
 増子氏は札幌のライヴのときには大体実家に泊まるそうだ。親をライヴに招待しようと思ったが大喧嘩をしてしまいこの日は来れなかったのだそうだ。そんな微笑ましい(?)エピソードの後、地元を飛び出して東京で燻るかつての自分の姿を歌った「望郷ドラ息子」が良かった。「放吟者」も、東京で居場所が無い田舎者の寂しさを歌った曲だが、こういう感情は僕自身東京で働いていたときに感じていたことなので非常に共感する。イースタンユースもそうだけど、やはり同郷ということもあってどこか自分に通じる部分を感じるのである。勝手な思い込みかもしれないけど。
 ライヴの中盤は、新作のシリアスなムードをそのまま映し出したように少し重い空気が漂った。盛り上がっていないのではなく、曲のテーマを観客がきちんと受け止め、じっくりと噛み締めるような時間帯だった。増子氏も汗とも涙とも判別つかない液体で顔をぐしゃぐしゃにしながら熱唱する。そのピークは「クソったれのテーマ」で訪れた。皆が拳を上げて大合唱になることもある曲だが、この日は増子氏の迫力の前に観客はほとんど微動だにせず聞き入っていた。演奏が終わってから一瞬の間を置いて割れんばかりの拍手。素晴らしい。自分で言うのもなんだが、本当にいい客だと思う。いい客がいて、いいバンドがいて、いいライヴにならないはずがない。札幌での怒髪天ライヴはつまりそういうものなのだ。
 そこからは、重苦しかった空気を振り払うかのように本編ラストの「コントライフ」まで一気に突っ走る。その笑顔の裏には涙が隠れているが、だからこそ怒髪天の歌には説得力がある。誰しもが人生のサーカスに翻弄される悲しきピエロなのだ。世間で大評判を呼んでいる?「アストロ球団応援歌」を含むアンコールは、「酒燃料爆進曲」そして毎回会場が揺れるほどの大合唱を生む「サスパズレ」でクライマックスを迎える。2度目のアンコール。札幌でのワンマンだからこそ演奏する曲というものがある、と増子氏は言う。前回のツアーでも文句なしの名演であった「サムライブルー」。「振えている訳をたずねないでくれ/やがて来る結末が怖い訳じゃないさ」。ステージに崩れ落ちるように、まさに絶唱というほどの熱演。彼らの音楽が「リズム&演歌」と称される所以だ。ラスト、「小さな約束」の前に増子氏は涙でぐしゃぐしゃになり、声を詰まらせながら観客に向って言う。「生きてくれよ。だから生きてくれよ。」俺らのこんな歌でも、そのための後押しになってくれればいい。ポーズでもなんでもなく、本気でそう思っているのだ。理解できない人からすれば「何でこの人は泣きながらこんな恥ずかしいことを喋っているのだろう」というものだ。でも、それが怒髪天というバンドであり、増子直純という人間のやり方なのだ。『ニッポニア・ニッポン』という新作タイトルには、こんな不器用なやつは天然記念物並だろう、という自虐的な意味が込められているのかもしれない。それならば札幌人として全力で保護しなくてはならないというものだ。
 終演後会場から出ると、ライヴを見に来ていたモリマンのホルスタインモリ夫がファンと立ち話してました。意外と小さかったので驚いた。

■SET LIST
1.俺達は明日を撃つ!
2.欠けたパーツの唄
3.北風に吠えろ!
4.放吟者
5.メイド・イン・ジャパン
6.ロクでナシ
7.望郷ドラ息子
8.夕焼け町3丁目
9.優しい雨
10.枯レ葉ノ音
11.クソったれのテーマ
12.宿六小唄
13.愛の嵐
14.人間バンザイ
15.実録!コントライフ
<アンコール1>
16.大人になっちまえば
17.アストロ球団応援歌
18.酒燃料爆進曲
19.サスパズレ
<アンコール2>
20.サムライブルー
21.小さな約束

ニッポニア・ニッポン

ニッポニア・ニッポン