無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ジャケットのデザインも完璧。

supernova / カルマ

supernova / カルマ

 『ユグドラシル [DVD]』というアルバムはバンプ・オブ・チキンの、あるいは藤原基央というソングライターの進化を刻み付けた作品だったが、彼らの歩みは全く滞ることなく続いている。「手に入れるもの、それと同時に失うもの(そうして続いて行く生)」というのは彼らの曲で歌われるテーマのひとつだ。『ユグドラシル』には「同じドアをくぐれたら」という名曲が収められていたし、夏に出たシングル「プラネタリウム」も言うなればそのテーマに沿ったものだった。だが、その描き方はここにきて新しい曲が世に出る度に一皮ずつ剥けていく印象だ。理屈っぽく、説明的に言葉を重ねていくことなく、シンプルなストーリーの中にピンポイントで在るべき言葉を紡いでいく。バンドの演奏は曲のテーマを正面から受け止め、それを広げるためだけに存在している。シングル「プラネタリウム」はカップリングの「銀河鉄道」と合わせて、2曲でアルバム1枚分くらいの密度を持っていたと思う。
 新曲「supernova」。ここに至ってはこの1曲だけでそれと同じくらいの世界の広がりを感じさせる。この曲の歌詞には明確なストーリーというものはないが、定型詩的なフレーズの繰り返しによって淡々と熱を帯びていく曲の展開が前述のテーマをこれ以上ないくらい感動的に浮かび上がらせる。この展開自体がひとつのストーリーと言えるくらいだ。藤原の書く曲はシンプルになってきたとは言えそれでもやはり言葉は多い。が、この曲のサビと言える部分には歌詞がなく「ラララ…」だ。この曲に関して言えば、これは伝えたいものが多すぎてもうこうするしかなかったのじゃないかと思う。大陸的な広がりを持つ雄大なメロディーでこのサビが歌われるとき、一種宗教的とも言える荘厳な輝きが目の前に広がるような気すらする。
 カップリング「カルマ」は彼らの得意な曲調だが、その語り口やアレンジには確実に進化が見える。こういう曲を聞くと、彼らが「ガラスのブルース」以来一貫して同じテーマを歌い続けてきたんだと言うことがわかる。