無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ブログ的、というか。

NIKKI(初回限定盤DVD付)

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 前作『アンテナ』はクリストファー・マグワイヤという超絶ロックドラマーがメンバーになったこともあり、くるり史上最も分かりやすい形でロック寄りのアルバムになっていたと思う。それに対し今作はタイトル通り、エッセイ集のようなオムニバス感のあるアルバムになっている。しみじみとしたバラード、彼ららしい複雑なコード感で疾走するロックンロール、前作の香りも残すサイケっぽいナンバーなど、いろいろな表情を楽しむことができる。どちらかというとくるりはアルバム毎に一貫したムードなりイメージを持たせるバンドだと思うが、そこから自由になることで非常にアルバム全体がカラフルで見通しの良いものになっている印象がある。かといって散漫になっているかと言うと決してそうではなく、逆にこういう作り方をしてもきちんと一貫したくるりらしさのようなものがアルバムをまとめているとすら思う。クリストファー脱退によりドラマー不在のまま様々なミュージシャンとのセッションを重ねていった結果、彼らは誰と一緒になっても変わらない自分達の核というものを改めて確認したのではないだろうか。
 海外(特にイギリス)でのレコーディングがかなり楽しかったのか、くるりにしてはかなりストレートにギターロックへの愛情が炸裂したアルバムになってると思う。"Bus To Finsbury"や"(It's only)R 'n R Workshop!"に見られるようにビートルズザ・フー、ジャム、果てはティーンエイジ・ファンクラブなど、彼らのブリティッシュなルーツが見え隠れする。個人的な印象としては、くるりのアルバムの中で一番「若い」感じのする作品だ。(言い換えると、頭でっかちで小賢しい部分があまりない。)日本のロックシーンの中では押しも押されぬ中堅であり、同時期にデビューしたバンドの中には解散するものも多い中、こういうアルバムを作れるのはエライと思う。妥協なきミュージシャンシップの賜物という気がする。
 あと、作詞家としての岸田繁はもっと評価されてもいいと思う。目新しいメッセージがあるわけでも特別美しい言葉を使ってるわけでもないけど、メロディーやサウンドと同じように楽曲の一要素として豊かなイメージを喚起する言葉を紡いでいると思う。