無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

まだ「Q.E.D」ではない。

and world(初回生産限定盤)

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 ACIDMANは前作『equal』までの3部作で徹底的に過去から未来へ連綿と続く生命の循環という大きなテーマを描き出してきた。哲学的ともいえるそのアプローチは時に重く厳しい緊張感をその音楽にも与えていたと思う。メロディーやバンドアンサンブルの質の高さから考えればもっと大きなブレイクを果たしてもいいはずのバンドなのに、その点であともう一歩抜けきれないのはこうした難解さの所為ではないかと思う。
 本作でも彼らの描き出そうとしているテーマは基本的には変わっていない。ただ、『equal』で大きな円環が一回りしたという印象もある中で次にどうしたやり方で音を鳴らすかという試行錯誤はいろいろあったのではないかと想像する。例えば、このアルバムでは前述のような緊張感だけではなく、時に弛緩し息をつく瞬間が多くある。ひんやりとした感触はそのままだが、内面に深く深く潜って行った過去の作品に比べると、もっと外側に、個人と世界の関係を今までよりはっきりと描き出そうというものになっていると思う。その視点は地上ではなく、もっと高いところにあるような気がする。やっぱりこういうバンドなのだ。基本的なところは変わらない。終曲など、どこまで壮大であれるかの記録に挑戦しているくらいのスケールだ。
 確か大木伸夫は薬学部出身じゃなかったかと思うのだけど、聞いていると本当に理系のバンドだな、と思う。楽曲はもちろんビジュアルのコンセプトにしても全て論理的に破綻がないようにきっちりと組み立てられているような気がする。それが魅力でもあり、同時に枷でもあると思う。音楽が人間の感情に及ぼす作用というのは決して科学では推し量ることの出来ないものだからだ。なんと高いハードルだろうか。その上で彼らはこういうアルバムを作り続けている。すごいバンドだと思う。