無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

そしてやはり異形。

太陽の中の生活(初回限定盤)(DVD付)

太陽の中の生活(初回限定盤)(DVD付)

 先行シングル3部作「カオスダイバー」「初めての呼吸で」「ブラックホールバースデイ」を含むバックホーンの新作。実は僕は前作『ヘッドフォンチルドレン』の感想(id:magro:20050709:p1)で、結構厳しいことを書いた。簡単に言うと「意図的に分かりやすい音にしてるみたいで、引っ掛かりがなくするっと流れて行ってしまう」というようなことだ。前作と同様、今作でも歌われているのは非常にポジティブな内容だ。かつてのバックホーンとは基本的に、届けるべき内容もその手法も抜本的に変化しているのだ。変化せざるを得なかったというべきか。かつては自らの感じる違和感や苛立ちを全力で発散させることで周囲を巻き込んでいくようなやり方だったのが、きちんと意味のあるメッセージをたくさんの人々に届けたい、そのためにはきちんと世の中に浸透していくような工夫を施さなければならない。語弊を恐れずに言えば、「ポップ・ソング」を作ろうと思っているのだろう。別の言い方をするなら、今の自分たちが届けるべき言葉をきちんと届けるにはポップでなければならないという意識があるのだと思う。ミュージシャンとしてはすごく正しい認識だし、よくそこまで意識を変えることができたものだと思う。
 で、今作の音がどうなっているかというと、ぶっちゃけ、前述の言葉とは相反するようだがムチャクチャである。そのシングル3部作がそもそも全く違う曲調の連続であったし、アルバムを通してもオムニバスアルバムのようにそのサウンドの感触はバラバラである。素直に耳に入るポップソングもあればザラザラしたパンクナンバーもあるし、アニメソングのように分かりやすいメロディーで疾走するロックナンバーもあるし、童謡のように穏やかなメロディーの曲もあればブルージーな演奏をバックに語りが入るような一風変わった曲もある。言い方は悪いが、分裂症的にぐるぐると姿が変わっていく、奇妙なアルバムである。
ポップを標榜しておきながらこんなアルバムを作ってしまう、そんな無軌道さがとても好きだ、僕は。聞いた後の感覚が異様かと言うと実はそうではなくて、「初めての呼吸で」のディストーションギターとサビのリフレインが叫ばれる中アルバムが終わると、すうっと空の中に溶けて行ってしまうような不思議な爽快感がある。するっと流れるどころではない。ゴツゴツとぶつかりながら、それでいて後味はすっきり。面白いアルバムだと思う。