無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ざっつ・えんたあていめんと。

東京事変 “DOMESTIC!” Just can't help it.
■2006/05/26@NHKホール
 ライヴで椎名林檎の姿を見るのは実は本当に本当に久しぶりで、前はいつかと言うと1999年のライジングサン・ロック・フェスティバルまで遡る。あのときは急遽バンド形式ではなく、彼女のピアノ弾き語りとバイオリンの斉藤ネコ氏だけという変則なステージだった。懐かしい。そしてそこから何光年離れたのだ、というような東京事変のコンサートである。
 1曲目は「雪国」ステージの前に垂らされた半透明のスクリーンに雪の映像が映し出され、その後ろで椎名林檎が白無垢姿で歌い踊る。僕は二階席の真ん中あたりで、表情などは全く分からなかったのだが、そこかしこから「きれいー」とため息交じりの歓声が漏れてくる。「これから何が始まるんだ?」と身を乗り出さずにはいられない緊張感漂うオープニングである。後ろに黒子がいるな、と思ってたら、幕が上がると同時に白無垢から青いドレスに早変わり。紅白歌合戦みたいだ!ステージセットは基本的にバンドの背後に三面スクリーンを置いただけの非常にシンプルなもの。映像も使うが決して懲りすぎず、あくまでも観客の視線はバンドに向けられるような構成だった。
 椎名林檎のステージングは素晴らしいの一言。レコードだと、フレーズ間での息継ぎの音の大きさがやや気になる感が僕にはあるのだけど、ライブだとほとんど気にならない。むしろ音源より声が出てるようにすら思える。ダンスも決まってるし、時に官能的に、時にコケティッシュに、曲により、フレーズによりその印象を変えてゆく。曲が終わった時のお辞儀の仕方がなんとも優雅で、思わず拍手の音も大きくなろうというものだ。アルバムに限らず、ライヴにおいても東京事変は音もビジュアルもすべて含めて完璧なパッケージとして客に提示してくれる。何を、どういう形で、どういうイメージで届けるかということについて非常に自覚的で、計画的だと思う。ともすれば息苦しさを伴いそうなやり方だが、今回のステージを見ていてもそんな感じは全く無い。むしろ、その「やりきった感」が非常に心地よい。メンバーそれぞれがそのパッケージングに対してどう貢献するか、目的がはっきりしているので出てくるものにブレが無いのだと思う。椎名林檎with東京事変ではなく、あくまでも東京事変の一要素としての椎名林檎。その役目を全力で全うするその姿に感動せずにはいられない。非常に丁寧なMCも○。「サービス」では全員がメガホン持ってのラインダンス。どっかコワモテっぽいメンバーがかわいらしく踊るさまは妙に可笑しい。
 そして「どうしてもやりたいのでやらせてください」といって始まったバービーボーイズのカバー「C'm'on Let's go!」!これはマジ感激。コンタのパートはギターの浮雲氏が歌っていたのだが、もう言うことなしの完コピ。80年代に青春だった人はたまらんでしょう。カッコよかった!
 椎名林檎ソロ曲も交えてのセットだったが、改めて見るといろんな曲調がある。ロック、ポップス、ジャズ、ビッグバンド風の曲もあれば歌謡曲もある。ばらばらな音楽性をいかにもそれらしく演奏するバンドと、歌いこなすボーカリスト東京事変というバンドの魅力を改めて認識することができた、素晴らしいライヴだった。僕はデビュー以来、今の椎名林檎が一番好きだ。ステージ上の彼女には迷いも曇りも無かった。

■SET LIST
1.雪国
2.現実を嗤う
3.少女ロボット
4.歌舞伎
5.秘密
6.その淑女(をんな)ふしだらにつき
7.現実に於て
8.顔
9.入水願い
10.ミラーボール
11.手紙
12.サービス
13.C'm'on Let's go!
14.ブラックアウト
15.本能
16.スーパースター
17.Dynamite
18.修羅場
19.御祭騒ぎ
20.喧嘩上等
<アンコール>
21.透明人間
22.丸の内サディスティック
23.落日