無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

永遠の挑戦者

Pearl Jam

Pearl Jam

 前作『RIOT ACT』は、あからさまなブッシュ批判をするなど、9.11以降のアメリカという国に対する彼らのスタンスを明確に示したアルバムだった。それが、彼らのカタログの中で最も愛に満ちたアルバムだったことが感動でもあった。そして、その後の大統領選挙にて、パール・ジャムブルース・スプリングスティーンらと共に「vote for change」ツアーを慣行。ブッシュを大統領の座から引きずりおろすための一大キャンペーンを打った。今の時代においてロックがここまで分りやすく政治的なアティテュードを打ち出すことは非常にリスキーな事だ(特に、パール・ジャムスプリングスティーンのような大きなセールス規模を持つアーティストにとっては)。しかも、彼らはその戦いに負けてしまった。異国の地にいる僕には知る由もないが、どれほどの絶望とショックだっかたと想像するとぞっとする。
 スプリングスティーンの『デヴィルズ&ダスト』がそうだったように、この経験がパール・ジャムにとっても次のアルバムに強く影響を及ぼす事は想像できた。そして生まれたこのアルバムは、若々しくはつらつとしたギターリフで幕を開ける力強いアルバムとなった。どん底の暗闇から、このアルバムに漲るエネルギーを手に入れるためにどれほどの苦悩と葛藤があったことかと思う。ただ、ひとつ確かな事は彼らは決して戦いを止めなかったという事だ。前回の大統領選で、彼らはアメリカという国にも、再びブッシュを選んだ国民にも、大きく絶望したはずだ。それでも、もう一度拳を上げることを選択したのである。その決意として、このアルバムはセルフタイトルを冠したものでなくてはならなかった。のだと思う。
 あれから5年経った。が、ビンラディンは今もどこかで生存し、戦争はいまだに若者の命を奪い続けている。そして最近になり、同時多発テロの際の粉塵が当時救助活動をしていた警官や消防隊員の体に異変を起こしているのだという。何も終っていない。そんなニュースを見つつ、このアルバムを聞くと、じわじわと息苦しくなるような、生臭い感覚にとらわれる。
 何度負けても傷ついても、ボロボロになっても瓦礫の中から立ち上がる「ロック」。パール・ジャムはまさにそれを体現するバンドだ。