無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

つつみこむように。

■THE CORNELIUS GROUP “SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW”
■2007/02/23@札幌ペニーレーン24
 きっちり5年ぶりの新作となった『Sensuous』を引っさげての国内ツアー初日。既にイベントや海外でのライヴを行っているので、新作の音をステージで披露すること自体は初めてではない。が、きっちりとパッケージされたライヴを実際に目のあたりにすると、YouTubeやニュース映像で見たライブなどとは全く別物だと言うことが分かる。音と映像の万華鏡のような世界がそこで繰り広げられていたのだ。
 開演前、ステージには薄いカーテンが置かれ、ステージ上はフロアからは見えないようになっている。シルエット状態でメンバーが登場し、スクリーンに投影される映像と共に音楽もその姿を表す。メンバーは小山田圭吾堀江博久あらきゆうこ、清水弘貴の4人。メンバーの前には新作でも印象的なサウンドとして全編のテーマとなっていた楽器(しゃりしゃり〜んて鳴るやつ。名前知らない。)が置かれ、曲の合間などに全員が思い思いに音を鳴らしている。前作のツアーの時にも思ったのだが、CDであれほどクリアで緻密な音像を実現しているものが、実際にライヴで演奏されると印象がかなり変わる。あらきゆうこのドラムを中心に、リズムは非常にタイトなのだが、どこか人間ぽいズレが感じられる。ヨレるとか下手と言うことではもちろんなく、それがライヴ感、グルーヴ感として表出しているように思った。「Wataridori」のような曲ではそれが顕著に感じられる。
 ステージ上にはカメラが設置され、ステージから撮影した映像がスクリーンに投影されるなど、フロアとステージ上の垣根のようなものも少なく、非常にアットホームな雰囲気すらあった。「平成19年」「2月」「23日」「金曜日」「札幌」など、小山田氏が自分の台詞をその場でサンプリングしてループを作成するなど演出もまたフロアとステージを密接なものとさせていたように思う。「Brand New Season」で、いつものように客席から一人ステージに上げ、テルミンを演奏させるのだが、この日選ばれた人は実は2回目だったのだそうだ。小山田氏は「じゃあ、次回もよろしく」と言った。こういうジョークがすらっとステージ上で出てくるところが今のコーネリアスなのだなとなんとなく思った。
 前作の曲は、基本的に前回のツアー時と同じ映像が使用されていたと思う。その点では新鮮さと言うものはあまり感じなかったが、新作の曲にあてられた映像が素晴らしくカッコよかった。特に「Beep It」などは、映像そのものが演奏とシンクロしブレイクするのだけど、実際にこれを決めるのはかなりの練習やリハーサルが必要だろうと思う。そういうことをクールにさらっと決めてしまっている。ツアータイトルにある"SYNCHRONIZED SHOW"というのはこれだけを意味するものではないだろうが、音と映像の一体感、そしてステージとフロアの一体感、その場を包む全てのものをシンクロする体験、とでも言おうか。単に見るもの聞くものを受け取って感じるというだけではなく、体全体を不思議な力で包み込まれるような感覚だった。
 メンバー全員がマルチプレーヤーなので、4人バンドとは言え型にはまった演奏スタイルで全編通すことはない。各自が楽器を持ち替え、様々な音が現れてくる。特別珍しい楽器を使っていると言うわけでもない。打ち込みで、不思議なサウンドを作り出しているのでもない。身の回りにある、自分が触って、叩いて、音の出る楽器(あるいは楽器じゃないもの)を用いて、聞いたことのないような音のタペストリーを紡いでいくのだ。おもちゃ箱をひっくり返す、と言うと平凡な言い方だが、聞いている方も彼らが音や楽器と戯れているような感覚に自然と顔がほころび、引き込まれていく。
 ラストは新作でも最後に配置された子守唄「Sleep Warm」で締めくくられた。スクリーンには感謝の言葉と「おやすみ」の文字。豊かな音楽に身を包まれて、充足した気持ちで帰途についた。心の中がふっくらと温かい気持ちになったのは暖冬のせいではない。今のコーネリアスが生み出すサウンドの手触りがそういうものなのだということなのだろう。

■SET LIST
1.Breezin'
2.Wataridori
3.Gum
4.Smoke
5.Tone Twilight Zone
6.Drop
7.Point of View Point
8.Count Five or Six
9.I Hate Hate
10.Brand New Season
11.Beep It
12.Star Fruits Surf Rider
13.Fit Song
14.Like a Roling Stone
15.Music
16.Sensuous

17.-
18.Sleep Warm