無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

老舗のプライド。

We Are the Night

We Are the Night

 前作『プッシュ・ザ・ボタン』もボーカルトラックの多さが目立ったが、今回もクラクソンズをはじめ、様々なアーティストが参加している。ダンス・ミュージックがフロアで人々を躍らせる夜。我々こそがその夜の帝王なのだ、と言わんばかりのこのタイトル。かつてダンス・ミュージックがロックシーンを席巻していた時代があるが、そこからシーンもひと回りして、いまでは踊れるロックをやるバンドも珍しくない。そんな中で、自分たちがオリジネイターであるという強烈なプライドが、前作にもあったが、今作においても見えている。「辿るべき道などない」という曲名からもそれはうかがえる。しかし、そんなプライドや、彼らの葛藤などは、本来ダンスミュージックで踊る時にはまったく必要のないものだ。むしろダンスミュージックの機能性を考えれば余計なものとさえ言える。しかし、彼らはそれを捨てられないのだ。その、捨てられなさが、彼らをダンスの範疇ではなく、ロックファンに受け入れられている理由なのかな、とも思うのだ。人間臭さというか、憎めなさを感じてしまうのだ。
 同時期に聞いたデジタリズムなんかだと、そういう感覚はなかった。もっと無邪気なのだ。そういう意味では彼らはやはりケミカル・ブラザーズではなくダフト・パンク直系なのかなという気がするのだ。どちらがいい悪いではなく、どちらに感情移入できるかといえば、個人的には断然ケミカルなのである。だって、カッコ悪いじゃないか。若い才能ある人たちがどんどん下から出てくる中で、何とかしがみつこうとするその様が。このアルバムの音は全然そんなことはなくカッコいいものなのだが、そのカッコ悪さがあるからこそ、ロックフェスのトリをつとめられるのだろう、という気がするのだ。