無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

Everything,Everything.

Oblivion With Bells

Oblivion With Bells

 アンダーワールドの新作。前作『ハンドレッド・デイズ・オフ』からは実に5年ぶりとなる。しかしその間、様々なフェスへの出演や、ネットでの新曲配信、サウンドトラック製作など多角的な活動をしていたのでシーンから姿を消していたという印象は無い。CDという形でのリリースが無かったというだけの話だ。音楽のみならず、ライヴやアートワークも含めてのトータルなアートを標榜する彼らだが、こうして「CD」というメディアで一つの作品をまとめあげるという行為にもまだ特別な意味を持っているのだろう。(でなければ、曲を発表すると言う意味では今の時代ネットで十分なのだから)
 ダンスミュージックとして、フロアでの新たなアンセムとなりえるような曲は、「クロコダイル」をはじめ数曲程度である。その他は、基本的には抑制されたビートとアンビエントとも言えるストイックなサウンドスケープが全編を支配している。カール・ハイドのボーカルが印象的なメロディを紡ぐが、決して盛り上がるタイプの音楽ではない。どちらかと言えば、家の中でヘッドフォンで聴きたいタイプのものだ。非常に穏やかで心地良い音空間が構築されている。こういうトーンで今作を統一したのはもちろん意図的なものだろう。ニュー・レイブのようなロックの潮流に左右されるでもなく、大御所としての静かなプライドと確固たる自信を伺わせるアルバムになっていると思う。そして、こういうサウンドが彼らの今後を指し示すものかと言うと、決してそうではないとも思う。フロアを爆発させるような曲も作るだろうし、もっと前衛的な音楽もあるかもしれない。その時々あるいはメディアによって自分たちのどういう側面をパッケージするかを冷静に取捨選択しているのじゃないかと思う。
 アンテナを高くして、様々な視点から捉えないと、現在のアンダーワールドの活動は見えてこない。正直面倒くさい(ホメ言葉のつもり)。