無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

世界の中心でNOを叫ぶ。

Termination(期間限定盤)

Termination(期間限定盤)

 『The World e.p.』とメジャーデビューシングル「Discommunication」(と、それに収録されていた35分のライブ音源)でバンドとしてのポテンシャルを十二分に感じさせていた9mmのメジャーデビューアルバム。満を持してという感じだが、その期待に違わない力作/傑作であると思う。
 サウンドはいい意味でこの10年間の洋邦ロックのいいとこ取りという感じで、そのルーツは非常に雑多。パンク、(スラッシュ)メタル、メロコア、ファンクなどいろいろな要素が見え隠れするが、それをとっちらからずにバンドの音として統一されたトーンを醸し出しているのは非常にセンスを感じる。曲によってはかなり極端なアレンジをしていたりもするが、それも全然アリだ。サウンドの核は間違いなくギターの滝善充。この類のバンドにしてはメロディーも非常に練られていると思うのだが、どの曲でもヴォーカルメロディーと同等かそれ以上に印象的なリフやフレーズを次々に繰り出してくる。先日のライブ感想でも書いたが、数年後、9mmに影響受けたであろうバンドが必ず出てくると思う。この滝という男、新世代のギターヒーロー(こんな言葉自体既に死語だと思うが)になれる可能性があると思う。『The World e.p.』に再録された曲とオリジナルのインディー版を聞き比べると、当時から基本的なサウンドフォーマットは変わっていないことがわかる。今は全体のサウンドの感触とアンサンブルのバランスを聞きやすく整理されたように聞こえる。それがいしわたり淳治氏のプロデュースによるものなのだとしたら、地味だけどいい仕事してると思う。
 今この時代を取り巻くムードとそれを看過する大衆やメディア、腐った政治。全てひっくるめた「世界」に対する違和感が歌詞の起点になっていると思う。なので歌詞のムードは総じて重い。それは真実と本質を捉えてしまっているからだ。幻想がないのだ。しかし世界の欺瞞や嘘をストレートな言葉で暴いていきつつも明快な答えを出しているわけではない。わからないことは正直にわからないと言ってしまっている。そこがいい。そこで変にわかったふりをしたりいい加減な答えを出しても、結局今度は自分たちが暴かれる立場になってしまうということを彼らは(というか、全ての作詞を担当する菅原は)知っているのだと思う。そしてもっと素晴らしいのは自分自身もその世界の一部であるということを認識していることだ。これによって説得力は大きく違う。うす汚れた世界の中で何とかしがみついて正気を保とうとすること。他人とのコミュニケーションを繋ぎとめようとすること。その足掻きをノイズとして発すること。それがこの時代を映し出す鏡としてのロックとなりえることを恐らくは感覚的に彼らは理解している。それがこの独自のグルーヴを持つギターサウンドに乗った時にとてつもない破壊力が生まれるわけだ。ここまで力づくで耳と頭を引っ張られたのは久しぶり。