無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

暮らしを見つめるヒップホップ。

FUNFAIR

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 リップ・スライムの新作は、FUMIYA以外の4人がトラックメイキングに積極的に参加している。また、そういう曲では4MC全員ではなく、2人ペアないし3人でMCを担当している。4MC1DJが揃った曲はアルバムの半数程度。メジャー2作目『TOKYO CLASSIC』でも似たような試みを行っていたが、あの時のソロ作品集のような趣とは違い、今作ではあくまでも「リップ・スライム」の楽曲として個々のメンバーが分担の上製作している。MONGOL800とのコラボも有るし、楽曲的には非常にバラエティに富んでいながら全体のトーンは統一されているという、完成度の高いアルバムになっている。雰囲気としてはむしろ『FIVE』を初めて聞いたときのようなカラフルな印象。
 こうした製作方法を選んだのは「いろいろやってみたい」という本人たちの弁も事実なのだろうが、トラックメイカーとしてのFUMIYAの精神的/物理的負担を減らしたいという思いも少なからずあったと思う。それでいてアルバムとして散漫にならないのは、各メンバーが同じ方向を向いているということだろう。グループとしては非常にいい状態にあるんじゃないだろうか。やんちゃな部分は残しつつ、きちんと大人になったんだなあ、とちょっと感慨深く思ったりもする。
 リップについては、日本のヒップホップとして・・・というような文脈の中で語られることが割と少ないのじゃないかと思う。それは例えば宇多田ヒカルがR&Bの中で語られないように、その中に彼らの音楽の本質がないからだ。リップの曲に滲み出る風景は、ヒップホップ系のストリートではなく、僕たちが普段通勤通学で使う道だったり、買い物帰りの風景だったり、お茶の間でテレビ見ているところだったりする。直接的にそう描かれているというわけではなく、曲の似合う風景ということだ。いい意味で歌謡曲として、生活の中に密着できるだけの強さを持っていると思う。しかし「Tales」は本当にいい曲だ。PESの能力も本作では輝いているね。