無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

今が真ん中。

エレファントカシマシ コンサートツアー2008“STARTING OVER”
■2008/04/29@札幌ペニーレーン24
 リハが長引いた?のかどうかわからないけれど、開場が20〜30分くらい遅れ、開演もそれに伴って遅れた。元々休日で早目の時間設定だったので遅れたこと自体に問題はないのだけど、待ってる間係員から何の説明もなかったのには閉口した。WESSはこういうところでちゃんとしてくれないんだよね。これじゃあ今年10回記念のライジングサンでも昨年の惨事が繰り返されるんじゃないかとハラハラしてしまうよ。ちゃんとしましょう。
 さて。新作への好リアクションの影響か、SOLD OUTとなったペニーレーン。さすがにぎゅうぎゅう。新作のポジティブモード全開で来るのかと思いきや、1曲目が「DEAD OR ALIVE」。ちょっと意外だったが、現在のエレカシに続くロックンロール回帰のスタートとなったミニアルバムのタイトル曲だし、宮本先生本人も好きなアルバムと公言していることからもわからなくはない。続いて、新作から「今はここが真ん中さ!」。サポートはお馴染みの蔦谷好位置氏と、ギターで元東京事変ヒラマミキオ氏が参加していた。ちなみに2人とも札幌出身31歳。前半にいきなり「悲しみの果て」「今宵の月のように」という代表曲を持ってきたが、新作の曲の間に入っても違和感を感じなかった。基本的に、今のエレカシの前向きなモードとシンクロする内容であるのだ。ただ、10年前の宮本は「悲しみの果ては素晴らしい日々を送って行こうぜ」という言葉に対して今ほど自覚的ではなかっただろうと思う。胸を張って「さあ、がんばろうぜ」と聞き手に歌いかけることができる今のエレカシだからこそ、これらの曲の本質がまた新たに剥き出しになったような気がする。
 宮本は、今までに見たことがないくらい曲の前にいちいち曲の解説をしていた。「今宵の月〜」も、「ドラマに使われて自分の曲がテレビから流れてくるのはすごく嬉しかったんだけど、一時期はこの曲もうやりたくねぇと思ったこともあって・・・」など、かなり正直に語っていたと思う。しかし、どの曲も基本的には「明日輝くために今を生きよう」というものであり、くどいくらいに宮本も同じ話をしていた。結局、言いたいことはこれだけなのだ、と言わんばかりに。最近のエレカシは演奏も非常に安定しているが、ヒラマミキオがサポートギターに入ったことでフレーズの再現性もかなり精度の高いものになっていた。石君も細かい部分はヒラマ氏に任せてリフ主体で行く場面も多く、宮本もギターを弾いて3人体制になったときにはかなり分厚い音が鳴っていた。「starting over」のイントロでは宮本と石君の白熱ギターソロバトルなどもあり、サウンド面でも今までのエレカシでは体験したことの無い新たな面が開拓されてきているような気もする。宮本のボーカルも非常に良かった。高音もかすれる場面はほとんどなく、全編伸びのあるボーカルで歌い切っていた。「翳りゆく部屋」は、本当にエレカシの曲かと思うくらいにずっぱまりである。宮本自身この曲を心から素晴らしいと思っているのだろうことが聞いていてもよくわかる。「四月の風」も懐かしかったし、改めていい曲だと思う。四月にこの曲が聞けるというのもいいものだ。「この曲を書いたときにはレコード契約がなくなって・・・」と、辛かった時期の話をしていたが、そんな時期もメンバー交代など全くなく、共に乗り越えてきたバンドの姿は誇張ではなく本当に神々しいとすら思えた。長い年月を経たからこその信頼と阿吽の呼吸。古い曲をやっても新しい曲をやっても、今のエレカシからはその年月が染み出してくる。熟成された老舗秘伝のタレのような味わい深さがある。
 「ガストロンジャー」では、「化けの皮を剥がしにでかけようぜ」の箇所を「輝くために前を向いて生きていこうぜ」と歌っていたのも印象的だった。会場には比較的若いファンも多かったが、長い年月を乗り越えてきた末の「さあ、がんばろうぜ」というフレーズは、これから苦難にぶつかることもあるだろう若い人たちにも(多分)届いていたんじゃないかと思う。アンコールは「花男」のみ。会場によっては「ファイティングマン」だったようだが、いずれにしても1枚目からのセレクトだ。新作の感想で僕は、「黒いバラ取り払い白い風が流れ込んでくるようだ」と書いたが、本当に、デビュー20年にして漸くエレカシの軌跡が(いびつながらも)ひとつの円環を成したのではないだろうか、という気にすらなった。例年よりも1週間ほど早い、桜の花舞い上がる帰り道を歩きながら、そんなことを考えた。

■SET LIST
1.DEAD OR ALIVE
2.今はここが真ん中さ!
3.悲しみの果て
4.さよならパーティー
5.今宵の月のように
6.笑顔の未来へ
7.リッスントゥザミュージック
8.こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい
9.starting over
10.翳りゆく部屋
11.四月の風
12.風
13.FLYER
14.ガストロンジャー
15.桜の花、舞い上がる道を
16.俺たちの明日
<アンコール>
17.花男