無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

強靭なる音楽の要塞。

RADIOHEAD JAPAN TOUR 2008
■2008/10/02@大阪市中央体育館
 1995年@札幌(確かロッキングオンの抽選に当たったと思う)、2001年@横浜アリーナ×2、2003年@サマーソニック(伝説の「CREEP」やった日)、2004年@幕張メッセ。レディオヘッドの来日公演をこれだけ今まで見に行っているのだけど、失望したためしがない。『キッドA』『アムニージアック』後の2001年来日時も、その圧倒的な演奏力とサウンドに驚嘆したものだ。それ以降僕の中ではレディオヘッドは世界最高峰のライヴバンドという評価が固まっている。その確信は今回の大阪公演でも変わることは無く、より一層強いものになった。
 18:30きっかりに登場した前座のモードセレクターは2人組のDJ?というよりはエレクトロなビートを基本としたライヴ・ユニットか。ポップなメロディは無いけれどもミニマルなビートの重なりでどんどん曲が進んでいく。オウテカにちょっと近いけども、あそこまで冷え切ったサウンドではない。ステージ上で様々なビートを編集していく感じ。低音が気持ちよく腹に響く。最後はビョークの「The Dull Flame Of Desire」を大胆にサンプリングしてかなり盛り上がった。
 19:30、客電が消えてバンドが登場。1曲目は「Reckoner」。ちょっと意外。エドとジョニーは手にパーカッションを持ちシャカシャカと振っている。ギターはトムのみ。静かではあるが、じわじわと興奮が湧き上がってくるオープニング。「Optimistic」「There,There」と続く。演奏は言うに及ばず、トムの声も非常に伸びている。調子は良さそうだ。「15Steps」ではトムはくねくねと怪しい踊り。こちらも調子は良さそうだ。「All I Need」でジョニーは鉄琴(ビブラフォン?)を演奏するのだけど、これが本当にいい音なんだ。しかしそれ以上にトムのピアノがいい。別に技巧的とか言うわけでは全然ないのだけど、歌心があるというか。染みる。最後の一音がすっと消えるまで体が硬直したまま動けない。そんな張り詰めた緊張感があった。「You And Whose Army?」ではピアノに設置されたカメラにトムがどアップで寄る。前回もこの曲の時に結構トムは茶目っ気を見せたのだけど、なぜだろう。そんなに陽気な曲でもないと思うのだけど。「Weird Fishes/Arpegggi」はトムとジョニーのギターデュオが鮮烈。「The Gloaming」に続いて「Videotape」。あの、ラストのフレーズはやはりちょっとずしっと来た。「Morning Bell」は『キッドA』仕様。ラスト、ジョニーのチョーキングの中にトムのエレピが吸い込まれていくようだった。「No Surprises」はもう、イントロだけで泣きそう。トムがこの曲やる前に"particular tune"と言っていたような気がする。同じように思っている人はきっと多いはずだ。一転、「Jigsaw Falling Into Place」は激しいロックアンサンブル。『イン・レインボウズ』というアルバムはその前の『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』以上にバンドとしてのアンサンブルが前面に出た(表面上は)シンプルなアルバムだったけれども、聞いていて思ったのは例えば湾岸戦争や9.11テロをテレビ越しに見るようなヴァーチャルな感覚、もっと平坦な言い方をすれば絵画や彫刻を鑑賞しているような感覚だった。それが、目の前で生のライヴを見るとその絵や彫刻が動き出すような感覚にとわられるわけだ。一気に目の前に音楽が立ち上り、脳が覚醒するような興奮である。わざわざ大阪まで見に行って良かった。「Ideoteque」「The National Anthem」でひときわ会場が盛り上がった後、その興奮を昇天させるかのように「Nude」。これは、本当に素晴らしかった。名演と言っていいと思う。それがこの日だけじゃなくて、きっとデフォルトでそういうものになっているんだと思う。すごいバンドだと思う。「Bodysnatchers」で本編は終了。
 アンコール1回目。すぐに戻ってきたバンドが演奏したのは「Airbag」。この曲も、ライヴで聞くとレコードと印象が変わる。アレンジが大きく変わっているわけではないのに、である。そして続いては「Knives Out」。これ、今生で聞けると思ってなかった。そしてこの日最も大きな歓声が起こったであろう「Just」。やっぱり何だかんだ言ってみんな『ザ・ベンズ』の曲が大好きなのだ。近くにいた外人も狂ったような奇声をあげていた。気持ちはわかる。もうひとつ『ザ・ベンズ』からの曲「Planet Telex」もうれしいサプライズだった。曲が終わっても虹色の光がステージと会場を照らしていた。2度目のアンコール。トムがひとりで登場。ピアノで弾き語りを始めた。「Fog」という、シングルカップリングの地味な曲だが、こういう曲が今でもセットに入っているところが素敵だ。「Karma Police」で再び会場が一体になった後、ラストは「Everything In Its Right Place」。エドに煽られ手拍子でさらに一体となるオーディエンス。途中から、おそらく最後はこの曲だろうなと思っていた通りのきれいなラスト。
 今回の来日でもそうだったが、レディオヘッドは毎日と言っていいほどセットリストが大きく変わる。数種類のセットリストを基本に、その日その日で変えていると思うのだけど、この来日公演でもやった曲全て数えたら延べ40曲くらいになるのではないだろうか。それだけの曲を完璧に演奏できる状態にしているだけでもすごいことだと思うし(だってレディオヘッドの曲だよ?)、その曲群からセットリストを決めるだけでも大変な作業だろう。レディオヘッドのライヴというのはセットを決めた時点で7〜8割は良し悪しが決定してしまうのではないだろうか。そのくらいに思えてしまう。前述のように、世界最高峰のライヴバンドであるレディオヘッドの真価を再び体験できただけで何も言うことはなかった。様々な音楽的実験/冒険を経て『イン・レインボウズ』というアルバムにたどり着いたバンドは、さらに音楽的体力を上げてこれだけのライヴをいとも簡単に行っているように見えた。本当に、素晴らしいバンドだと思う。

■SET LIST
1.Reckner
2.Optimistic
3.There There
4.15 Steps
5.All I Need
6.You and Whose Army?
7.Weird Fishes/Arpeggi
8.The Gloaming
9.Videotape
10.Morning Bell
11.Faust Arp
12.No Surprises
13.Jigsaw Falling Into Place
14.Ideoteque
15.The National Anthem
16.Nude
17.Bodysnatchers

18.Airbag
19.Knives Out
20.Just
21.Where I End And You Begin
22.Planet Telex

23.Cymbal Rush/Fog
24.Karma Police
25.Everything In Its Right Place