無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

アップグレード。

VAMPIRE

VAMPIRE

 約1年ぶりの9mmメジャー2作目。スラッシュメタル・パンク・ハードロック・へヴィメタなどなど、いろんなジャンルの音楽をごった煮で詰め込んだようなバンドだけれども、本作ではさらにその幅が広がっている。「The Revenge of Surf Queen」はヴェンチャーズばりのサーフ・インストだし、終曲「Living Dying Message」は、イントロのギターソロから歌メロまで僕には70〜80年代の歌謡曲にしか聞こえない。「悪いクスリ」も面白い(ちょっとダサめな)ダンスナンバーだけど、サビのメロディーはムード歌謡っぽい匂いがする。何なんだこのバンドは。その他にもベースの中村が初めて作曲にクレジットされたり、ドラムのかみじょうが作詞に関わったりと、メンバー各自の楽曲への貢献度も高まっているようだ。ライヴではどうせどっしゃめしゃになるんだろうけれども、本作のアレンジでは滝と菅原のツインギターが3度でハモったりいろいろな絡み合いをしているのが面白い。あくまでもリードギターは滝だが、それを支える菅原の技量もかなりのものだ。バンドの中で2本のギターがいる理由についてきちんとアレンジとして答えを出している。
 個人的には、9mmにしては複雑なメロディー展開を見せる「ファウスト」や、シンプルながらも味のあるミドルナンバー「次の駅まで」などにソングライターとしての滝の成長感じる。基本、1曲1アイディアで行ってしまえ的なスタイルのバンドだと思うのだけど、そのアイディアを繋ぎ合わせたりちょっと変化をもたせることでいろいろな形に広げていけることを示したのがこのアルバムだという気がする。結果、アルバムのジャケットのようになんだかよくわからないものになっているのだけど、それでいてどこからどう切っても9mmの音になっている。最初に聞いたときは前作よりも少し軽く聞こえた感じがしたのだけど、何度も繰り返し聞くうちにメロディーの面白さやギターのフレーズの細かい動きまで、いろんな部分で楽しい発見があって飽きない。前作同様、12曲40分弱で一気に聞き通せるのもいい。いろんな点で確実に進化の跡が見える好盤だと思う。
 歌詞については相変わらず世界の欺瞞と真実を暴こうとするようなシリアスなものが多い。それでもきちんと聞き手に対してコミュニケーションを取ろうとしているし、暗い現実を何とかしたいという意思も見える。期待はしていないが、諦めてもいない。そんな21世紀のムードを実によく現したバンドなんじゃないかという気がする。そして時代をよく映し出すというのはいいロックバンドであるということなのだ。