無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

虐げられたものたちの歌。

カンテ・ディアスポラ

カンテ・ディアスポラ

 ソウル・フラワー・ユニオンSFU)約3年ぶりの新作。彼らにしては珍しく、その間シングルを多くリリースしていた。それはつまり、その時々でタイムリーに発信しなければならない歌が彼らの中にあったということなわけで、本作もそうした意欲がはっきりと形になり焦点の定まった好盤となっている。
 SFUはポリティカルなメッセージ性が強いバンドではあるが、自分たちの政治性を伝えるための手段として音楽をやっているのではない。さまざまな国際問題、政治問題を知っていく過程でその土地の音楽やミュージシャンと出会い、それを血肉としていくことで独自の音楽を形成してきたのだと思う。あくまでも音楽が主役なのだ。時にはその政治性が表に出すぎてしまうと感じることもあるが、この根幹がぶれていないからこそSFUの音楽はどんなシリアスな内容を孕んでいても極上のグルーヴ・ミュージックとして鳴っているのだと思う。
 今作では米軍基地移転問題で話題となった辺野古と、パレスチナ難民問題が大きな軸となっている。どちらも複雑で難しい問題だが、それらが「海へ行く」や「辺野古節」という楽曲に集約されることで見事にポップミュージックとして昇華されている。さまざまな地域や国の間で起こる衝突や問題に対し、彼らはどちらが正しいという観点で動いていない。彼らが焦点を当てるのはそういった問題の中で虐げられる弱き民であり、忘れられようとしている民俗文化である。今作のタイトルである「カンテ・ディアスポラ」とは「離散した歌」という意味なのだそうだ。紛争や衝突の中で離散した民族の音楽を自らの中に取り込むことこそがSFUSFUたる意義なのかもしれない。
 聞くたびにそんな理屈を考えつつも、曲が粒揃いでアレンジも絶妙なこのアルバムは聞いていても楽しい。曲数が多くて長いと感じる部分もあるが、じゃあどこを削ればいいかと言われても削れる場所がない。ここ数年の彼らは出すアルバムにハズレがない。SFUにとっては彼らの活動の中でもひとつの決定盤となりえる作品だと思う。