無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

AC/DCだョ!全員集合。

Black Ice (Dig)

Black Ice (Dig)

 僕は子供の頃土曜日の夜は「8時だョ!全員集合」を見ていて、それが徐々に「ひょうきん族」に移っていった。当時はドリフのワンパターンなお笑いがつまらないと思ったし、ひょうきん族の方が新しく刺激的だったのだ。それが、今になってひょうきん族のDVDや再放送を見てみると当時ほど興奮しないし、笑えなかったりもする。その笑いの要素には確実にあの時代の時事的なムードを反映したものがあって、時代が違うと笑いどころも変わってしまい、何かズレたような印象を与えてしまうのだと思う。それが、ドリフの場合は逆に今の方が面白いと思えてくる。「全員集合」のDVDを見ていても腹抱えて笑うことがある。次に何が起こるかわかっていても笑ってしまう。綿密な計算と練習量に裏打ちされたワンパターン、「お約束」の強さである。
 AC/DCの8年ぶりの新作が素晴らしいのは、まさにドリフのコントに通じるものだ。シンプルで力強いリフに、わかりやすい歌詞とコーラス。そしてそれを支える鉄壁のアンサンブル。AC/DCAC/DCたらしめてきた王道の要素がそのままで磨き抜かれている。今回は曲作りを入念に時間をかけて行ったらしいが、確かに捨て曲・つなぎの曲のようなものは無い。クライマックスがずっと持続するような、テンション高い興奮が矢継ぎ早に襲ってくる。そんな中、珍しいアンガスのスライド・ギターが聞ける「イナズマの五月(Stormy May Day)」がちょっとしたアクセントになっている。
 プロデュースはブレンダン・オブライエン。個人的に彼はロックギターを最もカッコよく聞かせるプロデューサーの一人だと思うのだけど、アンガスのギターリフにまさにずっぱまりである。この組み合わせが今まで無かったのが不思議なくらいだ。一念岩をも通すというが、まさに岩(ロック)を貫いた王道。キャリア30年以上の大ベテランがここに来て過去の名作に匹敵するアルバムを作ってしまうのだから恐れ入る。あと、アルバムタイトル『悪魔の氷』をはじめ、収録曲の邦題はすべてギターウルフ・セイジ氏がつけている。これも往年のAC/DCの(というか、洋楽の)ムードを醸し出していていいと思う。