無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

「みんなのうた」と「彼らのうた」。

OASIS JAPAN TOUR 2009
■2009/03/22@真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
 オアシス、とうとう北海道初上陸。と言っても、僕の記憶ではデビューしてすぐくらいに札幌公演の予定があったのだけど、兄弟喧嘩か何かでキャンセルになったことがあったと思う。当時学生だった僕はかなりがっかりした記憶がある。それ以来、東京で働いていた時も見たし札幌からわざわざ東京まで見に行ったこともあるけれど、地元でオアシスクラスのバンドの来日公演が見れることは最近ではめったに無いので札幌公演が発表されたときは驚いたし、嬉しかった。
 北海道出身のThe Homesicksが前座を務め、約30分後、18時50分を回ったあたりで「Fuckin' in the Bushes」のSEをバックにバンド登場。メンバー4人のほか、キーボードにはおなじみのジェイ・ダーリントン(元クーラ・シェイカー)、そしてザック・スターキーが抜けた後のドラマーはクリス・シャーロックという人。あまり聞いたことが無いのだけど、ロビー・ウィリアムスのバックで叩いていたりした人らしい。ちょっとつんのめる感じのドラムだが、オアシスには合っている印象だった。
 1曲目はいきなりの「ロックンロール・スター」。基本的には、新作の曲をところどころ散りばめつつ、その他はこれぞオアシスという代表曲を出し惜しみ無くぶつけると言う、非常に王道ど真ん中のセットだった。そして以前の曲は1枚目・2枚目が大半で、3枚目・4枚目からは1曲もなし(「Fuckin' in the Bushes」はSEだからノーカウント)という、ベスト盤『ストップ・ザ・クロックス』の選曲のように偏ったものだった。しかしそれはつまりファンの誰もが聞きたいオアシスのヒットナンバーを素直に選んだ結果でしかないのだ。この割り切った感がとても気持ちがいい。そして、リアムもノエルも「どうせ昔の曲が聞きたいんだろ?」とひねた感じでやるのではなく、ストレートにぶつけている感じがした。それはおそらく満足の行く新作が作れたことによるのだろう。更に言うと、最近の来日公演では聞けなかった昔の曲も多かった。最近のインタビューでリアムがかなり節制してまた声が出るようになったと言う話があったが、それによって一時はできなかった曲がまた演奏できるようになったのかもしれない。そのリアムは髪を短く刈り込んで非常に精悍な顔立ちになっているように見えた。
 バックのスクリーンには基本的に新作の曲のときはジャケットのようなサイケデリックなモチーフを使ったオリジナル映像が用いられ、昔の曲の時はメンバーの映像が映し出されていた。「シガレッツ&アルコール」などおなじみの曲はもちろんだが、「ザ・マスタープラン」や「スライドアウェイ」など生で聞いたことあったっけ?くらいの曲が聞けたのはうれしかった。「モーニング・グローリー」では一気に会場の温度が上がったような感じすらした。新作の曲はレコーディングとは違い、ライブ用に楽器のアレンジもいろいろと変わっていたようだが、ノエル、アンディ、ゲムの楽器隊がそれぞれ楽器をチェンジしつつサウンドを作っていた。観客のリアクションとしては昔の曲の方が大きくなってしまうのは致し方ないが、じっくり聞いて引き込まれるという意味では新作曲の方がかなり奥行きがあって興味深いサウンドになっていた。新作の曲はじっくり聞いて、昔の曲は大声で歌うという、見る側のリアクションがパキっと分かれるのが面白い。それだけ、オアシスが新作で到達した新しい音が以前の「みんなのうた」であったオアシスとは違う地平にあるということなのだろう。こうしてライヴで一列に並べてみるとそれがよくわかる。本編最後は「ワンダーウォール」から「スーパーソニック」という必殺の流れ。
 アンコール、リアムなしで出てきたのだけど、ノエルがおもむろに弾き語りを始めたのは、なんと「ホワットエヴァー」!この札幌公演の前にはやっていなかった曲だ。これは嬉しいサプライズ。「テレビでCM見たからやろうと思ったんじゃないか」なんて意見も聞いたけど、実際のところはどうなんだろう。確かに、海外よりも日本で特に人気の高い曲ではあるし。そして「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」ではノエルはサビを観客に任せてくれた。当然、声が張り裂けんばかりに歌う。ラストは「シャンペン・スーパーノヴァ」でウルウルきたところに「アイ・アム・ザ・ウォルラス」で締め。一時期はやらなかったが、デビュー時からオアシスのライブの最後と言えばこのビートルズナンバーのカヴァーだった。往年のヒットナンバーとライブの構成、それを惜しげもなくここで出し切ると言うのは、繰り返しになるけれどもやはり新作で新しい扉を開けたという実感があればこそなのだろう。オアシスがオアシスであり、時代の頂点に立ったのは彼らの作った曲が「みんなのうた」として世界中のファンが歌うことで消費されていったからだ。しかし、新作の曲は観客が歌うことで生命を与えられるような類のものではない。あれはオアシスの、バンドのものなのだ。「彼らのうた」なのだ。僕たちはそれを「鑑賞」することしかできない(少なくとも、この日はそれしかできなかった)。10年前くらいのオアシスのアルバムがパッとしなかったのは「みんなのうた」と「彼らのうた」がどっちつかずで綱引きをしているような時期だったのだ、と今になってみると思う。彼らがやりたいことをやり、僕たちも聞きたいものが聞ける。今のオアシスのライブはそんな最高のバランスが実現しているのではないか。僕は過去98年の武道館、2000年の横浜アリーナ、2002年の代々木体育館と見てきているが、今回の公演が最も素晴らしかったと思う。

■SET LIST
1.(SE)Fuckin' in the Bushes
2.Rock'n'Roll Star
3.Lyla
4.The Shock of the Lightning
5.Cigarettes & Alcohol
6.The Meaning of Soul
7.To Be Where There's Life
8.Waiting for the Rapture
9.The Masterplan
10.Songbird
11.Slide Away
12.Morning Glory
13.Ain't Got Nothin'
14.The Importance of Being Idle
15.I'm Outta Time
16.Wonderwall
17.Supersonic

18.Whatever
19.Don't Look Back in Anger
20.Falling Down
21.Champagne Supernova
22.I Am The Walrus