宿命の声。
- アーティスト: Antony & The Johnsons
- 出版社/メーカー: Secretly Canadian
- 発売日: 2009/01/20
- メディア: CD
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この音楽は悲しい。哀しい。しかし、決して絶望してはいない。それは、アントニー自身が音楽に救われ、音楽によって生を与えられたことを実感しているからだ。アントニーという人の孤独が何によってもたらされているのか、僕には想像することしかできない。しかし、この声があるから私は世界と繋がっていられるという、そんな孤独な魂への救済が、この音楽に神々しいまでの輝きを与えているのではないかということはわかる。もちろん、この音楽を聞いた孤独な魂がそれだけで救われるものでは無いが、一筋の光明を与えてくれるものであることは確かだろう。母親のように温かい包容力を持っているように感じられることがそれを示している。
この声は孤独であり、唯一無比の響きを持っている。音楽に救われ、この声で音楽を鳴らさなければならない宿命を持った声だ。安易な連帯を拒否し、自分を見失わず世界と対峙する声だ。ジャケットは100歳を超えてなお活動し続ける舞踏家・大野一雄の写真である。まさしく、本作のジャケットに相応しいと思う。そしてこの声はどんなに温かく優しくとも、厳しさと激しさを同時に内包している。こんな声の持ち主を一人思い出した。ジェフ・バックリィである。彼もまた音楽に救われ、そして音楽に殉じた一人の孤独な魂であった。