無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

すっぴんのプライド。

チャットモンチー  顔to顔ツアー
■2010/05/20@札幌ファクトリーホール
 カップリング集『表情』のリリースに伴うツアーで、選曲もカップリングのみ、という変則的な内容になっている。そのため、通常のチャットモンチーのライヴとしては小さめのハコが選ばれている。札幌ファクトリーホールはZeppよりは小さく、スタンディング1000人程度のキャパだ。カップリングのみというツアーの性格上、集まるのはコアなチャットモンチーファンが多いということになる。とはいえ一見さんお断り的な空気に全くならないのはバンドのキャラクターによるものだろう。
 『表情』を改めて聞いてみてわかったが、カップリングとは言えいい曲があまりに多い。シングル曲には必然的に注目がいくしアルバムにも収録されることになるが、カップリングもそのまま見過ごされるのはもったいない曲がたくさんあるのだ。しかも、表の顔であるシングルではなかなかできない実験的な試みや大胆なアレンジが行われていたりもするのでなかなか侮れない。当たり前だが、カップリングの曲にも彼女達がシングル同等の熱意と愛情を注いで曲を完成させているのが伝わってくる。こういう曲たちに改めてスポットライトを当ててやろう、と思うのはよく分かる。MCでも福岡晃子は「カップリングだけでもちゃんと楽しませられるって事を証明したかった。ええ曲作ってきてよかった。」というようなことを言っていたと思う。ただ、カップリングもデビュー当時のものから最近のものまで幅広いわけで、その中で彼女らのバンドとしての成長が感じられるような気がするのが面白い。
 ライヴの中盤では各地でご当地ソングコーナーを設けていた。観客から地元にちなんだキーワードをもらいそれを歌詞に使い、その場で曲を1曲作ってしまうというものだ。キーワードのテーマは「B級」。カップリング=「B面」に引っ掛けてのことらしい。なんというか、ゆるゆるな思いつきをそのまま実行してしまうチャットモンチーらしさがほほえまし過ぎる。お題をもらうときのやり取りもほんわかしたもので、まったりと見ていたのだけど、曲を作るときの3人のやり取りが非常に興味深かった。お遊び企画ではあるが、きちんと曲を完成させるという意味でのプレッシャーはそれなりにあるし、瞬間的にすごく真剣な表情になるのだ。「コードはメジャー?マイナーにする?」「ここコーラス入れよか」「2小節ごとに上のハモ重ねてく?」「え、ちょっと待ってそこ何回繰り返すん?」「そこタイミング分からん」「あ、最初は演歌チックに始まるねんな」「ここまで1回おさらいしよか」などなど、ステージ上3人の世界の中で着々と形ができていく。もちろんもっとシリアスなものではあるだろうけど、実際の曲作りというのもこういう雰囲気で行われているのか、と言うものを垣間見ることができたように思う。と同時に、ちょっとした恥ずかしさも感じてしまった。例えば、初めて彼女が家に来て料理を作ってくれてるときのような「ああ、こいつのこんな顔見るの初めてだな」みたいな感じといえば分かるだろうか。ヤバい、かわいいぞチャット。札幌でできたのはこんな曲。題して「すし券5000円分」。狙い通り、いかにもB級な曲ができた。

地球岬で マルヤマン ぽつり×8
木村洋二も 増毛で ぽつり×8
奥さんセイコーマートでお絵かきですよ ぽつり×8
おつり×repeat to end

 アンコール、「不思議なもんで、カップリングばっかりやっとったら今度はシングルの曲がやりたくなってくるんよ」と晃子。「お前らの聞きたい曲やったるわー!」と「Last Love Letter」に。大歓声。本編のコンセプトがあまりにも明快な分、アンコールは本当にサービスという感覚だったと思う。続く「シャングリラ」で盛り上がりはピークに達した。久美子がサンプリングドラムでいろんな音声や効果音が出るのがお気に入りのようで、晃子のMCのたびにちょっかいを出していた。そんなほのぼのとした雰囲気の中、曲に対しては真剣に、プライドを感じさせるライヴだった。カップリングだけとはいえ、物足りなさは感じることはなく、むしろチャットモンチーというバンドのすごさを改めて感じさせるようなライヴだったと思う。

■SET LIST
1.愛捨てた
2.RPG
3.手の中の残り日
4.湯気
5.小さなキラキラ
6.春夏秋
7.ドッペルゲンガー
8.片道切符
9.すし券5千円分(ご当地ソングコーナー)
10.迷迷ひつじ
11.意気地アリ
12.コスモタウン
13.Y氏の夕方
14.リアル
15.Good luck my sister!!
16.バスロマンス
17.three sheep
<アンコール>
18.Last Love Letter
19.シャングリラ
20.推進力

 ちなみに、『表情』の歌詞カードには曲ごとにオリジナルの歌詞メモが印刷されている。ほぼそのままのものもあれば大幅に修正されているものもある。曲のアレンジの部分ではそのプロセスを今回のご当地ソングコーナーでちょっとだけ垣間見ることができたが、歌詞の方でも当然、曲を詰めていく中でいろいろと推敲されていくのだろう。『表情』と今回のツアーで、チャットモンチーの素顔がより深くはっきりと見えたような気がした。

表情<Coupling Collection>

表情